甘い甘い
今日の部活はミーティングだけで、いつもより早い時間に終わった。のんびり帰っていると後ろから走ってくる音が聞こえ後ろを振り返る。
「ひなたー!」
『?』
「これから暇だろぃ?ちょっと付き合え」
『え、えぇー……』
確かに暇だけどさ、何に付き合えばいいんだろう。
「じゃじゃーん!これ見てみろぃ。今日限定のケーキバイキング割引券!」
『わぁ』
「行くしかねぇよな」
『は、はぁ』
割引券をひらひらさせながら私の手首を掴みハイテンションで進むブン太。夕方からケーキバイキングって。確かにお腹は空いているけどそんなに食べれないってば。それに行くって言ってないし……。
『私、行くなんて……』
「?前に行くって言ったぜぃ」
『えっ』
「ほら、氷帝との練習試合の日に。芥川もいたよな」
『…………あ!』
確かに美味しいケーキ屋に一緒に行こうと誘われて頷いた気がする。
「ちょっと離れた所なんだけどよ、めちゃくちゃ美味いからひなたも食べてみろぃ」
『はい』
ブン太が本当に美味しそうに話すので、ケーキバイキングが楽しみになってきた。ついでに言うとお腹も減ってきた。
少し歩くとケーキと書かれた看板が目についた。ケーキ屋の前には少し人集りが出来ていて聞き覚えのある声が耳に入った。
「うわー!美味しそー!!」
……ジローだ。
ガラスに張り付いて外から中の様子を見ているようだが、独り言が大き過ぎて周りから注目を浴びている。
「あ!!おーい、丸井くーん!」
こっち向いて手を振るなぁぁあ!!大勢の人の冷たい目線がこっちに向けられるじゃないか。
「もう来てたのかよ」
人の目なんて気にもせずにジローの方へ進むブン太。溜息を吐きブン太の後ろに隠れながらついて行く。
「楽しみ過ぎて早く着いちゃったんだよね〜」
「早過ぎだろぃ。俺も楽しみだけどよ」
か、可愛い……!二人とも目をキラキラさせてまるで天使っ!!見てるだけで癒される。
「ひなたも連れて来たぜぃ」
ブン太がくるりと体を後ろに向け、私の前にジローが立ち目が合う。
「まじまじ!?ひなたちゃんだー!来てくれてうれC」
『えっと、こ、こんにちは』
ぺこりと頭を下げ、そしてブン太を先頭に店の中へと入る。中には沢山の客と美味しそうなケーキ。
「いっぱい食うぞー!」
「おー!!」
『お、おー……』
「これとこれと……これだろぃ」
「じゃあ俺も〜」
『……うっ』
ケーキバイキングを開始して早三十分。既に腹八分目状態の私に対し、ケーキをお皿いっぱいに乗せてくる二人。
「ひなたもう食べねぇの?」
『お腹いっぱいです……』
「まじまじ!?俺まだ食べれるC」
二人の胃袋はどうなってるんだと二人の食べる姿を見ていると、不意にブン太と目が合いぷっ、と笑われた。
『な、なんですか?』
「口の周りにクリームついてるぜぃ」
ククッと笑いながら私の顔へ手を伸ばすブン太。緊張してどうする事も出来ず固まる。
「お待たせいたしました。ご注文をお伺い致します」
『っ!』
いきなりの店員さんの登場に驚いて軽く飛び上がる。
「芥川が呼んだのかよ?」
「A?呼んでないよ〜」
『?』
呼んでいない店員が来て三人の頭の上にクエスチョンマークがとぶ。
店員さんも私達と同じ反応をしてこの場から去り、私は口の周りについていたクリームを拭き取った。
「よーし取りに行くぞぃ」
「俺も行くー!」
「ほらひなたも」
皿を持たされ三人でケーキを取りに行く。もうお腹いっぱいだし少しだけ取って行こう。
「これ俺のおすすめな」
右後ろから私の前にあるケーキを指差すブン太。後ろから抱き締められているように思ってしまうのは私の勘違いだろうか。どちらにしても距離が近い。
「おぉっと、ごめんよー」
『わわっ』
「なっ!」
私とブン太の間に割り入りケーキを取る年寄りのお爺さん。ブン太を見ると口を尖らせていたが、先程の状態から逃れられて安心する。
「ひなたちゃん!これもおいCよ〜」
『あ、はい。た、食べます』
ケーキを何種類か取り席に戻る。……が先程のお爺さんが此方をジッと見ていることに気付いた。私がそちらに目を向けるとお爺さんはハッとしたように顔を背けケーキを取っていた。
もしかしてさっき私とブン太が邪魔だったから怒ってるのかな。……だとしたら怖いな。
ストンと椅子に座るとブン太とジローも戻ってきて腰を下ろした。
それから数十分、皆で話しながらケーキを食べた。私はケーキを見ると気分が悪くなるほどに。もう当分ケーキは食べたくない。
ケーキ屋から出て解散かと思っていれば、そうではなかったようで寄り道をすることになった。
この時の私はまだ知らなかった。私達がまさか尾行されていたなんてーーーー
甘い甘い
(早く行くぞぃ)
(次はどこに行くの〜?)
(……お腹いっぱい。苦しい)
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