変な女
こここんにちは、咲本ひなたです。
家に帰って来ました。疲れました。
まさかトリップ一日目からテニプリのキャラと会話するなんて。
しかも二人も。あれ、さっきの会話って言うのかな?
因みに一人暮らしです。トリップ前は家族で暮らしてました。
一人にしては大き過ぎる一軒家です。
高校卒業するまではお金も定期的に振り込まれるみたいで、便利というか楽で何よりです。
トリップいえーい。
料理は大体出来ます。元々一人暮らししたいと思ってたからね。
あ、今日は肉じゃがにしよう。
今日一日を振り返ってみる。簡単な授業だったから寝て、そしたらいつの間にか放課後で。
今日は午前までだったから、あっという間の一日だった気がするなぁ。
友達作り忘れたから明日作らないといけないし……!放課後は何故かジローとブン太に会うし……。
『あああ、明日学校やだよー!
友達作れるかな、私人見知りなんだよー!
自己紹介する時もめっちゃ緊張したし、声震えたってー!』
転校生ってめちゃくちゃ緊張するんだな、初めて知ったわ。
『はぁー、晩御飯作ってゆっくりしよ』
ーーこうして私のトリップ生活一日目が終わったのであった。
********************
えっと、朝です。おはようございます。
そしてここはどこでしょうか?
今日は朝から体育館集合みたいなのですが、
体育館の位置が分かりません。
『体育館ー……』
「何じゃお前さん、体育館探してるんか?」
『ぅわっ!』
にににに、仁王雅治ー!
いきなり出てくるなよ、びっくりした……。
寿命が縮んだ気がする。
「体育館はこの道を真っ直ぐ行って左じゃ」
『えっ……あ、ありがとうございます』
お礼を言って言われた道を行く。
……ってあれ?
仁王って詐欺師だよね?
ということは騙されたんじゃ……。
『た、体育館だ……!』
どうやら事実を教えてくれたみたいだ。仁王見直した!色気ムンムンで近づきたくないけど。
とりあえず良かった。
体育館の重い扉を開けると一年生の大体半分の人が集まっていた。まだ時間があるみたい。
あ!友達作らないと……!緊張してきたー。
声かけやすそうな人……隅の方に
一人でいる女子がいる!
よし、あの子に決めた。
今どっかのアニメのセリフみたいだったなぁ。
『あ、あの……』
「?」
どどどどどうしよー!緊張する!
こっち見てるよ!
いや声かけたから当たり前なんだけれども。
良かったら仲良くして下さい。
良かったら仲良くして下さい。
よし、言うぞ!
『よよ良かったら仲良くちて下さい!』
「…………」
かかかかかかんだー!
恥ずかしい!!
どうしよう、相手黙っちゃったよぉぉぉ!
「ぶはっ!」
…………ぶは?
「みんなー!咲本さんが仲良くしてほしいってー!」
『へ、えっ……あの』
「咲本さーん!こっちおいでー」
えっと何だコレは。話しかけた子笑ってるし……。
あっちで何人かの女子が笑顔で手を振ってるし。
「ごめんね!咲本さん
自己紹介の時すっごい緊張してたから、話しかけやすいように私が一人でいたんだー」
『あ、そうなんだ』
何ココの女子、優し過ぎる!
私は笑顔で呼んでくれている子達の方へ向かうのでした。
-------------------
(仁王side)
「仁王じゃん、はよっ!」
「……おん」
門をくぐり抜けたところで、
丸井が俺の肩を軽く叩いて挨拶した。
相変わらず朝から元気やのぅ。
「昨日の部活中さぁ、
氷帝の芥川が来てたんだよなー」
「……ほぉ」
「でさ、芥川の横に変な女がいてさ」
「……ほぉ」
変な女、ねぇ……。
正直興味はないが、返事をしないと丸井が煩そうなので一応返事をする。
「そいつ男子苦手みたいでさ、俺が近くに行ったら逃げようとしたらしいし、学年聞いても声震えて答えないんだよ。見てて面白かったぜ」
男子が苦手……か。
俺の周りには今までいなかったタイプじゃ。
「おっ!」
「なんじゃ」
いきなり大声出さんでほしい。
横にいる丸井を見ると遠くの方を見て口角をあげている。
視線の先を見てみると一人の女子。
「あいつだよ、あいつ。今話してたの」
「噂をすればなんとやら……じゃな」
「何か困ってるっぽいな」
「キョロキョロしてるぜよ」
さぁどうする。一応声を掛けてみるか。
もしあいつがミーハーだったらもう関わらない。
少しだけ、ほんの少しだけだが丸井から逃げようとした女に興味が湧いた。
からかい甲斐がある奴だとすれば、逃せば惜しい。
赤也もこの頃騙されにくくなってきたからのぅ。一年前はよく騙されとったのに。
「ちょっと声掛けてくるなり」
「あ、おい。仁王!……行っちまった」
********************
女との距離が近づくとその女の発した声が聞こえた。
『体育館ー……』
「何じゃお前さん、体育館探してるんか?」
『ぅわっ!』
なるべく気配を消してその女の背後に立ち話しかけると、驚いた声は小さかったが肩を大げさに震わせた。
そして俺の方へと体を向け目が合ったと思った刹那、顔を赤らめるどころかすぐに逸らされる。
これは面白い。
まだ初対面じゃけ、今日は特別に騙すのはやめておくかのぅ。
第一印象は大事って言うしな。
「体育館はこの道を真っ直ぐ行って左じゃ」
『えっ……あ、ありがとうございます』
その女は驚いた顔をし、ぺこりと頭を下げた。
ミーハーな奴なのかそうじゃないかは一回話しただけでは分からないが、もしかしたら面白い奴を見つけたかもしれない。
俺は口許を緩ませ、その女の後ろ姿を見つめた。
変な女
(お前から女に話し掛けるなんて珍しいな)
(……本当変な女じゃ)
(お、おぉ。だろぃ)
prev / next