データは揃った
「部活は少しの間休んでいい。部員には体調不良だと伝えておく」
『すみません』
「気をつけて帰れよ」
放課後、柳が私の教室に来た。私と話す距離も遠いし、素っ気ない態度なのは気のせいなのだろうか。かと言って今は異性が近付くだけで拒否反応を起こしてしまうし、有難いが少し寂しい気もする。
それに部活を休んでいいらしいのでとても助かる。でもいつまでもこのまま、と言うわけにもいかない。早く異性に慣れないと……。
晩御飯の食材を買おうとスーパーに向かう。しかし私の嫌いな男が後ろから声をかけてきた。
「ひなたちゃん!今帰り〜?」
気づかないフリ気づかないフリ……。
すると江崎は横に並んだかと思いきや、いきなり肩を組んできた。
ーーーーゾワッ。
「聞いてよー。ひなたちゃんっ」
『……だ、れか』
「んー?」
誰でもいいから……助けて、
「オイ」
『!?』
「テメェ、何してんだ」
『亜久津、さん……』
「……誰?君」
「テメェこそ誰だ。こいつに何か用か?あ"ぁ?」
「……チッ、何でもないさ。じゃあまた明日ね、ひなたちゃん」
亜久津を睨み付け私には笑顔を向けて去って行った江崎。やっぱりあの人怖い。
「ひなた」
『あっ、えっと……すいません』
亜久津が何故ここにいたのかは分からないが、声をかけてくれて本当に助かった。
「誰だアイツ」
『同じ……学校の』
「テメェ、アイツの事苦手だろ」
『え?な、何で』
「ひでぇツラしてたんだよ」
酷かったってそれはそれで酷いなぁ。実際辛かったから合ってるんだけど。
「今から家帰んのか?」
『えっと……スーパーに』
「チッ」
『えぇー……』
何で舌打ちされたの。スーパー行っちゃ駄目なのか?
「ついて行ってやる」
『えっ、でも』
「何も反応すんじゃねぇぞ。さっきの男まだ近くにいるんだよ」
『ぇ……』
そうだったのか。ストーカーなのかなあの人。亜久津がこの場から去ったら、また近づいて来るってこと?
……それは嫌だ。迷惑かけるかもしれないけど、一緒に買い物してもらおう。
『あ、あの。迷惑じゃ……なければ』
「あぁ?いいっつってんだろうが」
『はい』
優しいのは分かってるんだけど、いちいち怖いんだよなこの人。
********************
結局亜久津と買い物をして、その上家まで送ってもらった。すごく申し訳ない。途中ヤンキーに絡まれたりしたが、亜久津の目付きの悪さでそのヤンキーも逃げて行った。
『その、ありがとうございました。今日』
「別に気にしてねぇ。それより連絡先教えろ」
『えっ。は、はい』
いきなり連絡先教えろなんて言うから驚いた。メアドと電話番号を交換すると、亜久津は「また今日の奴に絡まれたら言えや」と言って早足で去って行った。
本当優しいな、あの人は。
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次の日、チーちゃんに「おはよう」と声を掛けると疲れているのかいつもの元気はなく、挨拶が返ってきた。
『チーちゃん?どうしたの?』
「え、いや〜。うーんとね……うん、なんでもない!!」
『えっ?』
私と目を合わせずに教室を飛び出して行ったチーちゃん。何かあったのかな。
そしてチーちゃんと入れ替わるようにやって来た江崎は、私の名前を呼びながら手を振って近づいて来る。
しかしチーちゃんが気になるので、江崎を無視してチーちゃんが走って行った方へ追い掛ける。
中庭にいたチーちゃんを見つけ、声をかけようとするが他にも人がいることに気がついた。
「あんたよねぇ。和也の邪魔してる女ってのは」
「……何の事ですか?」
「しらばっくれてんじゃないわよ!和也と咲本ひなたの邪魔をしておいて」
私……?和也ってもしかして江崎の事?
チーちゃんは三年の先輩数人に囲まれている。
「ひなたちゃんは嫌がってます。それに男子が苦手なんです」
「はぁ?それぐらい知ってるわよ」
「じゃあ別に「煩いわね!アンタは和也の邪魔をしなければそれでいいのよ!!」……無理です」
「は?今何て言ったの?」
「ひなたちゃんは私の大切な友達です。友達が嫌がっている姿を見て放っておくなんて無理に決まってる」
『チーちゃん……』
チーちゃんはすごい。数人の先輩に一人で立ち向かっていけるんだもん。私なんて、精神年齢は皆より上なのに柱の影に隠れていることしか出来ない。友達が私の為に頑張ってくれているのに。
「はぁ?あっそ」
「まぁ別にいいけど、あんた明日から学校来れなくしてあげるから」
そう言って数人の先輩達はチーちゃんの元から離れて行った。
何もしてあげられなくてごめんね。私はこんなに守ってもらってるのに。本当弱い人間だ。
そして、私の知らないところで一人呟いている人がいた。
データは揃った
(、と)
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