増えていく
(仁王side)
「仁王、これから暇かい?」
「?暇やけど」
「じゃあ一緒に尾行しようか」
「?」
部活帰りに珍しく幸村から声が掛かり、尾行しようかと言われ戸惑う。スタスタと歩いて行った幸村の背中を見つめながら少し考えるが何の事だかさっぱりだ。
しかしきっと面白いに違いない。そう思い俺は口角を上げ幸村の後について行った。
「誰の尾行をするんじゃ?」
「……やっぱりか」
会話が成立していない。幸村の視線をたどるとそこには丸井と咲本が話していた。
「あの二人がどうかしたんか?」
「ミーティング後のブン太、急いで部室から出て行ったんだよね。妙にハイテンションで」
「それで何かあるに違いないと」
そう聞くと幸村はこくりと頷き二人の方へ視線を戻した。
二人にバレないよう尾行していると、向かう先はケーキ屋でしかも氷帝の芥川と待ち合わせをしていたようだった。
三人がケーキ屋に入ったのを見届け、幸村に自分達はどうするのか尋ねるとケーキ屋に入るという答えが返ってきた。
男二人では非常に入りづらいがここは入るしかない。顔が引きつるのを抑えケーキ屋に入る。
中に入ると店員がどの席に座っても良いと言うので、咲本達の声が聞こえるかつ死角になるところに座った。
「俺達も食べようか」
「おん」
咲本達がケーキを取り、席で食べている間にケーキを取りに行く。
ケーキ屋に入って三十分程経っただろうか。幸村はケーキを食べながら咲本や丸井の方を凝視していた。そこまで見なくとも何もないだろうと、ジュースを飲みながら目を向けると、丸井が咲本を見て笑っていた。
「すいません」
「は、はい!何でしょうか」
横を通りかかった店員に幸村が声を掛ける。その行動に首を傾げながら見ていると幸村は咲本達の席を指差しながら言葉を続けた。
「あそこの赤髪がいる席の人達が店員さんを呼んでましたよ」
「そうでしたか!ありがとうございます」
尾行しているため直接的な接触は避ける。幸村は店員を使って丸井と咲本の邪魔をしようと考えたようだ。
……面白い。
それならば自分もとことん邪魔をしてやろうと、鞄を持ってトイレへ向かった。
「待たせたのぅ」
「?……もしかして仁王?」
「そうじゃ」
老人の姿に変装してきた自分に目を丸くする幸村。大変愉快である。
「へぇ、すごいね」
「ちょっと邪魔してくるぜよ」
口角が上がるのを我慢し、咲本達の元へ近づく。ケーキを選ぶ咲本に異常に距離が近い丸井。
「おぉっと、ごめんよー」
「わわっ」
「なっ!」
咲本とブン太の間に割り入りケーキを取る。咲本は一瞬驚いた顔をし、顔を赤くしたままホッと息をついていた。対して丸井はムスっとしていたが、予想通りで作戦成功である。
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ケーキ屋を出て先程と変わらず尾行をしていると、後ろから柳に声を掛けられた。事情を説明すると「面白い。俺も協力しよう」と後をついて来た。
尾行するメンバーが俺、幸村、柳の三人に増えたところで、咲本達はゲーセンに入って行った。
「ふむ、ゲームセンターか」
「あ、赤也」
幸村がゲーム中の赤也を見つけ声を掛けると「珍しいメンバーっスね。何か怪しい事でもしてるんスか?」と聞いてきたので、透かさず幸村が赤也を殴っていた。赤也の言っている事は割かし間違いではないが癇に障ったので自分も幸村に続いて殴っておいた。
赤也にも事情を説明すると、自分も参加すると言ったので尾行メンバーが四人に増えた。仲間が一人ずつ増えていくので、きびだんごはないがどこかの昔話のようだ。
ゲームセンターで数十分遊んだ後、本屋から出てきた柳生を発見した。咲本や丸井、芥川は尾行されていることにまだ気付く様子がないので普通に後をつけているだけで良かったのだが、柳生にばれては元の子もない。それぞれ物陰に隠れて注意を払うが、柳生は丸井達との会話中に此方に気付いたようだ。
柳生は三人と別れ此方に足を進める。無表情のまま眼鏡を光らせているので何か誤解されているのではないかと疑問を持つ。
「尾行してるのは分かっています。早く姿を現しなさい」
溜息を吐きながら四人とも姿を見せると、柳生は目を見開いた。そして柳生も溜息を吐いた。
「丸井君達の後をつけているなんて、何をしているんですか?」
「柳生も参加するかい?」
幸村がまた事情を説明すると、柳生は意外とノリ気で「私も参加します」と言い出した。予想外で驚きである。
次に丸井や咲本達は映画館に入って行った。何を見るのかと思えばラブストーリー。流石に男五人では気が引けるので近くのカフェで時間を過ごしたが、氷帝の跡部と忍足が丸井達と同じ映画館に入って行ったのは嘘だと思いたい。
数時間経つと、丸井達は映画館から出てきたので赤也を叩き起こして五人で尾行を再開した。
すると何故か逃げる跡部や忍足を芥川が追いかけて行き、丸井と咲本もそれに続く。
俺達も仕方なく追いかけたのであった。
増えていく
(実は尾行してたぜよ)
(気付かんかったじゃろ)
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