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コケシ

テニスコートを見回りながら歩いていると、近くの草むらからガサガサと音が聞こえた。猫でも迷い込んだのかなと思って近付いたのが間違いだった。草むらから出てきたのは猫ではなく、怪しいおじさんだった。

「お? おぉっ!」
「ひっ! わぁぁ!!」
「ちょっ、逃げんといてぇな!」

関西弁?……ってことは四天宝寺中の関係者だろうか。上から帽子、髭、タバコ。よく見ると四天宝寺中の監督だった。オサムちゃんだったっけ。

「え、えっと、何か?」
「ちょっと迷ってしもて、中学生が練習するコートどこか知らへん?」
「……、よかったら案内しましょうか?」
「ほんまかいな。おおきに、助かるわぁ」

四天宝寺中の皆にはお世話になってるし、案内するくらいなら。

「皆練習してるコートが違うんですけど、誰から見に行かれますか?」
「せやなぁ。じゃあ白石から見に行くか。白石蔵ノ介って分かる?」
「はい。えっと、確か三番コートにいるので案内します。白石さんの他に千歳さんと石田さんがいます」
「へぇー、詳しいなぁ。どんな感じか見たろ」

先生を三番コートに案内すると、お礼にとコケシを渡された。可愛い。


「行ってよし!」

聞いたことある台詞が後ろから聞こえた。振り返ると男性が跡部とジローに向かって二本指を差していた。あの人氷帝の榊監督だよね。あの、行ってよしが聞けた!?
喜んでいると、薔薇の香りが鼻をかすめた。

「咲本じゃねーの。このコートに来るなんて珍しいな」
「は、はい。四天宝寺中の先生を案内してました」
「そうか、ご苦労だな。……何だそのコケシは」
「先生から貰いました。可愛いです」
「可愛い? 不気味な顔をしているが……。これが可愛いのか」
「えっ、はい」

不気味かなぁ、とコケシの顔を見つめる。厄を払ってくれそう。

「この後どうするんだ?」
「見回り、ですかね」
「練習、見ていったらどうだ」
「はっはい!」

そして彼は練習に戻っていった。三番コートの練習を見学させてもらう。そういえばこのコートで練習を見ていくっていうのがあまりなかった気がする。メンバーを見ると跡部に白石に木手、橘さんと部長が多い。立海は赤也一人なんだ。

ラリーしてるだけで迫力があるなぁ。

「あれ? ひなた!」

練習中の赤也が私に気付いて手を振ってくれた。手を振り返そうとしたけど、赤也目掛けてボールが飛んできていて、必死にボールを指差す。

「ぼっ、ボール! 前!」
「?」

スコーン、と彼のおでこにボールが当たって体は吹っ飛んでいった。真田がいたら余所見をするなどたるんどるーって怒鳴っていただろうな。相手が白石だったから心配されてるけど。保冷剤とタオル、取りに行こう。


数分後に戻ると、赤也は練習を抜けて木陰で休んでいた。休憩中だし話しかけても良いかな。

「おでこ、大丈夫ですか?」
「あっ、ひなた」
「これで冷やして下さい」
「サンキュー」
「はい」

タオルで保冷剤を包んでおでこに当てると、赤也は冷てぇー!と叫んでいた。心なしか嬉しそうに見える。

「ひなたがこのコート来るの珍しいよな。他のコートはよく来てるって先輩達から聞いてたけど」
「そ、そうですよね。ゆっくり練習見るの初めてです」
「だから見つけた時はびっくりしたぜ」
「すみません、急に来てしまって」
「もっと来てくれよ。俺いっぱい練習して強くなるからさ」
「ふっ、分かりました」

本当赤也は可愛いなぁ。今日はもうちょっとこのコートにいようかな、と思って遠くを見ていたらポケットに入っていたスマホが振動した。

「どうした?」
「齋藤コーチからメールが。えっと、本日の18時から流しそうめんをします。準備を手伝って下さい……って」
「流しそうめん!?」

楽しそうなイベントをするんだなぁ。皆の喜ぶ顔が目に浮かんで思わず笑ってしまった。

「やりぃ!」
「楽しみですね。もう少し練習見たらお手伝いしてきますね」
「おう! 皆に教えてやろーっと。あ、おーい。ウザウザー!」
「what?」

ウザ? え、英語? 赤也は金髪の外国人に声を掛けていた。すごいな、あの人も中学生だろうか。見たことあるようなないような。それにしても名前がウザウザーって。……あだ名かな。

確か赤也は英語が苦手だったはずなのに、外国人に話しかけるなんて成長したなぁ。英語で会話したりするのかな。

「今日、流しそうめんするんだってよ!」
「ナガシ……ソウメン?」
「そう流しそうめん! 楽しくて美味しいんだぜ」
「タノシイ食べモノですか」

全然英語で話してなかった……。あのウザウザーって人が理解してる。日本語分かるんだ。

あの二人の微笑ましい会話を見た後、私は準備しにコケシ片手に施設に戻った。




コケシ


(部屋に置いておこう)
(可愛いけど、これ勝手に移動したり)
(しないよね?)


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