バスの中で
『それで私が"私の事嫌いなら無理に話さなくてもいいのに"って、無意識で言ってしまいまして』
「それはお前が悪い。忍足に謝っておく方が良いだろう」
『は、はい』
バスの中で柳に忍足との出来事を全て話した。私が悪いのは元々分かっていたことだが、他人に話せて少し気が楽になったのか瞼が重くなってきた。
「今日は疲れただろう。寝ていいぞ」
『ふわぁぁ……ふぁい』
欠伸の途中で声をかけられ変な返事になってしまった。お言葉に甘えて寝ようと目を閉じようとしたが横から視線を感じる。
『あの?』
「寄りかかっていいぞ」
『や、いい……です』
そう言いつつも椅子のもたれ部分は90度に近い角度だから寝心地が悪い。
『あの、やっぱり借ります』
「フッ」
柳の肩というか腕に軽くもたれるとふわりと洗剤の良い香り。落ち着く匂いに包まれながらゆっくりと瞼を閉じた。
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(柳side)
咲本が休憩終わりに元気がなかった為、何があったのか話を聞いたが結果咲本が悪かった。しかし何故忍足は初めから咲本を嫌っていたのかが疑問に残る。ただの咲本の勘違いだろうか。
「ひなた!トランプしようぜぃ」
「丸井、咲本は寝ている。静かにしろ」
「えー、ひなた寝てるんスか?」
丸井と赤也が後ろの席から身を乗り出して咲本の顔を覗いている。自分も肩を動かさずにちらりと見てみるが、起こしていないようで安心した。
「いつになったら俺ひなたに慣れてもらえるんスかね」
赤也がため息まじりで話しだす。小声なのは咲本に気を遣っているためだろう。
「赤也はまだマシだろぃ。俺なんか学校で会ったら高確率で逃げられるぜぃ」
「まじっスか。丸井先輩嫌われてるんじゃ……」
「ぐっ……。そんな事ねぇよ。多分」
「柳先輩にはひなた、普通に話せてるっスよね。どうすればいいんスか、柳先輩!」
「別に普通に話しているだけだ。赤也は言葉がキツイのが原因、丸井は大声で遠くから呼びかけたりしてるんじゃないか?」
「だぁぁあ!……日吉にもキツイって言われたし。俺普通に話してるだけなのに、わっかんねぇ!」
「……した覚えがあるぜぃ」
「まぁ別に直す必要はないだろう。程良く話掛けてやればその内普通に話すさ」
「「はーい」」
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バスの揺れで目を覚ました私はチラリと横にいる柳を見る。結構体重を預けてしまっていたが、肩は凝っていないだろうか。柳の顔をじっと見つめても反応はない。少し口があいている事から寝ているのではないかと思う。
窓の外を見ると学校の近くまで来ていた。バスの中がシンとしているし、恐らく全員寝ているだろう。今日は皆凄く頑張っていたししょうがないよね。
折角隣で柳が無防備で寝ているのだから、暫く見つめておこう。サラサラな髪に長いまつ毛、整った顔立ち。
まさか自分がこんなにも近くでテニプリのキャラを見れるなんて夢にも思わなかったなぁ。そういえば柳と初対面の時、私、柳の前で泣いてしまったんだよね。今思えば過ぎた話だが、あの時から柳は優しかった。
「……人の顔を見てニヤニヤするな」
『っ!!ご、ごめんなさい』
心臓が飛び出るかと思った。少し目を開けた柳と目が合う。完全に私変態じゃないか。
「咲本が変態で変人なのは知っている。今更恥ずかしくなることではない。……そろそろ学校に着くな」
『えぇぇ……』
私そんな変な行動ばかりしてるかな。普通に行動してるつもりなんだけどなぁ。確かにさっきの行動は変態かもしれないけど。
バスが停車したので立ち上がって周りを見ると、皆はスヤスヤと寝ている。ていうか後ろの席ブン太と赤也だったんだ。
「咲本、丸井と赤也を起こしてやってくれ」
『はい』
そして柳は後ろの方に座っていた他の皆を起こしに行った。
さて、どうやって起こそうか。
『あの〜、学校着きましたよ先輩方』
くそ、寝顔可愛すぎて見てるのが辛い。呼びかけても起きないので通路側席に座っているブン太を先に起こそうと体をつついてみるが、起きない。
しょうがない、少し腕を伸ばして赤也から起こそう。「先輩」と呼びかけながらつつこうと腕を伸ばそうとした瞬間ーー
『え、わっ!』
足が滑り、体重の殆どがブン太の上へと乗っかってしまった。そう、ブン太の膝の上に私の上半身が乗っている状態なのだ。すると当たり前と言えば当たり前なのだが、ブン太が起きた。
「……んぁ?ひなた?」
『ひぃ……!ごめんなさい』
直ぐに退こうとすると背中の上に手を置かれ動けなくなった。
「抱きつくなんて大胆だぜぃ」
『っ!』
かぁぁぁと顔が赤くなるのを感じジタバタと暴れた。違うんだってば!転んだだけなんだよ。
「何してんスか」
急に横から赤也の声がして顔を上げると、呆れた顔で私達を見ていた。そして赤也が私の背中に乗っていたブン太の手を退けてくれた。
「早く行くぞ」
みんなを起こし終わった柳から声が掛かる。あ、赤也にお礼言わなくちゃ。
『あの……切原、先輩ありが、とうございました』
「!……おぅ」
そして全員がバスから降り解散した。
お礼を言った後の返事が素っ気なかった赤也の顔が緩んでいたことを私は知らない。
バスの中で
(明日学校かぁ)
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