お菓子作り
今日は一日お休みなので、お菓子作りをしようと思う。桜乃ちゃんと朋ちゃんはもう帰ってしまったけど、二人からアドバイスをもらっている。
題して、お菓子で彼のハートを射抜いちゃえ! 大作戦……あぁ、恥ずかしい。
材料を買ってきてキッチンを借りて作るものも決まっている。
「よし、頑張るぞ」
「何してるんだい?」
「うわぁぁあ!!」
突然背後に現れたお菓子を渡す予定の彼。まずい、作っているところを見られるのは非常に困る。
「何でも! 何でもないので! 幸村君は練習頑張って下さい」
「ふふっ、今日は練習休みだよ」
「じゃあお花のお世話して下さい」
「花壇には後で行くよ」
「今! 今でお願いします」
「うーん、分かった。じゃあまたね」
「はい、また!」
何とか幸村君をキッチンから追い出すことに成功した。追い出されたのに何故か嬉しそうだったなぁ……。
数十分後、シュー生地が中々上手く膨らまなくて悩んでいると、話し声が聞こえてきた。
「何か旨そうな匂いがする」
「ん? ほんとだ。丸井君鼻良いねー」
「キッチンの方からだな」
この声はブン太とジローかな。お菓子作ってるのバレたくないけど、ブン太ってお菓子作り得意だっけ。シュー生地の作り方知らないかな……。
キッチンの入り口から顔を出したのは、予想通りの二人だった。
「あー! ひなたちゃんだCー」
「!」
「こ、こんにちは」
「……よっ! お菓子作りしてんだろぃ? シュークリーム作ってんの?」
「正解です。でも生地が上手く膨らまなくて」
「シュークリーム食べたいし、一緒に作ろうぜぃ」
「俺も俺も!」
「ぜ、ぜひ!」
ブン太は腕まくりをして冷蔵庫から材料を取り出した。それを見てジローは目を輝かせている。一人で頑張ろうと思ってたけど、皆で作るのも良いかもしれない。
「シュー生地作りは温度が重要だろぃ。まず下準備から始めるか」
「おぉ……!」
テキパキと私とジローに指示を出していくブン太。無駄な作業がなく生地作りが行われていく。
「ひなた、薄力粉を入れたら手早くな」
「は、はい!」
そうしてあっという間に生地が出来上がり、オーブンに入れて焼き上がりを待つことになった。オーブンの中の生地を見てふと思う。作るのに夢中で気付かなかったけど、たくさん作りすぎている気がする。
「つ、作りすぎました?」
「ちょうど良いくらいだろぃ」
「まだかな〜。俺お腹減ってきたC」
「……これ誰かにあげんの?」
「えっ!? は、はい」
「ふーん、そっか。きっと幸村君喜んでくれるな」
「!?」
どうして幸村君にあげるって分かったんだ。言ったっけ。言ってないよね。
「どっ、どうし……」
「お、上手く膨らんでる」
「ほんとだ!」
「……」
うん……、まぁいっか。
すると突然キッチンのドアがガラリと開かれた。顔をのぞかせたのは、赤也と仁王だった。
「何してるんスか? めっちゃいい匂いするんスけど」
「三人で菓子パか。ずるいのぅ」
立海率高いけど、何故立海メンバーばっかりキッチンに来るんだ。毎日来てるのかな。
ブン太が二人にシュークリームを作っていることを説明すると、仁王が怪しく口角を上げた。
「ロシアンルーレットするナリ」
「えっ」
「楽しそうっス!」
「たくさん作ったしな」
「なにそれ楽しそうだC」
ちょうどシュー生地が出来上がり、皆でクリームを入れていく。そんな中、仁王だけが怪しいものを入れていた。何あれ、乾汁に似たようなものを感じるんだけど。
「仁王先輩、それ何入れたんスか……」
「参謀が青学の乾と何か作っとったから、こっそり取ってきたぜよ」
それ危ないやつ……!! 一回気を失ったことがあるから乾汁の恐ろしさは身をもって知っている。
「も、もう少し人がいた方が盛り上がりそうっスよね!?」
「賛成です」
「だよな。じゃあ俺とひなたで行ってくるっス!」
二人で逃げるようにキッチンから出て知り合いを探す。渋い顔をした赤也と不意に目があった。
「あれぜってー危ないやつだよな」
「はい。せめて危険なシュークリームが当たる確率が低い方が良いです」
「ブッ。お前、柳先輩に似てきたな」
「えっ、そうでしょうか」
嬉しいような、何というか。喜んで良いのかわからない。
「誰呼ぶ?」
「うーん……」
「ムカつく奴とかぶっ倒れた姿見たい奴とか」
「あっ」
「え。いんの?」
********************
「ヤダね」
リョーマのところに来た。何となく思い浮かんだのが彼だった。シュークリームを作りすぎたから一緒にお菓子パーティしようと言うと、顔をしかめながら拒否された。
「何でだよ。ひなたと丸井先輩が作ったんだから美味しいはずだぜ」
「何か裏がありそうで嫌っス」
「「……」」
バレてるし仕方ない、諦めて別の人を探そうと思ったところで赤也が口を開いた。
「まー正直に言うとロシアンルーレットするんだけどよ。運もあるし越前、俺達に負けるのが怖いんだなぁ。運悪そうだし。まぁ仕方ねぇな。な、ひなた」
「え、あ、はい。そうですね」
赤也じゃないんだからそんな煽りでリョーマがのってくるわけ……。
「キッチンだっけ」
「え?」
「俺も参加するって言ってんの」
「は、はい。キッチン……」
そしてリョーマはスタスタとキッチンへ向かっていった。思わずふき出してしまいそうになる。隣では指パッチンの音がした。
「やりぃ」
「すごいです」
「あと一人は連れていきたいよな」
「そうですね」
知り合いとすれ違わないかな、と思いながら赤也と廊下を歩いているとどこからか不気味な笑い声が聞こえてきた。
「ななな、何か聞こえねぇ!?」
「聞こえますね。……あの部屋でしょうか」
声が聞こえてくる部屋に耳を傾ける。廊下側に窓がない為、ドアを開けないと中に誰がいるのかわからない。
「怖くねぇの?」
「えっと、特には」
「ーーそれは、ーーこれを入れたら……」
あれ、でもこの声聞いたことがあるような。部屋のドアに近づき中の声を聞くのに耳を集中すると、話し声の人物が誰なのか確信した。
不安そうな顔をしている赤也に、中にいるのは知っている人だと教える。するとタイミング良く目の前のドアがガチャリと開いた。
「何をしているんだ?」
「や、柳先輩っスかー!」
「? そうだが」
「ふふっ、当たってました」
「?」
後ろから乾の声も聞こえた。二人で乾汁作っていたんだろうな。仁王がさっき言ってたし。
「今から菓子パするんスけど柳先輩もどうスか?」
「えっ、あぁーー! だめです」
慌てて赤也を止めると二人ともきょとんとした。柳に聞こえないよう赤也に小声で話す。
「仁王先輩がこっそり取ったのバレます」
「あっ」
「……どうした?」
「すんません、やっぱ聞かなかったことにして下さい」
「あぁ、分かった」
特に気にすることなく柳は部屋に戻っていった。
その後、誰も見つけることができなかったので渋々キッチンへ戻ってきたら、人数が増えていた。
元々いた、ブン太、ジロー、仁王の他にリョーマと不二君が加わって大人数になっていた。リョーマ、本当に来たんだ。一方ジローは口の端にクリームをつけて爆睡している。先に食べたんだろうなぁ。
「おっ、二人とも戻ってきたな。シュークリーム完成してるぜぃ」
「ロシアンルーレット、始めるぜよ」
六つのシュークリームが並べられ、ジャンケンで勝った順にシュークリームを取っていく。どれが危ないものなのか分からないけど、いい感じに焼けたなぁ。
恐る恐るシュークリームを食べると甘いクリームが口の中に広がったので、私は当たりを引いたのだと思った。
ハズレを引いたのは誰だろうと皆の様子をうかがうと、皆美味しそうに食べていた。
「仁王先輩ちゃんと入れたんスか?」
「入れたぜよ」
「めちゃくちゃ美味い。やっぱ俺って天才的ぃ」
「うまいっス」
「美味しいけど、変わった味がするね」
「……」
もしかしてハズレを食べたの不二君なのでは? 気付いているのは多分私だけで、皆のきょとんとした顔を見て思わず笑ってしまった。何を笑っているんだとリョーマからツッコまれ、口を開く。
「た、多分……不二、さんかと。ハズレ引いたの」
「僕? 確か変わった味はしていたけど、美味しかったよ?」
「クリームは変な色していたけど、不味くはなかったってことか」
「面白くないのぉ」
その後、何度かロシアンルーレットをしたら、ハズレを引いた人たちが次々に倒れていったので、不二君が無敵だっただけということが分かった。
********************
皆と解散し、シュークリームを持ってラウンジに行くと紅茶を飲んでいる幸村君を見つけた。近づくと顔を上げた彼と目が合った。自然と顔が緩むのと同時に心拍数が上がる。
「さっきは何を作っていたんだい?」
「しゅ、シュークリームを……」
「へぇ。俺も食べたかったな」
「……えっと、作ってて。良かったら貰っていただけると……」
「ほんとかい? 嬉しいな」
「いつものお礼、です」
「お礼? ……こちらこそいつもありがとう」
シュークリームを入れた箱を渡すと、幸村君は喜んでくれた。そして一緒に食べよう、と隣の席を引いてくれた。
彼は箱の中からシュークリームを二つ取り出し一つを私に渡す。緊張しながら食べたけど、今日食べた中でこのシュークリームが一番美味しかった気がした。
お菓子作り
(この時間がずっと)
(続いたらいいな)
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