正座してたら
只今男子テニス部の部室で正座中です。
幸村君と真田は先にラリーをしに行ったので一人です。
誰にも見られてないんだったら逃げれるかも、と一瞬思ったけど何か魔王様には見えてる気がするから、大人しく正座してます。
『あぁ、私のバカー』
「そうだな、お前は馬鹿だ」
『分かってるよ。でも一緒に登校するとか心臓がもたな……あれ?』
私誰と会話してるんだ。ずっと一人だったはず……
「どうした、咲本」
『ややや柳先輩!?ど、どうして此処に』
「それはこっちの台詞だ。ここはテニス部の部室だからな。
咲本は精市と一緒に登校する約束をしていて、その約束を破ったといったところか」
『は、はい』
さ、流石参謀……。逆に何でそこまで分かるのか怖いんだけど。
「お前も馬鹿だな。大人しく約束を守っていればいいものを」
『わわわかってますよ。今 後悔中です!』
「フッ そうか」
テニスバックを置いて柳はロッカーへと向かい、見るなよと口角を上げて言ってきた。
初めは何の事だか全くわからなかったが、柳が制服に手をかけた瞬間意味が分かり、素早く目をそらした。
あ、危ない。男子の生着替えを見るところだった……。
柳の方を見ないようにしながら正座を続ける。そろそろ足が痛くなってきた。今絶対足が痺れて立てないな。
「いつまで正座をしていろと言われたんだ?」
『うひゃぁぁあ!』
「……咲本のそんな大声始めて聞いたぞ」
いいいきなり気配消して話し掛けないでよ。寿命が縮まるじゃん。もう着替え終わったのか、早いな男子は。あれ?何かノートにメモしてるし。
『えっとテニス部が朝練している間です』
「……精市も厳しいな」
頑張れよ、という言葉を残し私の頭を撫でて柳はラケットを持って部室から出て行った。
やめてくれよ、心臓がもたないじゃないか。
柳が出て行ってから数分経つとまたドアを開ける音が聞こえた。だ、誰だろう……。
「おや、貴方は?」
や、柳生だ。どうやって説明しようかな。
説明に悩んでいると先に柳生が口を開いた。
「すみませんが部外者は出て行ってもらえますか?」
『っ!』
そ、そうだよね。柳生は何も知らないし、それにテニス部はモテる。知らない女子が部室に居たら不快だよね。
『す、すみませっ……』
幸村君には悪いけど部室から出よう。急いでドアの方に向かおうとするが、足が痺れて立つことができない。
「どうされました?まだ何か」
関係のないことかもしれないが、私は負けず嫌いだ。何が何でも立つ。そしてさっきから柳生も心臓も煩い。
右足の裏を床につけると痺れた足が少し悲鳴を上げたが、何とか両足を床につけることが出来た。つまり立てた。よくやった私。
何も言わずに……否、何も言えずに部室のドアを開ける。チラリと柳生の方を向くと此方に背を向けていた。
外に出るとボールを打つ音が聞こえ、コートに三強が見えた。ばれないように走って逃げようとすると、……転んだ。
転んだ痛さと先程の柳生の冷ややかな目を思い出して視界がぼやけた。
足が痺れて転んだままの体制から元に戻れない。ハァ、今日は朝から嫌なことばかり。
『もーやだ、ううぅ……』
不恰好なのは分かってるけど色んな感情がごちゃごちゃになり涙がポロポロこぼれた。
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「それでソイツがよー、ん?」
「どうした?ブン太」
「ジャッカル……アイツ」
丸井が部室の近くで倒れている女子を指差す。ジャッカルは驚いて目を丸くしたが、直ぐその女子が見覚えのある顔ということが分かった。
「咲本!」
「お、おいジャッカルっ!」
女子の方へ走って行ったジャッカルの後を追う丸井。近付いて行くに連れて丸井もその女子が誰なのか分かった。
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自分の名前を呼ばれて顔を上げると、ジャッカルとブン太が心配そうな顔で此方に向かって走って来る姿が見え焦った。
いつの間にか私の目の前に来た二人。
「どうしたんだ、咲本!」
「何で泣いてんだよ」
『えっとその足が痺れて転んで……』
「ほら、手」
ジャッカルが差し出す手に困惑しながらも、断るのも悪いのでその手を借り立ち上がった。
凄い力だなぁ。それにすっごい手、大きかった。
「ったく心配させんなよなー」
『えぇ……すいません』
ブン太が呆れ顔で言ってきた。
足が痺れて転んだ事には何もツッコまないんだね、その方が有難いけど。
「お前咲本って言うのか。
俺らお互い名前言ってねーよな。
俺は三年の丸井ブン太。シクヨロ」
『一年の咲本ひなたです』
出たブン太のシクヨロ!
「んじゃ、ひなたでいっか。
俺の事はブン太様って呼んでもいいぜぃ」
ーーイラッ。丸いブタと呼んでやろうか。
『……丸井先輩で』
「可愛くねぇなー」
「俺の事は覚えてるか?」
『はい、ジャッカル先輩ですよね』
「あぁ」
「お、おい!じゃあ俺もブン太先輩って呼べよ」
『えぇ……あ、朝練早く行かないとダメじゃないんですか?』
「話そらしやがった!」
「ブン太、早く行かねーと!じゃあな咲本」
「次からちゃんと呼べよ!」
私はブン太の言葉を無視し、手をひらひらと振って二人が部室に入るのを見届けた。
二人のおかげで何か元気でたな。
まだ一時間目まで時間あるし、教室に戻ってゆっくりしよう。
正座してたら
(足が痺れて転びました)
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