Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
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届かない言葉は

夕方になると数十本並んだ竹の周りに人が集まりだし、箸とつゆの入った紙コップを皆それぞれ取っていく。竹を使った本格的な流しそうめんだった。

合宿所に来てからは同じコートや同じ部屋の人同士で集まっていることが多かったけど、今日は立海メンバーが集まっている。

「ふむ、本物の竹を使っているのだな」
「何が流れてくるのか楽しみぜよ」
「仁王君、流れてくるのは麺ですよ」
「よっしゃー! 食うぞぃ」

皆盛り上がってるし、私もわくわくしてきた。それにしても中学生と高校生が集まると凄い人数だ。

「目を離したらはぐれる確率75.5%だ」
「えっ? あぁ、そうですね」
「赤也と勘違いしてそうだから言うが、お前のことだ」
「えぇ!? だ、大丈夫ですよ。ちゃんと近くにいます」
「なら良いが。行くぞ」

私の頭に手を優しく置いてから皆の向かう方へと柳は歩いて行ったので、はぐれないように後を追った。


********************


沢山の竹が並ぶ中、立海メンバーは皆一本の竹の周りに集まっていた。麺が流れ出すととても周りが盛り上がっていて、私も楽しくなってきた。

長い竹の上を流れてくる麺を箸で掴もうとするが、意外と流れるスピードが早い。一般的な流しそうめんよりとても早い気がする。一瞬で目の前を麺が通り過ぎるもん。動体視力が鍛えられそうではあるけど。

周りは皆、普通に麺を取って食べている。何でだ。

麺をすくえないでいると隣で吹き出す音が聞こえた。ブン太だ。彼の紙コップには麺がいっぱい入っていて羨ましい。

「ひなた全然食べれてねぇじゃん」
「麺が早すぎるんです!」
「コツを教えてやるよ。見とけぃ」
「はい!」
「あそこにある竹と竹の境目見えるだろぃ。そこに麺が通った瞬間箸を入れんだ」
「なるほど」
「やってみろぃ」

教えられた通りにやると、なんと麺を取ることが出来た。

「ふぉぉお……!」
「俺って教えるのも天才的ぃ」
「ありがとうございます! とても嬉しいです」
「おう。早く食べろよー」

幸せだ。流れてくる素麺が取れただけって思われるかもしれないけど、全然食べれなかったものがようやく食べれるんだ。お腹もペコペコだし本当に嬉しい。

「仁王君、それは一体何ですか?」
「トマトじゃ。流れてきたぜよ」
「素麺以外も流れてくるとは。面白いですね」

仁王と柳生の会話を聞いて、バッと竹を見ると赤いプチトマトが流れていた。他にも細くスライスされたきゅうりやハムも流れている。
嬉しさで興奮しながらプチトマトを箸で掴んだ瞬間、トマトは私の箸から滑り宙を舞った。

そして、トマトが幸村君の持つ紙コップに綺麗に入った。彼との距離は少し離れていたのになんてこった。

「「…………」」
「フフッ、咲本さんからのプレゼント貰っておくよ」
「……! は、はぃ」

恥ずかしいー!! でもウインクしてトマトを食べる幸村君、カッコいいかも……。
すると横から柳が納得したように「ふむ」と声を出した。

「咲本、上手くやっているようだな。青学の女性二人のアドバイスが効いたか」
「ヒッ! な、何故アドバイスを受けた事を知っているんですか。でも私、そんなに行動出来ていないというか、アピール出来てない……です」
「そう思っていても精市の方はどう思っているか分からないぞ」

そうして柳は幸村君の方へ歩いて行った。彼がどう思っているか……。どう思われているんだろう。


「……変な柳。まるでひなたが幸村君の事を好きみたいな」
「!? えっ、えっと」

ブン太との間に沈黙が流れる。そして彼は頭を掻いて私から目を逸らした。

「あー……、そ、そっか。いつの間にかそんなことになってたんだな、へー」
「丸井、先輩?」
「……俺はずっと、」
「?」
「いや、何でもねぇ。……頑張れよぃ。応援してるぜぃ」
「わっ、あ、ありがとうございます」

ブン太は私の頭に手を置いて少し乱暴に頭を撫でた。彼がどんな表情をしているのか見えない。声が震えているように聞こえたけど、気のせいだろうか。




届かない言葉は


(虚しく消えた)


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