心配
忍足と喧嘩っぽい事をした後、沈んだ気持ちのままテニスコートへと向かう。部員は全員集合していて、何か話し合いをしているところだった。
「咲本さん、今から試合をするから審判をしてもらえるかい?」
『は、はい』
気持ちを表に出さない私はこういう時良かったと思う。幸村君に言われ私が審判するコートへと向かう。
「待て」
いきなり肩を掴まれて何だと思ったら柳が少し眉をひそめていた。
「咲本、何かあっただろう」
え、何で分かったの。柳の観察力凄いんだけど。私を見る柳はとても真剣な顔つきで、嘘をついても見破られるような気がする。でもここは何もないと答えないと。
『えっと、大丈夫です』
そう答えると柳は溜息を吐き小声で「後で話せ」と言ってきた。何、今の。キュンときたよ。頷くと柳は違うコートへと向かった。私がいたコートには立海からは仁王と柳生、氷帝からは宍戸と鳳が来た。
「咲本が審判じゃ」
「咲本さんは何日も練習していましたし大丈夫でしょう。よろしくお願いします」
『が、んばります』
「頼むぜ」
「熱中症にならないように気をつけてね」
『は、はい』
そして試合は始まり私は真剣にテニスを見た。色んな技を見れて感動しつつも、早いボールから目を離さないよう集中した。
試合が終わって一人で休んでいると、跡部が此方に近づいて来ているのが見えた。え、どうしよう。隠れる場所を探してキョロキョロするが見つからない。
「咲本」
『っ!』
名前を呼ばれ跡部の方へと体を向ける。すると跡部は私の顔を見つめ、私に向かって手を伸ばした。
『ぇ?』
跡部の手は私のおでこに触れ、まるで熱を計るような行動だ。反射的に目をつぶってしまう。
「今は休憩中だ。木陰か部室で休め。マネージャーが倒れるんじゃねぇぞ」
『あり、がとうございます』
わしゃわしゃと頭を撫でられ跡部は去って行った。
『……何だったんだ今の』
でも跡部、優しい。今きっと顔が赤いだろう。跡部に言われた通りコートから離れ木陰に向かう。
「あー!ひなたちゃんだC」
「おっ、ひなた。こっち来いよ」
『ぇー、はい』
正直行きたくないがジローとブン太の方へ足を運ぶ。
「今ね〜丸井君と美味しいケーキ屋の話をしてたんだけど、ひなたちゃんも一緒に行こうよ」
『や、です』
「Aー」
「即答かよ。そこのケーキすっげぇ美味いんだって!また今度行こうぜ」
そして二人はキラキラした目で私を見つめる。そんな目で見られたら断れない。
キラキラビームを受け、反射的に頭を縦に振ってしまった。すると喜びの声が返ってきて、二人の可愛さに私の心は射抜かれた。
駄目だここ心臓に悪い。そう思い静かに場所を移動した。
そういえば私ドリンク何処やったっけ?
「プリ」
『わぁぁぁあ!』
ななな何!?この声と意味の分からない言葉を発するのは仁王だよね。ていうかいきなり耳元で「プリ」なんて言うから、すごい大声上げてしまったではないか。今日一番の大声だよ。
後ろに仁王がいるのは分かる。しかし右肩に顎を置かれているため振り向くことが出来ない。
『あ、あの……』
「ピヨ」
すると左頬に何かが当たった。見ると私のドリンクがあり、仁王が持ってきたのかと理解した。
『え、ありが……とうござ、います』
お礼を言うと右肩に乗せられていた重さがなくなり、仁王からドリンクを受け取った。受け取った時に少し手が触れ、仁王の体温が高いことに気付いた。
『あの』
「なんじゃ?」
『ちょっと、待ってて下さ、いっ』
ドリンクを地面に置き部室へと走る。冷えたタオルがまだ何枚かあったはずだ。仁王は暑さに弱いのだろうか。
部室のドアを開けると先程まで試合をしていた宍戸と鳳がいた。
「おう、お疲れ」
『は、はい』
「お前そういえば忍足と何かあったのか?」
『え?』
冷蔵庫に向かおうとしたら、宍戸に答えにくい質問をされた。出来れば言いたくはないのでとぼけたふりをすると、次は鳳が口を開いた。
「咲本さんとは気が合わないみたいな事をブツブツ言ってたけど」
『えっと、その……あ、冷蔵庫!』
「「え?」」
ダッシュで冷蔵庫に向かい冷えたタオルを取り二人に制止の言葉をかけられるが無視し、部室を出た。何か凄い無理矢理だったけどまぁいいよね。
木陰で休んでいる仁王を発見し急いでタオルを届けた。
『あの、これ……どうぞ』
「?……あぁ、悪いのぅ」
『いえ』
「まぁここに座りんしゃい」
と、右手で地面をポンポンと叩く仁王。さっき置いて行ったドリンクを持ち、仁王の隣へと座る。すると仁王の頭が視界に入ったと思った瞬間、私の膝に仁王の頭が置かれていた。
……これってもしかして、膝枕?どうしよう私膝枕するの初めてなんだけど。っていうか私この体制でいいの?正座してるんだけど。膝枕してあげるの初体験だよ!!…………ってそんな事考えてる場合じゃない!何考えてるんだ私は。
『あ、あの』
「疲れたナリ。ちょっとの間だけ膝貸してほしいぜよ」
『えっ、あの……はい』
うーん、凄く緊張するけどタオルを目の上に乗せて目は見えないし、本当に疲れてるみたいだからもう少しこのままでいいや。
心配
(心配されたし、心配した)
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