気づく周り
あの後、私は何も持たず部活にも無断で帰ってきてしまった。男の多いテニス部に今行ったらまた金縛りにあいそうだ。
ベッドの上で溜息を吐くと、それと同時にインターホンが鳴った。
誰が外にいようと出るつもりはない。布団に潜り、音が聞こえないようにする。
しかし数分後、いきなり誰かに布団を剥がされた。驚いて目を丸くすると、視界に入ってきたのは柳だった。
「咲本が何か抱えている確率85.5%」
『や、なぎ……先輩』
いつの間に。ていうか何で家の中にいるの。
「何故鍵を持っていない俺が咲本の家に入ってこれるのか、という顔をしているな。それはお前が鍵をかけ忘れていたからだ」
それで無断で中に入って来たのか。
「返事はなかったが一応声はかけた。咲本は鍵のかけ忘れなんて不用心なことをする確率は極めて低い。何かあったんだろう?言ってみろ」
何でだろう。さっきから会話が成立している。
「フッ、俺のデータと観察力をなめるな」
そう言って私の頭へと手を伸ばす柳。だが私は拒否反応を起こし柳の手を無意識に避けてしまう。
『……あ、』
「……。咲本」
『あ……えっ、と。ごめん、なさっ』
「別に話したくなければ話さなくてもいい。……お前の忘れていった鞄、ここにおいて置く。今日は帰るが何か合ったら連絡を入れろ。分かったな?」
『……はい』
「家の鍵もちゃんと閉めておけよ」
部屋のドアが閉まり一人になると目に涙が溜まる。
『うっ、やだ。折角っ、やっと……慣れた、のに。あの人の……せい、だ』
無理に聞き出さない柳の優しさに涙が溢れ出る。何度も何度も心の中で謝った。
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(柳side)
「咲本が来ていない?」
「あぁ、そうなんだよ」
委員の仕事で部活に遅れた俺は精市に咲本がまだ部活に来ていないことを告げられた。
「部室にもテニスコートにもいなくて」
「昨日も部活に来ていた咲本が無断で休む確率13.2%」
「咲本なら屋上で寝てたぜよ」
俺達の話を聞いていたのか、仁王はひょこりと姿を現す。咲本が屋上で寝ていた?
「どういうことだい?」
「五時間目に屋上に行ったら咲本が寝ててのぅ。五時間目が終わってもずっと寝てたぜよ」
「じゃあ二人とも授業をサボっていたんだね」
「……プリ」
五時間目からずっと屋上で寝ていたのか。いや、仁王の来る前からいたとしたらもっと前からかもしれない。今も屋上で寝ているのか?
「屋上に行って咲本がいないか確かめてくる」
「ああ、よろしく頼むよ」
そう言って俺は早歩きで屋上に向かった。しかし屋上に近づくにつれて、胸騒ぎがした俺はいつの間にか走っていた。
屋上に着きドアを開けると、誰もいなかった。隅々までよく探したが咲本は見当たらない。次に咲本の教室に行くことにし、ドアを開けると数人生徒が残っていた。
戸惑いなく一年の教室に入り、咲本の席に向かう。すると、机の横には鞄がかかっていた。
……ということはまだ咲本は学校にいるのか?
「咲本さん、鞄はここにあるんですけど四時間目からずっと教室に帰ってきてないですよ」
俺の思考を読み取ってか、教室に残っていた一年の一人が俺に声をかけた。
「そうか、ありがとう」
咲本の鞄を持ち教室を出る。廊下には仁王が壁にもたれて立っていた。
「さっきの話にはまだ続きがあるんじゃ」
「続き?」
「咲本の目元が濡れていたナリ」
「つまり、泣いていたということか」
「理由は分からんが多分そうぜよ」
咲本は何かあって屋上で泣き、そして泣き疲れて寝てしまったということになるな。仁王の顔を見るとまだ何か言いたげな顔をしていた。
「まだ何かあるのか?」
「……ブレザーをかけたんじゃ」
「?」
「俺が咲本に」
「ほう」
「でも……」
「何だ」
「屋上から投げ捨てられたんじゃ。俺のブレザー」
「咲本がやったのか?」
「分からんぜよ。でも部活に向かう途中に上からブレザーが落ちてくるのが見えて、拾いに行ったら俺のブレザーじゃった」
「あいつはそんな事をするやつではない」
「それは分かっちょる。ただ咲本の周りに何か異変が起きていることは確かぜよ」
俺がコクリと頷くと、仁王は悲しそうな表情をして俺の肩に手を置いた。
「……俺じゃなんもできんからのぅ。ここは参謀に任せるぜよ」
「すまないな。行ってくる」
そして俺は咲本の家へと向かったのだ。
気づく周り
(まさか俺が咲本に)
(拒まれるなんてな)
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