嫌われる
(忍足side)
「(人見知りで男嫌いなぁ……)」
立海のマネはどうも気に入らない。跡部が自己紹介した時もそうだったが、気を引こうとしている様にしか見えなかった。立海のレギュラーに大人しいフリをしているだけではないだろうか。
幸村の後ろに隠れて幸村のジャージを掴んでいたり、日吉と部室に行った後も日吉に気に入られて帰ってきた。男好きなのか、とりあえず裏がある。
木陰で休んでいると岳人がドリンクを二つ持って此方へ走って来た。
「おい侑士。何してんだよそんなところで」
「いや別に……ちょっと休んでただけや」
「ほら。ドリンク飲まねぇと熱中症で倒れるぞ」
「おぉ、ありがとう」
と、岳人からドリンクを渡され口を付けようとするがふと考える。
「?……どうしたんだ。飲まねぇの?」
「これ、立海のマネが入れたやつやろ」
「そうだぜ。…………ブッ!」
いきなり目の前で噴き出す岳人。何故笑っているのか理解出来ないため、少し苛立ちを覚え「何やねん」と聞く。
「立海のマネのこと嫌ってんのか?」
「まぁ、そうやな」
「別に性格悪いやつじゃないと思うぜ。変なやつだとは思うけど」
「そう見せかけて男好きかもしれへんやん」
「まぁ話してみたら分かるんじゃねー?」
「……せやけど」
確かに岳人の言う事は正論ではある。すると立海のマネの姿が見えた。どうやらドリンクを入れていたカゴを部室に戻しに行くようだ。後をつけようとすると岳人もついてきた。
「(裏がある人間は一人の時に本性を見せるっていうからな)」
部室には出入り口がもう一つある。そちらから入り立海のマネの様子を探る。カゴを置きその場にしゃがみ込んだ女は溜息を吐く。
『はぁ……女の子不足』
女の子不足……?意味が分からず岳人と顔を見合わせるが岳人も何のことだが分からない様子。次の発言に耳を傾けると、
『何で女の子がいないの。何で氷帝はマネージャーがいないの。ハァ、男ばっかりやだ、心臓破裂する。跡部も何で近づいて来るの。威圧が凄いんだってば!立海と氷帝、男の数が多過ぎる。いや男テニだからそうなんだけど。皆女装してほしい、そしたらまだ大丈夫なはず!あぁ……一人で何言ってるんだろう私』
「ほんと何言ってんだあいつ」
横で呆れた顔した岳人に話しかけられる。ハァ、ツッコミが追いつかへん、と心の中で思いながら頭を左右に振る。
「(よう分からんマネージャーやなぁ)」
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私は独り言を言いながら部室で少し休んでいた。すると後ろから足音が聞こえ、……え?
「女装すればいいのかよ?」
『!?』
ま、まさか今の独り言を聞いていたパターンですか!?あれは聞かれてはならない独り言なのに……!
バッと後ろを振り向けば岳人が此方を見て近づいて来た。
『とととんでもないです!わっ、忘れて下さい!!』
「まぁいいけどよ。……あ、俺向日岳人、三年な」
『ど、どうも……えっと、一年、咲本ひなたです』
やってしまった。まさか意味の分からない独り言を聞いている人がいたなんて……恥ずかしい。
「侑士もこっち来いよ」
岳人の視線の先を見ると忍足が壁に体重を預け立っていた。あれ?忍足も独り言聞いてたって事だよね!?
「いや、ええわ」
そう言い部室を出て行く忍足。絶対ひかれてる。変なやつだと思われてる。
ってあれ?
ある事に気付いた私は忍足の後を追う。いきなりの行動に岳人に驚かれ、どうしたのか聞かれたが今はこっちの方が重要だ。
『あ、あの!先輩!!』
「……なんや」
『ううう動かないで下さい』
「は?何の用やねん」
うぅ、言葉がきついよ。は?って言われた。もう話したくない……けど、あれを取らなければ。
下に落ちていた木の棒を持ち、ゆっくりと忍足に近付くと忍足は不服そうな顔をしていた。
「何なん?男嫌いなんとちゃうん?」
『……』
ーーーーーーポトッ。
『ふぅ』
「……もしかして、毛虫ついとった?」
木の棒を捨て頭を縦に振ると忍足の表情は恐怖へと一変した。
そう、彼の肩には毛虫がついていた。それに気づいた私は気の棒で毛虫を地面に落とした。忍足は地面に動く毛虫を呆然と見つめていた。
「何や勘違いしてたわ。毛虫取ってくれてありがとう」
『い、いえ』
「自己紹介してなかったな、忍足侑士や」
『……咲本、ひなたです』
何ていうかこの人嫌だ。私の事嫌ってるオーラが見える。表面には出してないけど私の事絶対嫌いだろこの人。いいよ別に嫌いでも。いいけど……でも私、人に嫌われても平気でいれるそんな強い子じゃないし。
「マネの仕事結構大変やろ。お疲れさん」
『ど、うも』
……私の事嫌いなら無理に話さなくてもいいのに。
「は?」
『……っ!!』
え、今の言葉声に出てた!?無意識の発言に自分でも戸惑うが、殺気を感じ背筋が凍る。
「やっぱ嫌いやわ、自分のこと」
忍足の目に光はなく、ただ私を睨んでいた。
嫌われる
(私が悪い)
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