ハンバーグを作る
皆さん、突然ですが緊急事態です。
部活が終わり家に帰宅すると、何やら音がしまして……灯りをつけて家の中を見渡すと何とアレが家にいました。
アレですよ!アレ!!
言いたくないんですよ!分かって下さい。
奴です!あのカサカサと動く物体!!
奴を見た瞬間リビングから直ぐに出てドアを閉めた。
『どうしよう……』
私は勿論だけど奴を退治出来ない。でも夜ご飯を作って食べないといけないし、リビングは絶対に使う部屋。
だ、誰か……
『お母さん……いやいや家遠いし』
家の近さを考えると、幸村君に助けを求めるしかない。でも何て言えば良いんだろう。
悩んでいるとドア越しからまた奴が動く音が聴こえ、即座に幸村君の家に向かった。
「ピンポーン」とインターホンを押すとドアが開き幸村君が顔を出した。
家族の人じゃなくて良かった……。
「咲本さん?どうしたんだい」
『助けて下さい!!や、奴が……』
「え、奴?」
『あのその……奴です!』
「……えぇっと」
『こうで、こうなって……カサカサって!』
「あ、もしかして」
身振り手振りで伝えると幸村君は分かってくれたようだ。そして口元に手を当てクスクスと笑い出した。
「ふふ、それで俺に助けを求めに来たわけか」
『うー、はい』
「そうだなぁ。どうしようかな」
『えぇ!』
この流れだと退治しに来てくれると思ってたのに、どうやら違うみたいだ。それに少し馬鹿にされている気がする。
「今日うち家族がいないんだ」
『え、はい』
「咲本さんが夕飯作ってくれるなら助けてあげてもいいよ」
そしてにこりと微笑む幸村君。ま、眩しい。
でも夕飯作るのと奴を自分で退治するのとを考えると断然……
『夕飯、作らせていただきます』
********************
幸村君は新聞紙を片手に私の家のリビングへと足を踏み入れる。
「あれ?いないよ」
『多分、何処かにいるはずです』
奴を見つけるために私もリビングに入ると、あの嫌な音が聴こえて思わず幸村君の後ろに隠れた。
「いるね……」
『はい……』
そして奴の姿を見つけ幸村君にあそこだと伝えた瞬間、奴が此方に向かって飛んできた。
『い、いやぁぁぁ!!』
「……死角はない!」
そう言って幸村君はラケットを振るように丸めた新聞紙を振り、奴を打った。しかも開いていた窓の隙間を狙い打った為、奴は外へ飛んで行った。
流石王者立海の部長、としか言えない。
「よし、じゃあ俺の家へ行こうか」
『はっ、はい』
まるで何もなかったかのような切り替えだな。
そして幸村君の家にお邪魔する。家の外から見てもそうだったが、やっぱり広い。
「冷蔵庫の中好きにあさっていいよ」
『えぇ……何が食べたいですか?』
「うーん。温かいものかな?」
『えー、ハンバーグはどうですか?』
「うん。ハンバーグいいね。……あ、エプロン持ってくるよ」
エプロン必要なのかな。私は普段使わないからなぁ。
そして使う食材を用意していると幸村君がエプロンを片手に自分もエプロンを着て戻ってきた。
「はいエプロン。あれ、この量二人分?」
『えっ、誰か帰ってくるんですか?』
「君の分だよ。夕飯まだだよね」
『はい。えっと、いいんですか?』
「勿論。一緒に食べようよ」
『……嬉しいです』
「ふふっ、いつでも俺の家に夕飯食べに来ればいいのに」
渡されたエプロンを着て夕飯の支度を始める。横にいる幸村君を見ると、ニコニコと微笑んでいたのでどうしたのか聞いてみる。
「俺も何かすることない?」
『えーと、じゃあハンバーグに添える野菜お願いします』
「うん了解。何かこうやって話していると新婚夫婦みたいだよね」
『ブッ!……げほげほっ』
恥ずかしいことをさらりと言うので思わず噎せてしまった。
「ふっ、そんなに慌てなくても。あ、野菜お皿に乗せたよ」
『じゃ、じゃああっちで座ってて下さい!』
「ふふ、りょーかい」
顔が熱い。からかうのも程々にしてほしい。
椅子に座り此方に顔を向けて微笑む幸村君。何かさっきの言葉、意識しちゃうじゃないか。
数十分後、夕飯の支度を終えお皿を運ぶと幸村君から喜ぶ声が聞こえた。
「うわぁ、嬉しいな。美味しそう」
『お口に合えば良いんですけど……』
そして二人で「いただきます」と言ってハンバーグを口にすると、美味しかった。きっと食材が私が買ってくる物よりも高値の物だからだろうな。
「美味しい……」
『良かったです』
幸村君の口に合って良かった。誰かにご飯を作るのなんて久しぶりだし、それに誰かと夕飯を食べるのも久しぶり。素直に嬉しい。
今日は奴が現れて大変だったけど、こうやって幸村君と食事をするなんて思ってもみなかった。
ハンバーグを作る
(今日はありがとうございました)
(こちらこそ。またうちにおいで)
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