次は観光として行きます
「何なんや、この音……」
謙也が不安そうに呟く。部室に入った私達は外の様子を探ろうと部室の窓から外を見ようとする。すると先程までの大きな音は鳴り止み、部室内もシンとした。
すると部室のドアが音を立てて開いた。
「アーン?何してんだてめーら」
「えっ、跡部くん?」
いきなりの跡部の登場に驚きを隠せない私達。開いたドアから外の状況を見ると、一台のヘリがあった。先程の大きな音と風はこれが原因か。
「おい咲本」
『は、はい』
「お前こっちの忍足と付き合ってるそうじゃねーの」
『へっ、いや……』
「そうなんか!謙也!」
「やるやないの〜。謙也くーんっ!」
「は!?ひなた、嘘だよな?」
『は、はぁ……誤解です』
「ちゃうねん!誤解や」
周りが口々に言う中、私と謙也は誤解だと伝える。今日初めて会ったんだからそこまで進展するわけないだろ。それに謙也みたいなイケメン、私には勿体無い。
「どういうことだ?」
跡部の質問に対し、謙也が先程の侑士との電話の内容について話す。
恋バナが好きな小春はガッカリしていたが、白石はそうやと思った、なんて言って納得していた。ユウジは先程から挙動不審。
「ふん、忍足のやつ……。ところで、立海のお前達が何故四天宝寺にいやがる」
「えっと、アレっす。アレ!……な!ひなた」
『か、観光です』
「……まぁいい」
私達のどこか怪しい態度に跡部は呆れていた。実は偵察に来たということがばれている気がする。何でもお見通しだぜ、みたいな顔してるもん。
「今から帰るところか?」
「そうっス」
「特別に俺のヘリに乗せてやる」
「まじっスか!やりぃ。やったなひなた!」
『はい』
結局跡部は何しにここに来たのだろうか。
全員が部室の外に出る。跡部はヘリに乗り、私と赤也はくるりと体の向きを変え四天宝寺のメンバーと向き合う。
「今日は世話になったっス!」
『す、すい、ません……でし、た』
「気にしてへんで」
「別にえぇっちゅう話や」
「また来るといいばい」
「大阪のたこ焼きはめっちゃ美味いんやでー!!」
「二人ともまた大阪おいでね〜ん。ほら、ユウくんも」
「ま、まぁ、観光の案内ぐらいし、したるわ!」
「皆はん気をつけて帰るんやで」
それぞれが自由に話す為、あまり聞き取れなかったがとりあえず首を縦に振っておく。
ヘリの中から「早く乗れ」という跡部の声が聞こえたので赤也が乗った後に、ヘリに乗り込もうとする。
すると何かを企んでいるような顔をした財前が近づいてきた。
「今日は謙也さんに迷惑かけられたやろ?」
『えっ、まぁ、はい』
「最後に"謙也さんのギャグしょうむなかったです"って言ってやり」
『え、どういう意味……ですか?』
「まぁまぁ……じゃあな」
トンと身体を押されヘリに乗り込む。どうしよう、言った方がいいのかな。まぁ今日でお別れだし言ってしまおう。
『お、忍足先輩!』
「うお!何や!?」
『ギャグ……しょうむなかったです!!』
なるべく大きな声で謙也にそう言うとヘリは離陸した。
「何なんやあの子……」
「ぶはっ、ほんまに言いよった」
「お前が言わしたんか財前。謙也いじけとるやん」
********************
跡部のヘリで神奈川に戻ってきた。半日の出来事が凄く長く感じてとても疲れた。誤解ばかり生まれるし関西のノリはテンションが高すぎてついていけないし……でも四天宝寺、楽しかったなぁ。
ヘリの中では跡部から「付き合ってる奴はいるのか」と聞かれたが、いるわけないので首を横に振った。何というか跡部はお父さんオーラがある……気がする。ヘリから降りる際、跡部にお礼を言うと「じゃあまたな」とクールに去って行った。
「今日は……わりぃ」
『?』
「そのはぐれちまって。俺も必死に探したんだけど」
『……いえ。私が携帯を、持ってなかった、から』
「いや、俺の不注意で……!」
『ちがっ、私が』
「ふっ、何をしてるんだい君達」
いきなりの部長の登場にびっくりする私達。そういえばここ私の家の前……つまり幸村君の家の前でもあるんだった。
「今日は四天宝寺の偵察に行ってもらっていたね。明日の部活で報告してもらうよ」
「う、ういっス!分かりました!!」
「咲本さんもね」
『えっ……はい』
「じゃあまた明日、学校で」
「お疲れっス!」
『お疲れ、さまでし、た』
ガチャリと幸村家のドアが閉まると赤也は顔を引きつらせた。
「報告なんて出来ねぇ……」
『私、明日からもマネージャー……』
明日が来ないのを願いながら、ため息交じりに言葉を吐いた。
次は観光として行きます
(また行きたいな大阪)
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