目を見て話す
この間の件から数日が経ち、私は平和で平凡に暮らしていた。
噂で聞いた話だが江崎とその彼女は山吹中へ転校し、そして転校初日にヤンキーにボコられたという。
……私は何も知らない。
寧ろ知ってしまったら駄目な気がする。
廊下でぼーっと突っ立っていると、スマホが振動しメールがきた。
差出人:仁王雅治
本文:
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そろそろ部活に顔出さんの?
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そういえば私、マネージャーだったんだ。すっかり忘れてた。
宛先:仁王雅治
本文:
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今日行こうと思います。
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メールを返信すると、仁王からのメールはこなくなった。なんやかんやで仁王にも迷惑かけたよなぁ、私。
放課後になり立海ジャージを着て部活に行くと、赤也の姿を目にした。すごく久しぶり見た気がする。
「あっ、ひなた。久しぶりだな!……じゃあな!」
『えっ』
私に気付いたと思えば赤也は軽く挨拶をしてすぐにテニスコートへと走って行ってしまった。
何だよなんだよ、折角の久しぶりの部活だっていうのに。
ドリンクを作りに部室に向かうと、今度はブン太とジャッカルを見つけた。
『あの、お、お疲れ様です』
「お!ひなた!お疲れぃ」
「お疲れ。今からドリンク作りか?頑張れよ」
そう言ってテニスコートに向かう二人だが、前と比べどこか素っ気ない。というか、話す距離が異常に遠かった。
「む、咲本。部活に来たのか」
「今日来る確率は昨日より少し高かったからな。予想はしていた」
真田と柳から声を掛けられる。何か動きが不自然な気がするんだけど。若干ギクシャクしているような。
「では頑張れよ、咲本」
そして真田と柳もテニスコートに行ってしまった。いつもの柳なら私の頭をポンと撫でてくれる。……いやいや期待はしてなかったけど!!
うーん、何か寂しいなぁ。皆私をあからさまに避けてる感じ。
「咲本、来たんか」
『あ、仁王先輩。は、はい』
「今日からまたよろしくお願いします」
『はい』
「咲本さん、頭の上に葉っぱが付いていますよ」
『えっ?』
柳生が私の頭に手を伸ばそうとした時、仁王が柳生の肩を掴んだ。そして柳生も何か思い出したような顔をして、手を引っ込めた。
「右の方に付いてます」
柳生はニコリと微笑み、自分の頭に指を指し場所を教えてくれる。
私は頭の上の葉っぱを取り、下を向いて部室に向かった。
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ドリンクを作りコートに行くと、皆は練習をしていてちょうど休憩に入るところだった。ドリンクを持って来た私に、幸村君が近づく。
「あ、咲本さん。ドリンクありがとう」
『いえ』
「俺の分くれるかな?」
『は、はい。どうぞ』
「……あ、やっぱりベンチに置いてくれていいよ」
『えっ?』
何でそんな行動をとるの?私、何かしたっけ?
『……私、何かしましたか?』
「え?」
『もういいです!!』
「咲本さん!?」
沢山のドリンクを置いてテニスコートから離れるように走った。
もうやだ。泣きそう。何で皆私のこと避けるの?私が部活休んでる時に何かあったの?
なんで……何でーーーー
「咲本さん、ごめん!!」
部室の方へと走りながら階段を上っていると、後ろから幸村君が大声で謝った。幸村君の周りを見ると、レギュラーも揃っていて皆申し訳なさそうな顔をしている。
『……っ、皆あからさまに避けるし私に部活やめてほしいならそう言えばいいじゃないですか!!』
そして走って部室に入る。制止の言葉が聞こえたが無視する。ガチャンと部室のドアを閉めて鍵もかける。するとすぐにレギュラー達は部室のドアを叩いた。
「咲本、今から言うことをちゃんと聞け」
『……』
「この間合ったことを全てレギュラーに話したんだ」
この間の……江崎の件か。
「お前は元々異性を苦手とする。しかしあの男のせいで更に異性が苦手になってしまったのではないかと、勝手に思い込んで皆に話してしまったんだ」
「気を遣ってしていた俺達のあからさま過ぎる変な行動で、反対に君を傷つけてしまったんだね」
次々に皆の謝罪の声が聞こえる。……別に私は皆に謝って欲しいわけじゃない。前みたいに普通に接してほしいだけ。
「咲本、部活やめんなよ」
「そうだぜぃ。お前程良いマネいねぇだろぃ」
ドア越しに聞こえる皆の声。そんな弱々しい声で話しかけられると泣きそうになるじゃないか。
『……私、テニス部にいてもいいですか?』
「うん」
『……普通に接してくれますか?』
「あぁ、そうするつもりだ」
ガチャリとドアを開けると、皆の笑みが視界全体に入ってくる。
『レギュラーなんだから、早く練習戻らないと駄目ですよ』
「えっ、あぁそうだね。皆行こうか」
「何か変わったっスね。ひなた」
「フッ。ようやく本当の自分をさらけ出すようになったか」
「えらい時間かかったのぅ」
目を見て話す
(やっと俺達にも慣れてくれたのか)
(嬉しいな)
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