友達という存在
大きく息を吸い教室のドアを静かに開ける。
すると、クラスの皆は私を見て挨拶をした。私も挨拶を返そうとするとチーちゃんが心配そうな顔つきで近づいてきた。
「ひなたちゃん!大丈夫だった!?」
『え、何が?』
「木曜日、四時間目からずっと教室戻ってこなかったし金曜日は休むしで私すっごい心配してたんだよ!!メールもしたのに!」
『えっ!ご、ごめん。メール見てなかった』
「うーん、まぁいいんだけど、体調は大丈夫?」
『うん。ありがとう』
お礼を言うとチーちゃんは少し黙って、今度は小声で話しかけてきた。
「もしかして江崎先輩が原因?何かされたの?」
『……えっと、「こらー、お前ら席につけ〜」……あ、うん。また』
担任の先生がいきなりドアを開け私の後ろから入ってきた。チーちゃんは複雑な表情をしながら席に着き、私も荷物を置きイスに腰を下ろした。
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「ひなたちゃーん。久しぶりだね〜」
一時間目が終わり休憩時間になると、江崎はやってきた。ニコニコと笑いながら近づく江崎に後ずさる。
すると横にいたチーちゃんに腕を引っ張られた。
「ひなたちゃん、次移動教室だから早く行かないと」
『あ、うん』
「えー!まだ時間あるし大丈夫だって」
「すいません江崎先輩。私達先生に実験の準備頼まれてて……」
「……ふーん、そっか。じゃあまたねひなたちゃん」
そう言って江崎は教室から出て行った。ホッと息を吐くとチーちゃんが背中をポンと押した。
「やっぱり江崎先輩が原因で学校休んでたんだよね」
『……うん。何かあの人怖くて』
「私が一緒にいる時は私が守ってあげるからね!」
『うぅ。ありがとうチーちゃん!!』
チーちゃんの優しさに泣きそうになり誤魔化すために抱き付いた。「私ってば優しいー」なんて言いながら頭を撫でてくれるところがまたいい。良い友達をもったなぁ、私。
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(柳side)
「あいつだな」
「そうみたいじゃのぅ」
「三年C組江崎和也。帰宅部。制服を着崩していたり授業をよくサボる為、先生に目をつけられている」
「C組って言ったら幸村と同じクラスじゃけぇ」
廊下の曲がり角に身を隠し、咲本の教室を見に来た俺と仁王。すると犯人はすぐに突き止めることが出来た。
土曜日に仁王から咲本の話を聞いた時は驚いたが、咲本が江崎に対して恐怖を抱いているなら江崎を離れさせなければならない。
これ以上男嫌いになられてはこちらもどうすることも出来ないからな。
「どうするんじゃ、参謀」
「そうだな。もう少し様子を見ることにしよう」
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昼休みになり咲本を見に来ると、またしても江崎が咲本の前でニコニコと微笑んでいる。
咲本は江崎から目を逸らしながら、早くこの場から立ち去りたいと言うオーラが出ている。
そして江崎の行動に俺は目を疑った。咲本の髪を触り、頬を撫でている。咲本は怯えていて今にも泣きそうだ。
「っ、何しとるんじゃ。あいつ」
「待て。仁王」
仁王が咲本の元へ助けに行くのを止め、様子を見てみる。すると咲本の友達が咲本の元へと走って行って、何か話している。そして咲本の腕を引っ張り廊下に向かう。
「行くぞ、仁王」
「……おん」
二人が廊下に出て来る前に俺達は見えないところへ移動する。俺はその時の江崎の顔を見逃さなかった。
「参謀。咲本に声かけんのか?」
「あぁ、今は行かない方がいいだろう」
「あの」
「「!?」」
いきなり後ろから声をかけられ振り向くと、咲本の友達。
「今咲本と最も仲のいいクラスメイト、海野(うみの)千栄(ちえ)だな」
「はい。柳先輩達、休憩時間いつもひなたちゃんを見に来てましたよね」
「ばれていたのか」
「まぁ、女子の目線とかで……」
「それはそうと、咲本を江崎から守ってやっているようだな」
「先輩達は……ひなたちゃんの事守ってあげないんですか!?」
「……」
「今、俺達が行っても咲本は怖がるだけだ」
「っ、でも!」
「すまない。もう少し様子を見させてくれ。江崎がどういう意図で咲本に近づいたのかデータが必要だ」
「……はい、お願いします。じゃあひなたちゃん待ってるし、失礼します」
「海野も無理はするな」
「はい」
そして海野は咲本がいるであろう場所に走って行った。
「良い友達ぜよ」
「そうだな。しかし彼女も危ないな」
「?どういう意味ぜよ?」
「海野は江崎から咲本を遠ざけている。それもその行動があからさますぎる」
「……じゃあ」
「あぁ。注意して見ておかなければならないな」
友達という存在
(早くデータを集めなければ)
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