皆の助けで
(幸村side)
咲本さんにジャージを渡した次の日から咲本さんは部活に来ていない。それに金曜日は学校を休んでいたみたいだし、体調でも悪いのだろうか。
そして土日の部活から柳と仁王がどこかおかしい。何か問題を抱えているかのようだ。
「(もしかして咲本さんが関わっているんじゃ……)」
そこで柳に咲本さんに何かあったのかと聞こうと月曜日の部活前に柳の教室に行くと、反対に咲本さんが少しの間部活に来れないと言われた。
「学校には来ているんだよね?」
「あぁ。だがこの間から体調が優れないみたいでな」
「そうなんだ」
まぁマネージャーの仕事も結構体力を使うし。と納得しようとしていたが、どうも柳の態度がおかしい。本人は平然ぶっているつもりでも、気持ちが落ち着いていないのが感じられる。
今は深く聞かない方が良さそうなので聞かないでおこう。でも俺も調べさせてもらうよ。
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昼休みすぐに教室を出ると、柳と仁王も廊下に出ていて早足で何処かへ向かう。二人を追いかけると一年の教室に着く。
「(やはり咲本さんのところか)」
そして後ろから早足で自分を抜かした一人の男子。その男子は咲本さんの教室に入っていく。よく見るとクラスメイトの江崎だ。
江崎に気が付いた咲本さんの顔は恐怖にゆがんでいた。あの二人は顔見知りで、そして仲が良いとは言えない関係。
江崎は咲本さんを好いていて咲本さんは江崎を嫌っているように見える。
そして江崎はいきなり咲本さんの髪を触り頬を撫でる。
「(あんな事したら咲本さんが……!)」
尽かさず助けに行こうと足を踏み出したが、少し前にいる仁王も俺と同じ行動をとろうとしていたようで、柳に止められていた。
どうして助けてあげないんだ、柳。いや、しかし柳にも考えがあるのだろう。
でもね、ここまで知った以上俺も黙ってはいないよ。俺もこの件に関わらせてもらう。
いつの間にか柳達は咲本さんの友達と話していて、咲本さんの友達は去って行った。
思い詰めた顔をしている柳と仁王の後ろから声を掛ける。
「やぁ」
「っ!」
「ゆ、幸村……」
驚いた顔をする二人の予想通りの反応。
「俺も協力させてもらおうか」
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『はぁ……』
チーちゃんが私のせいで三年の人にあんな事言われるなんて。本当女子って怖い。
……あれ、何でチーちゃんが怒られるの?あの人達が江崎を応援しているから?
昼休みになり、チーちゃんと昼御飯を食べようとすると教室に三年の女子二人が入ってきた。そしてチーちゃんに近づき、一人が口を開いた。
「海野さん、ちょっといい?話があるんだけど」
「……いいですけど」
『え、チーちゃん……』
「ちょっと行ってくるね、ひなたちゃん」
そう言ってチーちゃんと三年の女子は教室を出て行った。
怖い……どうすればいいんだろう。
"「友達が嫌がっている姿を見て放っておくなんて無理に決まってる」"
朝、チーちゃんが言っていた言葉だ。……そうだよね、私もしっかりしなきゃ!
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「だからそういうところがウザいのよ!」
「私達の言うことをちゃんと聞いていればそれでいいの!!」
中庭の物陰でチーちゃんは三年の先輩にビンタされ蹴られていた。
『っ!!チーちゃん!』
ーーーーーーガシッ
走り出そうとした瞬間私は誰かに腕を掴まれた。振り向くと江崎がいた。
「ひなたちゃん。早く俺のこと好きになってよ……」
そう言って江崎は私の腕を引っ張り、江崎と私の距離が近付いた。
『ひっ!や、やだ』
「やめんか……」
『っ!』
「早く咲本を離さんと、いい加減キレるぜよ」
「お前、テニス部の仁王……」
これまでに見たことのないくらい怒っている仁王は私から江崎を離れさせた。
「男嫌いが酷くなるような行動ばかりして、お前さんの目的は何じゃ」
「俺はただひなたちゃんが好きなだけだよ」
「まだしらを切るつもりなんか。お前さんには彼女がいることはもう分かっとる」
『えっ』
「江崎和也、お前の事は調べさせてもらった」
後ろから柳の声がしたと思ったら、チーちゃんも一緒だった。先程チーちゃんを虐めていた先輩達もいて、気まずそうな顔をしていた。
『チーちゃん!!』
「ひなたちゃん……」
『ごめん!ごめんね……私何も出来なくて』
「ううん、いいよ。全然痛くなかったし。それに、友達の為だもんね!」
『チーちゃん……!!』
「……チッ」
江崎は舌打ちをしてここから去ろうとしたが、そうはいかなかった。何故なら、江崎の前には幸村君が黒いオーラを出して立っていたからだ。
そして幸村君の隣には一人の女子が。
「ふふっ、君達カップル揃って良い度胸してるよね」
状況を途中から掴めなくなった私に仁王と柳が説明してくれる。
「あの男の彼女がテニス部に近付く咲本が気に食わなかったらしくてのぅ。咲本の男嫌いを良い事に自分の彼氏を使って、近付いてきたんじゃよ」
「江崎はお前に過度のスキンシップをとってきただろう?それも作戦だったという訳だ。海野を虐めていた三年の女子もこの作戦に協力していた」
自分の彼氏が他人にベタベタするのを見て何も思わなかったのかな。私は彼氏なんていたことないから、よく分からないけど。とりあえず状況は掴めた。
「ひぃ!許して!幸村君」
「ゆ、幸村。本当に悪い事をした!」
「俺に謝ってどうするんだい?君達が虐めたあの子達に謝らないと意味ないでしょ。謝っても許さないけど」
今回の件の犯人である、このカップルは私とチーちゃんに謝り目に涙を溜めて走って行った。
「解決、だな」
「良かったナリ」
「はぁー、全く。鬱陶しいカップルだったね」
『う、うん』
皆の助けで
(何とかこの問題は)
(解決したようです)
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