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勧誘しましょう

「ひなたちゃーん」


部活の休憩中に誰かに呼ばれたと辺りを見渡せば、きのちゃんがテニスコートのフェンスの外から此方に手を振っていた。

ドリンクやタオルは配り終えていたのできのちゃんの元へと走った。


「ひなたちゃんのマネ姿だー」

『う、うん』

「テニス部のジャージかっこいいね」


『ありがとう。……あ、えっと、部活決まりそう?』

「そうだなぁ。特に入りたい部活とかはなかったかな」

『そっか』


きのちゃんと話していると、きのちゃんの視線は私の後ろを向いていたので後ろを向くと柳生が此方に向かってきていた。


「咲本さん」

『はい』


「幸村君が呼んでいましたよ。……おや。咲本さんの友人ですか?」

『あ、はい』


「水無月綺乃です。今日ひなたちゃんのクラスに転入して来て、ひなたちゃんとお友達になったんです」

「三年の柳生比呂士と言います。よろしくお願いします、水無月さん」


にこりと微笑む きのちゃんに、頭を下げ礼儀正しく挨拶をする柳生。きのちゃんは誰とでも仲良くなれそうな気がする。


そういえば何か忘れてるような……あ、確か幸村君に呼ばれてるんだったよね。


『私幸村先輩のところに行ってきます』


「そうでしたね。では私も」

「あの柳生先輩」


幸村君の方へ走りだす。きのちゃんと柳生はまだ話していたようだった。


部活日誌をジッと見ていた幸村君を見つけ、後ろから声を掛ける。


「あぁ、咲本さん。少し話があってね」

『はい』


「実はもうすぐ大会が始まる季節なんだ。そこで、練習試合を普段より多く組む予定をしていて、マネージャーの仕事も今よりもっとキツくなると思う」


そうなんだ。そろそろ忙しくなるんだなぁ。首を縦に振ると幸村君は言葉を続けた。


「レギュラー以外の部員に君と一緒に仕事をさせるかそれとも新しくマネージャーを増やすかなんだけど、咲本さんはどっちがいいかな」

『あ、えっと……』

「部員にマネの仕事を手伝わせるのもいいけど、咲本さんの性格を考えれば一緒に仕事をするのは、同姓の方がいいかなって」


確かに慣れてない男子と仕事をするのは、とてもやりにくいかもしれない。女子の方が私的には良いかもしれないけど、ファンクラブの人達や気のきつそうな子だったら嫌だな。


「咲本さんはどっちがいい?」

『女子の方が……』

「そうか。了解」


そして幸村君はレギュラーの皆に集合をかけ、他の部員には練習をしておくように言っていた。


「どうしたんスか?」

「少し報告があってね。これから試合が多くなってマネの仕事が今まで以上に多くなる。咲本さんの負担を減らす為にマネージャーを一人増やそうと思うんだ」

「ほぅ。しかし幸村。真面目に働くマネージャーなどいるのか」

「それはまだ分からない」


「ひなたの友達は?」

ブン太が私を見て「誰かいねぇの?」と首を傾げる。友達友達……チーちゃん!


「咲本が海野を誘おうと考えている確率68%。そして海野は家庭が忙しく部活に入る時間がない確率79.9%」

『……』


何故分かった。チーちゃんの名前を出そうとしていた口を閉じ、もう一度マネージャーが出来そうなクラスメートを頭の中で探す。



「水無月さんはどうですか?」

皆の視線が柳生に集まる。そうか、きのちゃんまだ部活決まってなかったんだよね。


「誰ぜよ」

「昼に会っただろぃ。すっげぇ美人の女子」

「えっ。美人なんスか!?」


「水無月 綺乃。今日咲本のクラスに転入してきた女子だ。性格は明るく運動神経は良いが勉強は苦手」

きのちゃんとまだ会っていないというのに、ペラペラとデータを言う柳。やっぱりこの人怖い。


「咲本さんはどうだい」

『とても良い子だと思います』

「じゃあその子をマネージャーに誘おうか」


きのちゃんか……。今日会ったばかりだけど悪い子ではなさそうだし。上手くやれるといいな。


「ちゃんと仕事をするやつだといいが」

「そうだな。まだデータも揃っていないから何とも言えないな」

「咲本が良い子だって言うんだから大丈夫だとは思うけどな」


「じゃあ咲本さん、明日誘っておいてくれるかい?」

『はい、分かりました』


私は明日、きのちゃんを男子テニス部へ勧誘することになった。




勧誘しましょう


(何故か胸騒ぎがする)


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