苦手な人
越前リョーマ……。
一番会いたくない人来たぁぁぁあ!
というか前の試合は記憶にないんだよ。それにどうせボロ負けしたんだろ?誰が好んでテニプリの主人公と試合するんだよ。いや先週しましたけど!
私が次に発言するのをジッと見つめて待っているリョーマ。これは会話しないとダメか。
『あの、前のは覚えてないって言うか』
何というか……と語尾が近付くにつれて声量が小さくなっていく私。あぁ、情けない。
「僕は見ていて面白かったよ」
にこりと笑う不二君。
そりゃそうでしょうよ。軟式はやってたといえど、硬式テニス初心者の私にどうリョーマに勝てと。
「あれ、もしかしてボロ負けしたと思ってる?」
『ち、違うんですか?』
疑問に疑問で返すと、次はタカさんが答えてくれた。
「違うよ。先週の事を説明すると、
君は越前のツイストサーブを初めは返せなかったものの、四回目で返したんだ。まぁそれはアウトだったんだけど」
『えっと……え?』
困惑する私に微笑みながら不二君が説明を付け足した。
「ふふ、それだけじゃなかったんだよ。
越前が打った浅いボールは全て、君はバックスピンでボールをバウンドさせてから自分のコートに入れてさ。それで越前はムキになって……。結局一ゲームで終わらなかったんだよね。その後桃のボールが当たって……」
『…………』
とりあえずラリーは出来ていたのか。私頑張ってたんだなぁ。
「まぁそういう事。アンタただのマネじゃないんだね」
アイスを食べながら話すリョーマ。
あ、そうだ。誤解を早く解かないと!
『あの……私』
下を向きながらそう言うと、この場にいる四人の視線が突き刺さるほど自分を見ているのが分かった。
『マネージャー、じゃ……ない、です』
声を震わせながら途切れ途切れに言うと、正面から驚く声が聞こえるのと同時に後ろから低い声が聞こえた。
「フッやはり俺のデータは間違ってはいなかった」
「乾先輩、どういうことっすか」
海堂が首を少し傾げながら乾に質問する。眉間にシワが寄ってなかったら可愛いんだけどなぁ。って、乾知ってたのか。
「あぁ、咲本ひなたのデータを蓮二に聞いたんだが、咲本は帰宅部で立海にマネージャーはまだいないということだ」
「じゃあアンタ嘘ついてたの?」
『え、と……ごめん、なさ……ぃ』
リョーマからの言葉が胸に突き刺さるが、弱い人間に見られたくないので泣きそうになるのをなんとか耐える。
「そういえば先週は立海の丸井が一緒にいたよね。何か事情でもあるんじゃない?」
不二君が私の肩に軽く手を置き微笑む。今度は優しくて泣きそうだ。
『その、丸井せんぱ、いに偶然会って……それで、一緒に偵察に……。でも一般人と偵察……は不自然かな、って』
「うーんまぁ、大体分かったよ」
「別に気にしてないよ。全く、越前は言葉がキツイんだから」
「うぃーす。気をつけまーす」
タカさんに注意され返事をするものの絶対反省してないだろうと思わせる態度だ。
早く帰りたいなぁ。もうアイス渡したし誤解も解けたし帰ってもいいかな。いい、よね?
竜崎先生と手塚の元へ向かいこの二人にも本当の事を言い、そろそろ帰ると言うともう一度感謝の言葉を言われ青学は良い学校だなぁと改めて思った。リョーマは苦手だけど。
失礼しますとテニスコートから出ると英二が駆け寄ってきた。
「ひなたちゃんもう帰るの?」
『は、はい。先週はすいませんでした』
「全然気にしてないよーん。あ、じゃあさ連絡先教えてよ」
『あ、はい。…………あ』
「どうしたの?」
『け、携帯持ってません』
そういえばトリップしてきて携帯買うの忘れてた。よく私携帯なしで生活してきたな。英二は目を丸くし、「えー!そうなの!?」の大声を上げた。
『、また買っておきます』
「ホイ、連絡先。また携帯買ったらメールしてきてよ」
『りょ、了解です』
「じゃあね〜!またおいでよ」
いやもう用事がなかったら来ないかな。ぺこりと頭を下げ青学を後にした。
ハァ、緊張した。まだ心臓がバクバク言ってるよ。私一人で頑張った。トリップしてきてから勇気のいる行動ばかりしてる気がする。
時計を見ると十五時。まだ時間があるなぁ。お金持ってきてるし携帯を買いに行こうかな。
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携帯ショップを見つけ入るといらっしゃいませー!と元気な声で迎えられた。見渡すとあまり客はいなかったのでゆっくり見れるだろうと少し喜んだ。
携帯電話が並ぶ中最新作のスマホがあったりととても悩む。手に取って色々と見てると定員さんにオススメを勧められたので、断ることができず買うことになった。
希望の番号やアドレスを書いた紙を定員さんに渡し、少し待つように言われ暇していると隣で座っていた人に話しかけられた。
「んふっ、貴女もあのスマホにしたのですね。僕も色違いですがあれにしました」
『あぁ、はい』
み、観月はじめ……。確か聖ルドルフの人だったよね。この人あんまり私の中で印象が良くない。
「見たところ僕より年下ですかね」
『一年、です』
会話したくないよ、店員さん早く!チラリと店員さんを見るがまだ出来ないようだ。
「僕は聖ルドルフ中の三年です。観月はじめと言います」
『えっ、と、立海で……咲本ひなたです』
「あぁ、あの王者のところですか。立海ではテニス部が有名でしょう?」
『はい、まぁ』
僕も聖ルドルフのテニス部なんですけどね、とこの後長い間話をされる事になるとは今の私は知る由もなかった。
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