ゲームをやって映画を見て
ケーキバイキングでケーキを沢山食べた後、私達はゲームセンターに来ていた。
「丸井君うまEー!」
「へへっ、だろぃ」
ブン太とジローはUFOキャッチャーに夢中。私も何かしようかな、なんて二人のそばから離れゲームセンター内をうろついていると、見慣れたモジャモジャ頭を発見した。
「んあー!何で勝てないんだよ」
どうやら格闘ゲームで苦戦中のようだ。必死にゲームをしていて周りが見えていないため、勿論後ろから近づいて来る私には気付かない。
……驚かそうかな。
どんな反応をしてくれるかワクワクしながら、音を立てないようにしながら赤也に近づく。
「やっべー!ゲームしすぎた。先輩達に怒られる!」
『えっ、』
突然赤也は立ち上がり勢い良く振り返る。そして真後ろに立っていた私と「ドンッ」と音を立ててぶつかる。
「うわっ!!」
『っ!!』
二人とも体勢を崩し音を立てて地面に体をぶつけた。
「わりぃ、アンタ大丈夫か?」
『は、はい』
赤也は私の後頭部が地面にぶつかる直前に守ってくれたようで、特に痛いところはない。強いて言うなら腰の辺りが少し痛いだけ。
「……って、ひなたっ!?」
『え、はい』
赤也は目を見開き私から飛び退く。押し倒されたような状態から解放されて胸を撫で下ろした。
「真後ろにいたら危ねぇだろ!声かけろっての」
『すっ、すいません。お、驚かせたくて……』
「おどろ……?ぷっ、今回だけ特別に許してやるよ」
『……どうも』
馬鹿にしたように軽く吹き出されてイラっとくるが我慢する。
「あっ!!」
『?』
「じゃっ、じゃあな!ひなた」
いきなり大声を出したかと思えば、急いでこの場から去って行った。
……何だったんだ。そういえばさっき先輩に怒られるとか何とか言っていたような。誰かと一緒に来てるのかな?
「ひなた!」
『はい?』
「一人でふらふらすんなよなー」
『あ、すいません』
ぼーっとしていると後ろからブン太に声をかけられ軽く説教された。ブン太の後にジローもついて来ていて、沢山の景品を持っていた。
「見てみてひなたちゃん!丸井君こんなに取ったんだよ〜」
『わ、わぁ』
「天才的だろぃ」
『いや、取り過ぎ……』
ゲームセンターを出て商店街を歩いていると、丁度本屋から出て来た柳生を見つけた。
「柳生じゃん」
「おや?奇遇ですね。三人でショッピングですか?」
「ケーキバイキング行ってきたとこだぜぃ」
「そうでしたか。……?」
『どうしました?』
「……いえ何でもありません。では私はここで失礼しますね」
柳生の視線に一瞬違和感を覚えたが、いつも通りの態度で去って行ったので気にしないでおく。
「次は映画がEー!」
「絶対寝るだろぃ」
「A!寝ないよ〜」
「しょうがねぇな、ひなた行くぜぃ」
『はい』
映画のチケットを買い映画館へと入る。何を見るのかとチケットを見れば、ラブストーリーだった。
『え、これ見るんですか?』
「他は小さい子供用のアニメかグロいのだったからよ、ひなたもいるしちゃんと選んでやったんだぜぃ」
『あ、ありがとうございます』
何か気を遣わせてしまったみたいだな。申し訳ないや。
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「ぐー……」
『……寝てる』
「上映してまだ五分だろぃ」
私はブン太とジローの間に座らされたのだが、ジローは映画が始まって早々寝てしまった。もうぐっすりと。
ブン太が呆れ顔で溜息を吐くが、表情を緩めていている。
『先輩って……』
「ん?」
『丸井先輩っていつもは誰かに頼ってるイメージがありますけど、今日はしっかりした兄って感じですね』
「んー、そう見える?」
『まぁ』
「ひなたがそう言うならそうかもなー」
ブン太は腕を頭の後ろで組む。表情は周りが暗くて見えないが怒っている感じではなさそうだ。
「ひなたって柳しか見てないと思ってたからさ、俺のこともちゃんと見ててくれたんだな。……そう思うと照れるな」
『あ、やっ柳先輩はお母さんですし……』
私って周りから見たらそんな柳、柳って言ってるのかな。恥ずかしいな。そしてブン太が照れるとか言うから私も照れるじゃん。
それから二人とも話さなくなり真剣に映画を見ていた。
不意に急に肩が重くなり横を見ると、寝ているジローが私に寄りかかり私の肩に頭を乗せていた。
『…………』
「すー、すー」
ぐっすり眠ってるみたいだし、しょうがないから肩を貸してあげよう。
ーーガタガタッ!
後ろの方で何か音がした。ポップコーンでも落としたのかな。まぁよくあるよね。
そして映画が終わり三人で映画館から出る。
「ごめんね〜、ひなたちゃん。肩借りてて」
『あっ、いえ』
「そんなに俺寝てたかな〜?」
「もうぐっすり寝てたぜ」
「はずかC〜。……あれ?」
ジローが何かに気付き、ジローの視線を辿ると跡部と忍足が映画館から出てきた。
……ってことは私達が見ていたラブストーリーの映画を二人も見ていたってこと?
「あとべー!」
「あかん、跡部。気付かれてもうた」
「チッ。逃げるぞ」
ジローが声を掛けた瞬間、二人は焦った顔をして走って逃げ出した。ジローは頭にクエスチョンマークを浮かべながら二人を追い掛ける。そして何故かブン太は私の手を掴み、ジローを追い掛ける。
状況が把握できないまま、私達の鬼ごっこが始まった。
ゲームをやって映画を見て
(咲本も走って行ったぜよ)
(しょうがない。俺達も追いかけよう)
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