新たな出会い
バスケの決勝戦は立海が勝利を遂げた。応援するのは良いものの、試合は恐ろしかった。
幸村君は一歩も動かず、更に五感を奪おうとしていたし、真田は迫力がすごくて真田を相手出来るのは樺地ぐらいしかいなかった。赤也は赤目になって身体能力がずば抜けて良くなり一人で点数を稼いでいた。
氷帝の人達がとても可哀想だった。
「ひなた! 勝ったぜ」
此方を向き、ニカッと笑う赤也につられて私も笑い、おめでとうございます! と返事をする。
ブン太やジャッカルも、おめでとう! と声を上げる。
三人は表彰台に乗り祝福された後、着替えに行くのか控え室に戻って行った。
「次は私達全員ですね」
「プリ」
「咲本、次は一時間後だ。俺達は行かなくてはならないが適当に時間をつぶしておけ」
『あ、そっか。……了解です』
「じゃあ行ってくるな」
「応援よろしく頼むぜぃ」
『頑張ります!』
手を振り皆を見送った後、一人ぽつんと席に腰を下ろす。
一時間、何しようかな。何処か行こうか……いやでもなぁ。
「ここの席空いてるか?」
『わぁぁぁ!!』
「うわっ!?」
いきなり話しかけられたからすごい大声を上げてしまった。恥ずかしい……。声を掛けた人の顔を見ると、どこかで見たことのあるような顔。
「座るぜ?」
『あ、はい!ど、どうぞ』
ストンと私の二つ隣に座る男性。どこで見たんだろう。というか誰かに似てるような……。
『あっ!!』
「?」
越前リョーマ!そう、リョーマに似てるんだこの人。大人リョーマだ。チラチラとその人を見ていると彼は口を開いた。
「俺達どっかで会ったか?」
『あっ、いや、そういう……わけでは』
相手に聞こえているか分からないくらいの声でそう言うと、彼は何を思ったのかオレンジを私に差し出した。
「食うか?」
『え、ありがとう……ござい、ます』
お礼を言いながらチラリと彼を見ると、オレンジを皮ごと丸かじりしていた。
『ま、丸かじり……』
「ん?美味いぜ」
『……』
オレンジを丸かじりするなんてしたことない。ましてや皮ごと食べたことがない。
お、美味しいのかな。彼は先程から良い音を立てオレンジにかぶりついている。……私もやってみるか。
ーーがぶっ。
ーーーーブシャッ!
『ん"!』
勢いよくオレンジにかぶりついたのは良いものの、オレンジの汁が目に向かって飛んできた。自分でもバカなことをしたと思う。
『〜〜っ!!』
痛い、痛いよ!目がぁぁぁあ!!
「ぶっ!何してんだよアンタ」
この失態を気付かれない様に必死に耐えていたが、どうやら無意味だったようだ。
「出来ねぇなら真似しなくてもいいんだぜ」
『!……で、出来ます』
そしてオレンジにかぶりつくが、先程と同じ結果。
「わはは!アンタ負けず嫌いだな。そういうの嫌いじゃないぜ」
『……どうも』
馬鹿にされているようで気に食わない。皮ごと食べることは諦め、渋々皮を剥いてオレンジを食べる。
「アンタ名前は?」
『…………山田花子、です』
「くくっ」
嘘がばれているのか、彼は手で口を覆い隠して笑いを堪えているように見える。しかし名前を聞き出そうとはしなかった。
「俺は越前リョーガ」
『え、えち、ぜん』
リョーマと同じ苗字だ。やっぱり兄弟か親戚なのかな。
『弟とか、いますか?』
「あぁ。いるぜ」
『……越前リョーマ?』
「何だチビ助と知り合いか」
ち、チビ助……。リョーマはお兄さんにそう呼ばれているのか。今度リョーマに喧嘩売られたらそう呼んでやろう。
「咲本ひなたさん。咲本ひなたさん。至急ドーム内のアナウンス場所に来て下さい」
不意に放送で名前を呼ばれた。この声桜乃ちゃんの声だ。アナウンスしてる場所って何処だろう。観客席から身を乗り出し下を見渡すと、桜乃ちゃんと朋ちゃんが此方に手を振っているのが見えた。
アナウンス場所に向かおうと観客席の階段を上ると「なぁ!」と後ろから声をかけられた。後ろを振り返ると、口角を上げたリョーガがまた新しいオレンジを手に持っていた。
「また会おうぜ、咲本ひなたさん」
『!……会わないと、思い、ます……けど』
「きっとまた会うさ。人生何が起こるか分からねぇからな」
ニヤリと口角を上げオレンジにかぶりつくリョーガ。私は顔が緩むのを見られないようにリョーガから顔を背け、また階段を上った。
********************
『す、すいません。お待たせ、しました』
「咲本さん!」
『あ、えっと……何か』
「私達、次の競技の実況するんだけど咲本さんも一緒にどうかなーって」
『えっと、でも私実況とか苦手で……』
「じゃあ横に座って一緒に見ましょ」
『う、うん!』
一緒に見る人ができて良かった。一人で応援するなんて寂しかったからね。さっきはリョーガがいたけど。
よし、応援頑張るぞ!
新たな出会い
(まさかリョーマの兄に会うなんて)
prev / next