皆からの贈り物
月曜日の放課後、私はジャージ姿でテニス部の部室の前に立っていた。
私がマネージャーをする期間は氷帝との練習試合のみだったはず。しかし練習試合が終わった今も何故か私は立海テニス部のマネージャーの様だ。
すると人の声が聞こえ、周りを見るとテニスコートにいたテニス部員が部室に向かってきていた。一人の部員と目が合うと、隣の部員にボソボソと小声で何かを話す。
な、何だよ。なぜ私がここにいるかって?私も早く立ち去りたいよ。
「「ちわっす!」」
『へっ?……こ、こんに、ちは』
何故か二人の部員に挨拶された。激しく混乱する私に部員の一人が質問を投げかける。
「ちょっと質問していいか?」
『えっ、と。はい』
「あの真田副部長とどうやって付き合うまで進展したんだ?」
『……ぇ?』
真田と付き合う?何故そういう話が…………あ。そういえば初めてマネージャーの仕事をしたあの日ーーーー
(29話参照)
"「こいつは俺の彼女でも柳生の彼女でもないぜよ」"
"「えぇ!?じゃあ誰の女っすか?」"
"「副部長ナリ」"
という仁王の嘘に騙された部員達。まだこの嘘を信じきっているのか。
『あ、のっ、その話……』
私がそう言いかけた時、後ろにある部室のドアがガチャリと開いた。後ろを振り向くと真田。
「む、咲本。来ているなら部室に入って言いに来い」
『え、はい。すいません』
「副部長〜。彼女なんだからもっと優しく接してあげないとだめっすよ」
「何?彼女だと?」
からかうように真田に言う部員と、状況が掴めず顔をしかめる真田。……ハァ、ややこしくなってきた。これも全部仁王のせいだ。
「真田副部長とマネージャーって付き合ってるんでしょ?」
あぁぁぁ、ついに言ってしまった。
私は咄嗟に真田の腕を引っ張り、部室の裏側へと向かった。後ろから「ヒューヒュー」と冷やかしの声が聞こえ、真田からは焦りの声が聞こえた。
「咲本!いきなりどうしたのだ」
『はぁ、はぁ。……えっと、ですね。その……』
「あいつらの言っていた話か?」
『は、はい。……あれ、仁王……先輩、が』
「ふむ、そんな事だろうと思った。俺と咲本が付き合うなんてありえんことだからな」
『っ……』
それはそれで傷つくんだけど……。
「……あっ、いや。俺などとは咲本も嫌だろうという話だ」
『い、いやじゃ……ないです。先輩の、方が……私なんかじゃ、ダメで』
「そんな事はない。寧ろ彼女にするならお前が……」
『えっ、』
「い、いや何でもない」
珍しくうろたえる真田を見ると微かに頬を染めていた。……照れるなこの雰囲気。
バキィッ!!
「なっ!?」
『っ!?』
「やぁ、二人とも。部活中はいちゃつかないでくれるかな?」
「ゆ、幸村。決していちゃついてなど「真田、今日は俺と試合をしようか」……あ、あぁ」
大きな音を立て私達の前に現れた幸村君の顔は真っ黒な笑顔でした。そして幸村君の右手は部室の壁にめり込んでおり、私は冷や汗を垂らし顔を引きつらせるしかなかった。
「それで、君達はいつから付き合ってたのかな?俺に黙って」
『えっ?』
「幸村、先程の部員の話を聞いてたなら誤解だ」
『ま、前に、仁王先輩が……嘘、ついて』
「……本当かい?」
幸村君の問いに真田と二人してブンブンと上下に激しく頭を振ると、幸村君の真っ黒なオーラが少し消えた気がした。
「嘘ついてたらこう……
ドカッ!!
だからね」
そう言って幸村君は部室の壁に穴を開けた。
「『はいっ!』」
「じゃあ二人とも部室に来てくれるかい」
やっぱり魔王様……。壁に穴開けるとか普通の人間が出来る技じゃない。恐ろしや。
部室に入るとレギュラーが揃っていて、緊張しながらお母さ……柳の横に行く。
「そこの壁はお前せいでああなったのか?」
『どちらかというと、仁王先輩のせいです』
「何かしたかのぅ?」
『……』
あんたが嘘ついたからこうなったんだよ。
「睨んでも怖くないぜよ」
「仁王、咲本をからかうのも大概にしろ。前のような罰が嫌だったらな」(番外編:19話後参照)
「……プリ」
『?』
何のことかさっぱり分からないけど、仁王の顔を見る限り辛い罰だったんだなぁ。……私は関係無い、うん。
「今日は咲本さんに俺達から渡したい物があってね」
『えっ、はい』
何だろう、と疑問を浮かべていると柳に背中を押され幸村君の正面に立たされた。
「はい、これ。これからもよろしくね」
と言って幸村君から渡されたのは、新品のレギュラージャージ。
『こ、これ……私の、ですか?』
「うん。君のだよ」
『その、私……マネージャー、これからも……やるんですか?』
「うん。そのつもりで渡したんだけど」
『迷惑……じゃない、ですか?』
「迷惑だったらこんな事しないよ」
『…………』
「寧ろお前がいて助かっている」
「俺達のやる気が上がる確率98.6%」
「よろしくお願いします、咲本さん」
「からかいがいのあるやつは好きじゃけぇ」
「俺の天才的妙技みろぃ」
「お互い頑張ろうぜ」
「また偵察行こうぜ、ひなた」
「まぁそういう事だから、これからもテニス部のマネージャーお願い出来るかな?」
『……はい!』
立海ジャージを抱き締め、私は笑顔で皆に返事をした。
皆からの贈り物
(ありがとうございます)
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