大忙し
レギュラーの弱みかぁ、とても気になる。
そう頭の中で考えながら先程柳に教えてもらったドリンク作りを実行する。
今は一人、部室でドリンク作り。慣れてきたらこれも楽しいものだと思う。初めより手際良く作れるようになった。
えっと、時間的にもうすぐ休憩だな。一気に全部は無理だから、少しずつ持って行ってベンチに置いていこう。
部室から出るとあることに気づいた。
『そうだ……階段があるんだ』
部室からテニスコートまではそんなに長い距離ではないが階段がある。ドリンクを持って行くのには階段を上り下りしなければならない。体力にはあまり自信はないが、頑張るか。
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『ハァ、こ……これで最後』
何往復しただろうか。テニス部員全員のドリンクをコートに持ってくる為、階段を下りては上り、を繰り返していた。大量のタオルも買い物カゴに入れて持って下りてきたので肩が凝った。沢山のドリンクとタオルがベンチに置いてあるのを見ると、頑張ったなと自画自賛する。
「休憩!」
幸村君が全体に声を掛けると部員はぞろぞろとベンチにやって来て歓声を上げた。ドリンクとタオルがある事に感動したようだ。恐らく普段は休憩が入ってから自分達で用意しているのだろう。沢山の部員から「サンキュー!マネージャー」と感謝の言葉を言われ嬉しくなった。
「咲本さん、ありがとう」
「初めてでここまでしてくれるなんて思ってもみませんでした。ありがとうございます咲本さん」
『い、いえ』
幸村君と柳生からお礼を言われ、それに続いて他のレギュラーからも言われる。……何か照れるな。
「はぁー、美味いな」
「やっぱマネはいるよな!ジャッカル」
「だな」
マネージャーやって良かったなと少し思う。とりあえず後悔はしていない。でもマネージャーの仕事をしている間に皆のテニス技が見れないのは残念だ。
「咲本。次は試合をする為、審判を出来るようになってもらいたいのだが」
『は、はい!』
真田に審判用紙とボード、ペンを貰う。軟式のルールしか分からないけど、大体分かるから大丈夫かな。すると副部長ー!と元気な声が後ろから近づいて来た。
「俺の番まだまだなんで、俺が教えるっス!」
「む、そうか。頼んだぞ赤也」
「ういっス!」
真田は赤也の肩に手をポンと置きこの場を離れた。
「ひなたと二人で話すの久しぶりだよな!初めてなのにすんげぇ働きっぷりでびっくりしたぜ」
『えっ、と……はい』
「そういえば人見知りなんだっけ?柳先輩にはもう慣れたわけ?」
『い、いち……おう』
「どうやったら慣れんの?」
『えぇ……、何回か話すと?』
「そっかそっか。了解」
二人きりは無理ですよー!誰か助けて……。赤也をちらりと見ると何故か口角を上げていてコートを見つめていた。赤也をじっくり見ると意外と背が高い。レギュラーの中では一番年下だから低いイメージがあったけど、結構高いんだなぁ。ウエストも細いし腕も程よく筋肉がついてる。手も大きいなぁ……ってダメダメ、まるで変態じゃないか。頭を左右に振っていると、横でぷっと吹き出す声が聞こえた。
「何?俺で変な妄想でもしてたわけ?」
『ちがっ!!ししし、してません』
み、見られてた……!!赤也は口を押さえて笑っていて私の顔の熱は上がる一方。今絶対顔真っ赤だ。
「ぷっ、まぁ別にいいけどさ」
『や、だから……して、ませんってば!!』
「はいはい」
絶対信じてない!あぁ、もうやだよ。私完全に変態じゃないか。
するとコートから咳払いが聞こえ、そちらに目を向けると苦笑いするジャッカルと見たことのない男子がこちらを見ていて、少しの間放心状態になってしまった。
「咲本をからかうのも程々にな」
「へーい、すんません」
ジャッカル達の試合中に赤也にルールと点数の入れ方、言い方を教えてもらい何とか出来るようになった。
『先輩、ありがとう……ござい、ました』
「んあ?あぁ。……」
『?』
赤也の手が私に近づいて来る。え、ちょっと何?
ーーーーペタ
『!?』
あああ赤也の片手が私の頬を触る。予想外の出来事に体がびくりと大袈裟に反応してしまった。
「あつっ!アンタ休憩してねーだろ。何か飲みもん飲んでこいよ」
『はははい!りょ、了解で、すっ!』
そういえば私全然飲み物を口にしていなかった。顔が熱いのは先程からかわれた時からずっとだ。でも、心配……してくれたのかな。いや、普通か。思い上がるのはやめよう、うん。
部室に戻り持参のドリンクを飲み、またコートへ戻るとブン太に呼ばれた。
「ひなたー!審判出来るか?俺今から試合するんだけど」
『や、やります……!』
大忙し
(やっぱり大変だな)
(でも日曜までに仕事を完璧にしよう)
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