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私の居場所だったのに

真っ暗な廊下に明かりのついた教室が一つ。ひなたは自分の席に座り、以前幸村から貰った部室の鍵を握りしめていた。


『どうしよう』

柳に図星を指され逃げ出した後、自分の鞄が部室にあることを思い出し、家にも帰れず部室に戻るのも気が引ける。なので、部活が終わるまで教室にいることにしたが、もう部活は終わったのだろうか。

不意に廊下から此方に向かってくる足音が聞こえ、思わず身構える。しかしガラリと音を立て教室に入ってきたのは、きのちゃんだった。

「ひなたちゃん」

『き、きのちゃん』

何を言われるのだろうか。どこに行ってたの?それとも、マネージャーは私だけでいいから貴女はやめろ?
きのちゃんに何か言われるのを恐れて私はギュッと目を閉じる。


「良かった。心配したよ」

『……へっ』

きのちゃんから出た言葉は想像していなかったものだった。顔を上げると心配そうな顔をしている。さっきの私は何てことを考えていたのだろうか。いつの間にこんな黒い感情を持つようになっていたんだ。

「部活終わったし部室に戻ろう?」

『う、うん』

心の中で謝りながらきのちゃんの後ろをついていく。




********************


部室の鍵をポケットから取り出しガチャリと閉める。もう辺りは薄暗く少し恐怖を覚える。きのちゃんを見ると鞄を抱きしめて辺りを警戒しながら歩いている。すると急に鳥の鳴き声が聞こえ、横から「ひっ!」という小さな悲鳴がした。よろめいたきのちゃんは私に軽くぶつかる。

『大丈夫?』

「……うん。ごめんね」

暗い道を二人で歩く。私の所為でこんな時間になってしまったのだから申し訳ないな。そういえば何で待っててくれたのだろうか。

『あ、あの……きのちゃん』

「どうしたの?」

『何で教室まで来てくれたのかなって……そのこんな時間になっちゃったのに』

「えー、そんなのひなたちゃんが友達だからだよ。部活の途中でいなくなったからずっと心配してたの」

『ごめんね、ありがとう』

「ううん」

本当にこの子はとても良い子だ。私もこんな風になれたら良いのに。

「ひなたちゃんってさ、どうやってこの世界に来たの?」

『えっ、あぁ……大学生になる前の春のある日、寝て起きたらこの世界に来てたの』

「そうなんだ。何でここに来たかは分からないんだよね」

『うん。きのちゃんは?』

「私も寝て起きたらって感じかな。……元いた世界が嫌いでテニプリの世界に行きたいと強く願ったの」

きのちゃんの声のトーンが低くなったので、顔を向けると笑顔はなく無表情だった。

『で、でも分かったことが一つあるんだよ。自分が別の世界から来たということが皆にバレれば、ここにはいられなくなる……と思う』

「そうなんだ。ずっとここにいたいし協力して頑張ろうね」





次の日の放課後、ジャージに着替えてドリンクの用意をしていると、部室に柳が入ってきた。昨日私が大声で叫んで逃げ出したまま一言も話していないのでとても気まずい。

柳には気付いていないふりをして私はボトルに水を入れる。恐らく私がいることに気づいているであろうが、声が掛かることはなかった。話しかけられても気まずいが、これはこれで寂しい。


一人で考え込んでいるといつの間にか来ていたきのちゃんに声を掛けられた。

「ひなたちゃんドリンク作ってもらってごめんね。ちょっと委員会で遅れちゃって」

『大丈夫だよ。委員会お疲れ様。じゃあタオルの準備してくるから、きのちゃん用意してて』

「うん!」

タオルの準備や部員と一緒にコート整備をしているとジャージに着替えたきのちゃんがコートまで小走りでやって来た。

「コート整備代わるよ」

『ありがとう』

部室に戻りドリンクを持って再びテニスコートへ向かうと、既にきのちゃんは部員達に囲まれていた。

「ひなた!ドリンク持ってやるよ」

『わっ』

後ろから赤也に声をかけられ持っていたボトルを取られた。

『ありがとうございます』

「いいって。にしても水無月だっけ?あいつすげぇ人気だな」

『はい』

「まぁ美人だもんなー」と言う赤也の言葉にそっぽを向いて頬を膨らませると、笑って頬を突かれた。

「そういえば柳先輩と喧嘩してんの?」

『……』

「昨日ひなたが部活の途中でいなくなったの気付いて探しに行こうと思ったら、先輩に止められてさ。何かすっげーしょんぼりしてたぜ」

『すいません』

「早く仲直りしろよ」

『……はい』

柳がしょんぼりしているなんて事あるのだろうか。しかし昨日の件に関しては全面的に私が悪かった。早く謝って普通に話したい。


練習が始まってから私は柳にどう話し掛けようかずっと考えていた。無意識に柳をジッと見ていたらしく、横にいたきのちゃんに「ひなたちゃんって柳先輩が好きなの?」と聞かれ頭をぶんぶんと横に振った。

休憩時間になりきのちゃんと一緒に皆にドリンクを渡す。……が、何故かレギュラー達の反応が悪かった。表情を歪めている。

『あ、あの……』

「これ、咲本さんが作ったの?」

『えっと、はい。味、変ですか?』

「……うん」

幸村そう言われ透かさず近くにあったドリンクに口をつける。

「ちょっ、それ俺のだぜぃ!間接キッ『どうして……』」

「ひなたちゃん、昨日から様子がおかしいからちょっと分量間違えちゃっただけだよ。冷蔵庫に冷やしてあるドリンクがあるから私持ってくるね」

『ご、ごめ……ん』

「咲本、体調が悪いなら今日の部活は休め」

真田に言われ私はこくりと頷くことしか出来なかった。コートから部室に向かうときのちゃんとすれ違う。「後は任せて」と耳元で言われ自分の唇を噛んだ。


部室で制服を着替えコートを見ると仲よさげにしているきのちゃんとテニス部員。あぁ、この前までは私の……。




私の居場所だったのに


(どうして……)

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