Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
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始まったばかり



「腹一杯になったし、この後ゲームで遊ぼうぜ!」
「イイっすね! 誰の部屋集合っすか?」

「咲本さん、ちょっと良いかな」
「は、はい!」

夕食を終え食器を片付けていると、ブン太と赤也がわいわいと騒いでいた。そんな中、幸村君が真剣な顔で私に話しかけてきた。
怒られる? 何かしたっけ。どどどうしよう。

「えー、幸村部長もゲームしましょうよ」
「赤也、弦一郎がそのゲームをしたいと前に言っていたぞ。誘ってやったらどうだ?」
「真田副部長が!? 絶対ありえねぇっす!」

柳に気にせず行けと言われて、幸村君の後について行った。くるりと後ろに振り向いた彼は散歩しよう、と微笑んだ。

合宿所の外に出て二人で並んで歩く。今日あった出来事をお互い話し合って笑い合って。
この時間がずっと続けば良いななんて考えていた。


木々の葉の囁きと自分達の足音しか聞こえない、静かな時だった。不意に告白というワードが頭に浮かび、心拍数が上がった。もしかして二人きりの今、このタイミングがベストなのではないだろうか。
スーっと息を吸って話を切り出そうと幸村君を見たら、彼は花壇を見ていた。

「綺麗ですね。パンジーですか?」
「うん、綺麗に咲いたんだよ。……パンジーの花言葉は私を思って、なんだ」
「私を思って……」
「リナリアの花言葉はこの恋に気づいて、なんだよ」
「へっ?」
「俺から君へのメッセージのつもりだったんだ」
「そ、れは……」
「君が俺達と関わってマネージャーになって、そばで支えてくれて一緒に喜んでくれて一緒に悲しんでくれて。家で一緒にご飯を食べた時も水族館のデートも、君との思い出をこれからも作っていきたい。……もう回りくどいことはやめるよ。きっとちゃんと言わないと気づいてくれないだろうしね」

そんな、もしかして……。そんな事って……。
考える時間もなく、彼の言葉は続く。

「ーー好きだよ。ずっと俺は君が好きだったんだ」
「……っ」

心臓がバクバクして体温が一気に上がったのが分かる。私も、私の気持ちを伝えなきゃ。そう思うのに上手く言葉が発せない。顔の熱が高くて目尻が熱くなって涙が溢れ出てくる。

「わ、わたっ……私」
「うん」
「す、き……っ。わたっ、私も……」

そう言葉にした瞬間、涙が頬を伝う。

「ふふっ、泣かなくても」

彼の手が私の頬を優しく撫でる。

「付き合ってほしい」
「っ、はい……!」

まさか幸村君が私と同じ気持ちだったなんて。それに彼の口から伝えてくれた、花で伝えてくれていた。嬉しくてとても嬉しくて、胸がいっぱいになる。

「嬉しい、です」
「うん、俺も。……、戻ろうか」

スッと差し出された手に遠慮がちに手を重ねる。私より大きな手が優しく包み込んでドキリと胸が高鳴った。


********************


施設に戻ると入り口付近のソファに柳が座っていた。思わず繋いだ手を離そうとしたが、強く握られて離せなかった。それを見た柳は立ち上がり、私達に近づいて来た。ようやくか、溜息混じりに言った柳に幸村君は「お見通しだね」と笑った。

「良かったな、咲本」
「はい。ゆ、夢のようです」
「夢じゃないよ。皆に報告に行こうか」
「えっ!? そ、そそそれはちょっと……心の準備が」
「弦一郎達なら、仁王の部屋に集まっている」
「そう、ありがとう。行くよ、ひなた」
「えっ! えええぇ!?」

混乱したまま手を引っ張られて、あっという間に仁王王国と書かれた部屋に着く。部屋の中からは皆の笑い声が聞こえてくる。
幸村君がコンコンとドアをノックすると、中にいたジャッカルがドアを開けてくれた。

「来たか。……ん? あー、もしかしてか?」

ジャッカルは私達の繋がれた手を見て察した。恥ずかしくて俯いてしまうが、笑顔の幸村君に覗き込まれる。

「ふふっ、ジャッカルは勘が良いね」
「そっか。おめでとう」
「ありがとう」

「おぉ、来たか二人とも。お茶を淹れよう」
「悪いね、真田。……皆、ちょっといいかい?」

幸村君の呼びかけにゲームしていた皆が手を止めてこちらを向く。

「どうしたんスか幸村部長。ひなたと手なんか繋いじゃって。二人も何かゲームしてたり?」
「赤也」
「なんスか丸井先輩。真剣な顔して……」

「俺と咲本さん、付き合うことになった」

それから数秒、いや数十秒、沈黙が続いた。冗談だと思っているのかな。そりゃ私と幸村君だもんな。神の子の隣に立つなんて冗談だって思うよね。私も信じられないもん。
そこでハッとしたように柳生が口を開いた。

「お二人ともおめでとうございます。心から祝福します」
「めでたいな。おめでとう。蓮二はもう知っているのか?」
「あぁ、さっき会ってね」
「そうか」

柳生と真田は祝福してくれた一方で、赤也は引きつった顔をしていた。

「そ、そんな……。ひなたが、幸村部長と……? 丸井先輩!仁王先輩!」
「おう。ひなたの気持ちは知ってたし、いずれそうなるだろうなとは思ってたぜぃ」
「右に同じぜよ」
「そーなんスか!?」
「俺が彼氏で何か不満でも?」
「エッ! 何もないっス!」

幸村君の後ろに真っ黒なオーラが見えた気がして、思わず「ヒョエ」と声が漏れた。
この魔王様をどうすれば良いのか脳内で慌てていると館内放送で幸村君が呼び出され、いなくなってしまった。その瞬間、一気に皆がこちらを向く。

「ひなた、本当に幸村部長で良いのかよ」
「それ幸村君に怒られるぞ赤也」
「む、寧ろ私で良いのかって思うくらいで……信じられないです」
「まっ、お前が幸せならいいや。大切にしてもらえよ」
「え、あ、ありがとうございます」

ブン太に頭を撫でられた。優しい撫で方に心が温かくなった。

「安心せぇ、捨てられたら俺がもらってやるナリ」
「すっ捨てられ……!?」
「やめなさい、仁王君」

「あー何かテニスしたくなってきたっス」
「俺も」

自分も、と皆がテニスラケットを持って部屋から出ていく。どうしたものかと迷っていると、真田に行かないのか、と聞かれたのでついていくことに決めた。


外に出るとテニスコートで赤也、ブン太、仁王が大声で会話しながらラリーを始めていた。

「何かモヤモヤするっスー!」
「おま、それって……」
「丸井先輩、なんか言ったっスかー?」
「赤也もまだまだお子様じゃのー」
「ハァ? 意味わかんねぇっス!」

「元気があり余っているなら、俺がまとめて相手をしてやろう。キエェェェ!」

ラケットを振り上げながら三人の元へ走る真田から、三人が叫んで逃げる。こういうところが立海なんだよね。ほんと見ていて飽きないなぁ。

「俺達もラリーするかい?」
「え!? いつの間に……」

突然右隣に現れた幸村君は右手にラケットを持っている。いつの間に。

「ミスする毎にこの柳特製オリジナルドリンクを飲んでもらおうか」

左隣には柳がいて、また驚いてしまう。そして手に持つドリンクはおかしな色をしていてこれは危険なものだと瞬時に理解した。

「えっと、柳先輩? それって幸村君と私ではないですよね?」
「そのつもりで言ったんだが」
「えぇ!?」
「じゃあ俺とペアになってあっちで騒いでいるバカ四人を相手するのはどう?」
「ふふっ、じゃあそれでお願いします」
「じゃあ行こうか」

そう言って走り出す幸村君の後を追いかけようとしたら柳に呼び止められた。

「どうしたんですか? あ、このドリンク持っていけってことですか?」
「俺は……変わっていく咲本を見て嬉しく思う」
「と、突然ですね」
「いつでも頼ってくれて良い」
「……ありがとうございます」
「あぁ。……精市が待っているぞ。行ってこい」
「はい、行ってきます!」

柳に背中を押され、幸村君の元へと走る。私の足音に気づいて彼は振り返る。

「こっちだよ、ひなた」
「はい!」


ーーこの世界に飛ばされて、初めはどうなるんだろうって不安と寂しさしかなかった。でもそんな私に”まさか”の出来事が続いて、気づけば周りには沢山の人がいて。
楽しいことや嬉しいことだけじゃなかったけど確実に私は成長できた。
大好きな人もできて嘘みたいだけど今はその人の隣に立てている。
これからもこの幸せが続くように、そしてこの世界に来れたことに感謝して歩いて行こう。

わたしは今、心から幸せです




始まりはこの世界、だけどまだ
始まったばかり






ー完ー


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