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少しずつ慣れる


『よし、準備出来た』

今日は日曜日、氷帝との練習試合の日です。

七時半に幸村君が迎えに来るというので早めに準備した。まだ時間まで十五分ある。テレビでも見ようと電源を入れると同時にインターホンの鳴る音が聞こえた。一瞬テレビの電源入れる音がピンポーンという音に変わったのかと焦った。

あれ、もしかして幸村君が来たの?慌てながらドアを開けると予想通り幸村君が立海ジャージを着て立っていた。それはもうにっこりとした笑顔で。


「おはよう。ってあれ?もう準備出来てたんだ」

『おは……ようございます。まぁ、はい』


「残念だなぁ。早めに迎えに来たら焦る顔が見れるかと思ったのに」

……何だこのSは。早めに起きて用意してて良かった。


「うーん。まだ集合時間まで時間があるんだよなぁ」

『は、はぁ』

「入ってもいいかな?」

『…………どうぞ』

こんな満面の笑顔に断れる訳がない。「お邪魔します」と言いながら私の家に入る幸村君。そういえばこの家に他人を入れるのは初めてだ。

「一人暮らしなのに結構広いんだね?家の中も綺麗だし」

『は、はい』

あまりこの家については質問しないでくれるとありがたい。色々探られるのは困るので椅子に座ってもらいお茶を入れた。
短時間だし会話を頑張るんだ私。


「咲本さんは両親が……いないんだよね?」

『、はい』

「祖父母と一緒に暮らさないの?」

『……えっと、……仲が、悪くて。でも、お金は送ってくれる、というか』

我ながら自然な嘘がつけたと思う。これなら大丈夫、な気がする。


「……そうか。前からちょっと気になってたんだよ」

『いえ、すいません』

「こっちこそ変な事聞いてごめんね。またうちに夕飯でも食べにおいでよ。いつでも大歓迎だから……っと、もう学校に向かった方がいいかな」

『あ、はい』

「お茶ご馳走様」

『いえ』


荷物を持ち二人で家を出る。学校まで会話続くか不安になりながら家の鍵をかける。



「火曜日からマネージャーしてもらったけど、もう慣れたんじゃない?」

『はい。大分』


「マネっていてくれると結構助かるもんだね。もっと早くから誰かにマネしてもらっておけば良かったかな。……いや咲本さんだから良かったのか」

『……え?』

「ううん。テニスって見てて楽しいでしょ?」

『はい、とても。……先輩達の技、凄くて』

「ふふっ、ありがとう」


こんな会話をしていたらあっという間に学校に着いた。正門の前には既に何人か立っており、目を凝らすと真田、柳、柳生の三人だった。うん、あの三人は遅刻しなさそうだ。

私達が正門に近づいて行くと柳が始めに気づいてくれた。

「おはよう、精市に咲本」

「おはようございます」

「む、おはよう」

「あぁ、おはよう」

『お、おおおはようございます』


全員が挨拶し合うと柳に話しかけられた。

「氷帝にはバスで行くがお前はバス酔いなどしないか?」

『あ、はい。大丈夫です』

本当言動がお母さんだよな。そして次は誰が来るかな、何て考えているとジャッカルが少し焦った表情で向かってきた。まだ時間には余裕があるから大丈夫なんだけど。まぁこのメンバーが揃っていれば焦るのも分かるけど。

残りは仁王、ブン太、赤也の三人か。赤也が遅刻するのは決まりだろうな。
すると仁王とブン太が話しながら来ているのが見えた。やっぱり赤也が最後か、何て思っていると柳の口から「全員揃ったな」と聞こえて思わず『えっ』と声を漏らしてしまった。


「いやまだ赤也が来てねぇだろぃ」

「フッ、赤也が今回も遅刻する確率は極めて高かった。従って俺が早めに迎えに行き、もう既に学校にいる」

「どこにいるんじゃ?」

「近くの木に寄りかかって寝ている」

「いつの間に」

「全く。うちの参謀はやるのぅ」

ブン太と仁王と共に驚く私。これは予想外でした。するとバスが着いたようで、真田が赤也に大声で「起きんかー!」と叫ぶと赤也は謝りながら目を覚まし、皆が乗った後にバスに乗った。

……ちらりと見えたんだけどこのバス、跡部からのバスだよね。バスの正面に跡部の顔、側面にローマ字で跡部の名前が書かれていた。嫌だなこのバス。


あ、どうしよう。どこに乗ってもいいのかな。でも皆真ん中の方に集まって乗ってるし。後ろの方に座ると仁王が「ピヨ」と言いながら隣に腰を下ろした。意味分からん。

仁王と何も話すことなんてないよ。絶対気まずいパターンだ。

「……」

『……』

やっぱりー……。何で隣に来たんだよ、今からでも遅くないから柳生の隣に行ってよ。

バスが発車して元気な赤也とブン太がトランプをしようと言い出し、全員参加でババ抜きをした。表情を変えないでババ抜きをする幸村君、柳、仁王、柳生は凄いなと思う。……自分もそうか。
私は特に面白い結果は出さずに終わった。



ババ抜きを数回すると解散し、皆は本を読んだり音楽を聴いたりして自分の時間を楽しんでいた。

一方仁王は何かをするわけでもなく、ぼーっとしたり欠伸をしていた。

私は暇つぶしする物を持ってきていないので、外を見つめながら氷帝のメンバーを初めて見ることに胸を膨らませるのであった。




少しずつ慣れる


(少しずつだけど立海のメンバーに)
(慣れてきた気がする)

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