調査は進む
無断で部活を休んでしまった次の日、私は学校を休むことにした。
何でこんなに弱いんだろう。それに男が苦手なんだろう。別に男に対してトラウマを抱えているわけではない。幼い頃から男が苦手だったのだ。
昨日、柳に酷い事しちゃったな。それに仁王にもお礼を言えていないままだ。
するとインターホンの音が聞こえた。……誰だろう。また柳かな?何にせよ男だったら出るのはやめておこう。
インターホンの画面を確認すると、綺麗なお姉さんが立っていた。え、誰。何の用だろう。
玄関のドアをガチャリと開けると、美人さんは私に笑顔を向けて「こんにちは」と挨拶をした。
『えっ、はい。こんにちは』
ニコニコと笑顔を向けて次の言葉を発しないので私から聞くことにした。
『何か、御用でしょうか?』
「申し遅れました、私仁王雅治の姉です」
『えっ!は、はい』
仁王のお姉さんが何故私の家に。もしかして昨日ブレザーを屋上から落としたから(私じゃないけど)お姉さんが家まで怒りにきたのか!?
「少し貴女とお話がしたいの。上がらせてもらってもいい?」
『はい、どうぞ!』
怖いよー!にこやかに微笑んでるけど裏ではすっごい怒ってるんだよね。
リビングに案内して仁王のお姉さんにお茶を出す。
「ありがとう」
『いえ』
仁王のお姉さんはお茶を一口飲み、そして私をじっと見つめ真剣な顔つきに変わり口を開いた。
「昨日何かあったのね」
『え?』
「弟がとても心配していたわ。初対面の私だけれど、同性なら楽に話せるんじゃない?」
『えっ、と』
「……。あ、両親はお仕事?」
『いえ。……いないです』
「え……そ、そうなの」
暫くの沈黙。やっぱり言わない方が良かったかな。
こうしているのも気まずい為、今度は私から話しかける。
『あの、仁王先輩に……謝っておいていただけませんか?』
「え?」
『昨日寝ている私にブレザーかけて下さって……でも、手が滑って屋上から落としちゃって』
「……嘘ね」
『えっ』
「弟がよく嘘をつくから大抵の嘘は見破れるわ。手が滑ったんじゃないでしょ」
流石仁王の姉といったところだと思う。普段からほとんど無表情の私は、他人に表情の変化が分かりにくい。それなのにこの人は気づいた。
私の顔を真剣に見つめる仁王のお姉さん。……本当の事を言ってもいい、かな。
『……実は、違う人に投げ捨てられたんです』
「そうだったの。最近他に変わった事とかなかった?」
『えっと、最近三年の男子に付きまとわれて。……男子が前よりもっと怖くなってしまって』
「それで今日も学校を休んだのね」
『は、はい』
「まぁ今日は金曜日だし、土日しっかり休みなさい。土日の部活は休んでいいそうよ」
『はい。ありがとうございます』
「そろそろ帰るわね」と言いながら席を立ち、ニコリと微笑む。
「どう?人に話せばすっきりしたんじゃないかしら?」
『はい!月曜日からまた頑張ろうと思います』
「良かったわ。じゃあまたね」
そう言って仁王のお姉さんはうちの家から去って行った。
本当誰かに話すだけで少しすっきりした気がする。
ありがとうございました、仁王のお姉さんーーーー
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(仁王side)
「プリッ」
咲本の家から少し離れたところで変装を解く。
昨日は咲本を柳に任せはしたが、やはり心配で咲本に会いに来てしまった。
しかし自分はまだ柳のように咲本に慣れられていない。更に今は咲本の様子がおかしい。今自分が家に行っても出てきてはくれないだろう。そこで自分の姉の変装をして咲本に会いに行ったのだ。
同性だと咲本はすんなり受け入れてくれた。そして、話していて分かったこと。咲本には両親がいないということだ。あの家に一人で暮らしているのか。不安が募るばかりである。
そして昨日のブレザーの件。あれはやはり咲本が落としたのではなかった。他の奴……三年の男子に付きまとわれていると言っていたがそいつだろうか。
三年の男子、つまり自分と同い年の奴が咲本に異常に付きまとい咲本の男嫌いを悪化させてしまったのか。
「これは参謀に相談じゃな」
自分一人ではデータを集めるのはそう簡単ではない。ここは参謀と協力して早く解決する方が良いだろう。
不安と心配を抱えながら、俺は夕日に照らされた道を一人歩くのであった。
調査は進む
(咲本には騙して)
(ばかりじゃ)
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