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柳の仕返し

(仁王side)


咲本と約束した次の日の昼休み。俺は校舎の外で何の目的もなくぶらぶらと歩いていた。すると背中に何かが、ぶつかった。

「っ!?」


予想もしない出来事に戸惑いながら硬直していると、手が腹の方にまわってきてぶつかってきたのは人だということが分かった。


「誰ぜよ」

いきなり抱きつかれたことに怒りを感じ、後ろに体を向けようとする。しかし背中からがっちり抱き締められていて頭だけ後ろに向け、目線を少し下にすると見知った頭。

「咲本……?」

『…………』


名前を呼んでみるが返事はない。よく見ると手はプルプルと震えていて背中は暖かくそして柔らかい感触。


「(これはある意味拷問ナリ)」

抱き締められたいという昨日の願望は一転し、今は心臓がバクバク言っていて情けない。しかし昨日抱き締めるのは無理だと本人は言っていたのにどういった思考の展開だろうか。


「咲本、」

そういえば昨日、自分は柳に変装していたから咲本は自分の弱みを、女の過剰なスキンシップだと信じ込んでいるのだろうか。


とりあえず抱き締められているままではこちらも恥ずかしいので、咲本の手を取り自分の体の自由を取り戻す。


『っ!!』


そして、


ーーーーギュウ。


咲本を前から抱き締めた。


『せ、せせせせん、ぱいっ!?』

「ククッ」


やはり咲本の戸惑う様子を見るのは面白い。もっと動揺させたいという気持ちになる。


『は、はな……してっ』

「自分から抱きついてきたじゃろ」

『うぅ……、それは』


顔を真っ赤にして顔を背ける咲本。本当に咲本は面白い。

ギュウギュウと咲本を抱き締めていると、咲本が引き剥がされた。


「あ、参謀……」


咲本を俺から遠ざけ口角を上げる柳。


「仁王。昨日俺に変装したみたいだな」

「……ピヨ」


参謀に ばれちょったのか。

咲本に目を向けると、咲本と目が合ったがあからさまに目を泳がしている。顔が真っ赤なまま。


「フッ、昨日の出来事を話してやろう。咲本」

『え、は……はぁ』




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昨日の帰り柳と別れを告げた後、とぼとぼと歩いていると後ろから柳がやって来た。混乱していると後ろから来た柳が私に気付いて声をかけてきた。


「咲本、今帰りか?」


私が思わず身構えると柳はきょとんとした顔で「どうした」と尋ねた。


『……私、今まで柳先輩と帰ってたんですけど』

「…………仁王である確率70%」


ぼそりと言った柳の言葉に納得していると、どういった話をしていたのか聞かれた。


『その、仁王先輩の弱みが女からのスキンシップだと……』


そう言うと柳は吹き出したかと思えば、口元に手を当て肩を震わせていた。


「フッ、ならばその弱みを克服させてやろう」

『え、えっ?』


その顔は何かを企む顔になっていて顔が引きつる。

ていうか中身が仁王だったってことは、弱みは違うんだよね?


「咲本、仁王に抱き付いてやれ」

『はぇ?ちょっ、無理です』

「咲本が抱き付かなければ仕返しにならないだろう」

ということはもしかして自分に変装した仁王に対して怒ってる?柳を見ると考える仕草をしていてこちらを見て口を開いた。



「では俺で練習しろ。ほら」

『っ!!』


腕を引かれそのまま抱き締められる。混乱していると頭の上から「どうだ」と言われた。首を左右に振ると柳の体は私から離れた。


「後ろからいきなり抱き付いてやれ。練習していいぞ」


無理だと断ろうと思ったが、無言の圧力に負け嫌々やることになった。嫌というか恥ずかし過ぎて心臓がもたない。

私から異性に抱き付くなんて今まで考えたこともなかった。背中を向ける柳に近づくと身体中から変な汗が出る。



そして私が慣れるまでこの試練は続いた。最後に言いたい、ここは通学路だ。




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(仁王side)


「まぁ、こういうことだ」


そう言う柳は得意げな顔をしていた。
つまり自分は騙したつもりでいたが、実は二人に騙されていたということか。

しかし、柳が咲本の練習相手だったと思うと少し腹立たしい気持ちになる。


咲本を見ると頬に手をあて顔の熱を冷やそうと頑張っている。

まぁ自分もおいしい思いをしたしある意味柳には感謝しなければならない。そう思うと思わず笑みがこぼれた。




「ククッ、負けたぜよ」




柳の仕返し


(また騙してやるナリ)

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