騒がしい休日
今日は土曜日で学校が休み。そして珍しく部活がなく、ゆっくりできる。とは言っても平日は遅くまで部活をしていたため、そろそろ買い物に出かけないと冷蔵庫の中が空っぽだ。他にも棚や収納グッズが欲しい。先週は跡部主催のスーパーテニスフェスティバルに行き、楽しかったが忙しかった。今日は久しぶりにのんびり出来るお出かけだ。
中学生だから化粧はやめておこうと思って普段は全く化粧をしていなかったが、今日はしようと思う。トリップしてからの初化粧だ。服や髪にも気をつかって出かけよう。
商店街に行くと人集りができ、賑わっていた。何かあるのだろうか、と背伸びをしてみるが全く見えない。分かるのは漫才をしているような声が聴こえるくらいだ。
見るのは諦めようと元の道に戻ろうとしたら、体がふわりと誰かに持ち上げられた。
『ぅわっ!』
「これで見えると?」
聞いたことのある声と方言。顔を下に向けると、四天宝寺の千歳千里が此方を向いて首を傾げていた。長身の千歳に体を持ち上げられているため、周りの人が目を見開いている。
『おっ、おろして……』
「ひなたちゃんやないの〜」
小春の声が聞こえそちらを見ると、漫才をしていたと思われる所に小春とユウジの二人がいた。さっきの漫才は二人がしていたのか。
私はまだ千歳に脇の下に手を入れられ持ち上げられたままだ。下ろしてと言っているのに、千歳は子供のように私の体を左右に揺らす。恥ずかしくなり顔を下に向けると、足が地面についた。やっと下ろしてもらえた。
「ひなたちゃんに会えるなんて嬉しいわ。ね、ユウくん」
「えっ、そ、そんな事ないわ!俺は小春がおれば十分や」
相変わらずラブラブだなぁ、この二人。と思ったら小春がユウジの頭をハリセンで叩いていた。意味がわからないのだが。
「咲本、他の皆見やんかったと?」
『えっと、見てない……です』
「実は四天宝寺の皆と神奈川に観光として来たんやけど、皆とはぐれてしもてねぇ。困ってるんよ」
「この辺りはいっちょん分からんけん、一緒に探してくれると嬉しか」
正直めんどくさいけど、以前四天宝寺には世話になっているし、他の人達を探すのに協力しよう。
『じゃあ……協力、します』
「しゃあないから一緒に探させたるわ」
『……やっぱりやめておきます』
「う、嘘や!嘘!」
慌てるユウジを見てもっと虐めたくなる衝動を抑える。買い物は四天宝寺の皆を見つけてからで良いかと思い、人通りが多い場所に足を進めた。
ゲームセンターに誰かいるだろうと行ってみると、読み通り財前がいた。財前の周りには誰もいないので一人だと思われる。
「光きゅんはっけーん」
「あ、先輩ら」
「こんなとこにいたんかいな」
「まぁ。で、何で咲本がおるん?」
『……えっと』
「さっきそこで会うたばい」
「他の人らはどうしたんですか?」
「それがまだ見つからんのや」
「メールすればいいやないですか」
「でも皆場所言うて分かるやろか。大阪やったら学校とかグリコ前に集合で通じるんやけどねぇ」
「じゃあそこら辺探したらすぐ見つかるんとちゃいます?うっさい人ばっかやし」
私を含めた五人は四天宝寺の迷子になっているメンバーを探す事になった。
歩いていると何故か突然横からスッと差し出された手。横を見ると財前が無表情で私を見ていた。
「スマホ」
……スマホ?
疑問を浮かべながらポケットからスマホを出すと、財前にスマホを奪われた。
『なっ!?』
「はい、メアド登録しといたで」
『かっ、勝手に……』
「ええやんええやん。後で先輩らに送っとくわ」
『嫌です!め、メアド、消して……く、下さい』
「まぁまぁ」
財前のスマホを取ろうと頑張るが簡単に避けられる。口を尖らせていると、ふと何処からか視線を感じた。辺りを見るとユウジが私と財前の方を睨んでいて、私と目が合った瞬間ハッとした表情をして目を逸らされた。
ユウジにどうしたのか声を掛けようとした瞬間、知っている声が耳に届いた。
「金ちゃんが勝手にあっちこっち行くから皆とはぐれてもうたやんか」
「せやからさっきから謝ってるやんかー!」
どこぞの母と子供か。とりあえず白石と金ちゃんも見つかったので良かったとしよう。
「ちゃんと自分で皆探すっちゅーねん!しらいしのアホー」
「こら!俺らまで はぐれるやろ」
二人を見つけたと思えば二人とも遠くへ走って行ってしまった。
「蔵リーン!待ってぇな〜」
「俺らは此処におるばい」
二人の後を追って小春と千歳まで行ってしまい、私と財前、ユウジの三人が残ってしまった。
「小春ー!!」
「行ってしまいましたけど、どうします?他の人ら探しますか?」
「せやなぁ……。謙也や銀さんも探さんとなぁ」
私達はまだ見ていないメンバーを探すことになったが、見つけたとしても小春達と合流出来るかが心配だ。
『今日、買い物できるかなぁ……』
騒がしい休日
(ユウジ先輩も咲本のメアドいります?)
(はっ!?そ、そんなんいらんわ)
(メアド交換してる時にめっちゃ見てたやないですか)
(気のせいや!)
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