少しのジェラシー
ドリンクとタオルの用意が終わりベンチに置いていく。レギュラーだけの分を用意すればいいので、立海で用意していた時と比べれば楽だが、少し物足りないような気もする。テニスをしている皆を見るとまだ試合をしていないのに汗だくだ。
いいなぁ私もテニスしたい。今日は少し暑いためタオルはあらかじめ気持ち良い程度に冷やしておいた。冷蔵庫があったので勝手に使ってしまったがまぁいいだろう。
休憩の言葉が掛かり少し疲れた表情のレギュラー達がこちらに向かってくる。
「サンキュー!ひなた。今日暑いから疲れるぜぃ」
『お、おつかれさま、です』
「うわっ!タオルが冷てぇ!」
「気持ちいいC!」
岳人とジローが驚きながら喜びの表情を浮かべている。良かった。柳から「考えたな」と言われたので笑顔を向けた。自分なりの笑顔を。
「ドリンクも美味いしまあまあなマネじゃねーの」
と言いながら跡部が近づいて来た。後ろに樺地を連れて。柳の後ろに隠れようとすると既に柳は移動していた。私の苦手リストに追加された跡部には極力近づきたくないので、近くにいた日吉の後ろに逃げると跡部から「あーん?」と聞こえた。
「日吉、お前いつの間に立海のマネを手懐けたんだ」
「いえ。……ていうか跡部部長が怖いんじゃないんですか?」
「おい咲本出てこい」
『…………』
「……ったく、気に入らねーな。俺様に従わない女なんて」
気に入られなくていいので早く何処かへ行ってください。
「おい跡部、立海のマネに構ってほしいからって少し構いすぎだろ」
「誰が構ってほしいなんて言った。なぁ樺地」
「ウス」
あ、宍戸だ。何だろうとても爽やかオーラが出ている。初の爽やかキャラだ。宍戸はタオルで汗をぬぐいながら、私をちらりと見た。
「タオル冷やすとかお前結構気が利くんだな、ありがとな」
『いいいいえ』
「俺は宍戸亮。よろしくな」
『咲本、ひなたです。こ、こちらこそ』
すると離れたところから「宍戸さん!」と呼ぶ声が聞こえ、鳳がやって来た。念願の鳳が宍戸の事を呼ぶ場面……!嬉しいな。
「長太郎、こいつにお前も名前言っとけよ」
「あ、はい!えっと二年の鳳長太郎です。よろしくお願いします」
「鳳、こいつは俺達より年下だ」
「あぁ、そうなんだ。じゃあよろしくね」
『あっ、はい』
敬語で話す鳳に少し戸惑いを見せていたら日吉が言ってくれて助かった。
-------------------
(跡部side)
立海が来たのを確認すると俺とレギュラー部員は整列し立海を迎え入れた。いつもと変わらないメンツだと思っていたら、一人女がいる。
その女は丸井や切原にお菓子を貰っており、何してるんだという疑問を正面に立っている幸村にぶつけるが、結局質問の答えは返ってこず、立海のマネだということが分かった。そしてその女に自己紹介することになった。
幸村の手招きにより此方に近づいて来た女は美人というわけでもなく平凡な顔つきだった。一つ気になるのはずっと顔を下に向けていること。
顎を持ち無理矢理顔を上げさせると、目を見開きとても驚いた顔。あまりにも驚いていたので軽く笑いそうになったが何とか耐えた。
「部長の跡部だ」
と自己紹介するが返事は返ってこず、俺に惚れたのかと聞くと吃りながら「無理です」と答えてきた。そして俺の手から逃れ幸村の後ろに隠れる。幸村を見るととても嬉しそうな表情。拒否られたことに少し傷つきながらも平然とした顔を保つ。
柳によればこの女は極度の人見知りで男が苦手。何故立海のマネになったのかは分からないが恐らく本人の意思で入った訳ではなさそうだ。
名前を教えろと言うと幸村の後ろから頭だけひょこりと出し名前を言う。仕草が少し愛おしく思えたのは黙っておく。咲本ひなたか、立海のマネとして仕事をきっちりとするのだろうか。
休憩に入ると既に咲本はドリンクとタオルを用意していた。まだこれから試合があるのに少し張り切り過ぎたな等と思いタオルで汗をふくと、タオルは少しひんやりとしていて気持ちよかった。うちの部員にも好評だったようで早速褒めてやろうと咲本に近付くが何故か日吉の後ろに隠れる。
何故自分より無愛想な日吉なんだと思いながら咲本に日吉の後ろから出てこいと言うが無言。
「……ったく、気に入らねーな。俺様に従わない女なんて」
と言ってみるが相変わらず咲本は日吉の後ろから出てこない。
すると宍戸が近づいて来て「立海のマネに構ってほしいからって少し構いすぎだろ」なんて言われた。そうか俺は構ってほしいのか……ってんなわけねぇだろ。
宍戸が咲本に声を掛けると咲本は日吉の後ろから出てきて、なんとも言えない感情が芽生えた。これは恋愛感情ではないと思うが怒りなのか嫉妬なのか。どちらも合わさったような感情。
後から鳳もやって来て、日吉と宍戸と鳳が咲本と仲良く話していて、舌打ちをしながらその場を去った。
……くそ。何で女なんかに悩まなきゃなんねーんだ。その内俺様の美技に酔わせてやる。
少しのジェラシー
(人見知りってどうやって)
(声をかければいいんだ、)
prev / next