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勇気は一瞬


朋ちゃんに好きな人へのアピールの仕方を教えてもらい、桜乃ちゃんにはヘアアレンジをしてもらった。まず彼を見つけたら声を掛けるか、彼の視界に入って声を掛けてもらう。これ柳にも言われたっけ。

「ーーさん」

そして意識して名前をたくさん呼ぶ。更にさり気なくボディタッチ……って朋ちゃんが言ってたけど、ボディタッチはハードルが高い。あとちゃんと目を合わせる。それと他には何て言ってたっけ。

「咲本さん」

「わぁぁぁ!!」
「何度か呼んだんだけど、何か考え事かい?」
「えっ、あ、えっと……」

幸村君だ。意識し過ぎて上手く言葉が出てこない。彼は首を傾けて不思議そうに私を見る。いつものように目を逸らそうとしてしまったけど、目を逸らしちゃ、駄目だ。視線を戻すとぱちりと彼と目が合ってしまって逸らせなくなった。

「どうしたんだい?」
「あ、あの」
「?」
「考え事ではなくて」

何も言葉が出てこないー! 心臓はバクバクうるさいし視界が回ってきた。

「あ、あの花って!」
「あの花?」
「えっと前に頂いたリナリアです!」
「あぁ」
「何か意味とかあるんですか!?」

何言ってるんだ私! 混乱して意味の分からない事を聞いてしまった。幸村君の誕生花だって前に言ってたのに。彼は自分の顎に手を当てて私を見た。

「意味、そうだね。リナリアの花言葉は調べた?」
「調べて、ないです」
「そうか」
「どういう意味なんですか?」
「……、それはまだ言いたくないかな」
「そ、ですか」

気まずそうに目を逸らされる。どうしよう。彼を困らせてしまった。ここから去った方が良いだろうかと足を後ろに引いた時、幸村君は口を開いた。

「俺は不安なんだよ」
「え?」
「君が前のように……俺の前から消えたりしないかって不安で仕方ないんだ。君がいなくなった時、記憶が無くなるんだ。まるでこの世に初めから君が居なかったかのように」
「……」
「もしまたいなくなってしまった時、俺は君との思い出を全部忘れてしまう。それが何より怖いんだ」

私が元の場所に戻ったら、私達は記憶を失ってしまう。幸村君の考えている事は普通で、私もそう思っている。でも今回のトリップは戻らない気がしている。

「不安にさせてしまって、ごめんなさい。でも何となく、何となくですけど、もう私は元の世界には戻らない気がするんです。たとえ戻ったとしてもまたすぐに戻ってきます」
「そうか、咲本さんがそう言うなら信じてみるよ。すまない。暗い話をしてしまったね」
「い、いえ」

もし戻ってしまったら、この特別な感情も忘れてしまうのかな。悲しいけどそれより彼に悲しい思いはさせたくない。

「今日はいつもと髪型が違うんだね」
「はい。友達にしてもらって」
「友達?」
「青学から女の子が二人来てて、その子達に……」
「へぇ。似合ってるよ、可愛いね」
「ーーっ、はい」

笑顔が美しすぎて思わず息を止めてしまっていた。髪型変えたの気付いてもらえて嬉しい。二人には感謝だ。

「あっ、えっとゆ、幸村君……は何してたんですか?」
「さっきまで走ってたんだ。そしたら偶々君を見つけてね」
「そ、でしたか。ご飯は食べましたか?」
「まだだよ。一緒に行こうか」
「はい」




********************


午後、私の元へ桜乃ちゃんと朋ちゃんがやって来た。二人ともニヤニヤしている。

「見たわよー!」
「なっ何を!?」
「ひなたちゃんが幸村先輩と良い雰囲気だったところ」
「良い雰囲気!?」
「結構良い感じなのね!」
「昨日の朋ちゃんの作戦は実行できた?」
「あっ、ちょっとだけ出来たよ! それに髪型も可愛いって言ってくれて……。ありがとう二人とも」

そう言うとキャー!と二人で手を握りあって飛び跳ねていた。

「じゃあ次は告白ね!」
「こくっ……!?」
「朋ちゃん、いきなりすぎない!?」
「だってどっちかが言わないと付き合えないじゃない」
「「……」」

桜乃ちゃんと目が合った。彼女は自分の事のように顔を真っ赤にしている。確かに朋ちゃんの言っていることは正しい。
でも私、幸村君と付き合いたいと思っているのかな。別に今のままでも……。

「まさか、別に付き合わなくても良いなんて思ってないわよね?」
「うっ!!」
「ここから進まないのなんて私は反対よ。ね、桜乃はどう思う?」
「私は、ひなたちゃんには後悔してほしくないなって思う。このままでも幸せだと思うし変わりたくないって思うのはとても分かるの。でもその間にお互いに別に好きな人ができたとしたら? もし今行動していたら叶っていた恋を諦めたら、後悔しか残らないんじゃないかな」
「桜乃ちゃん……」
「桜乃……。良いこと言うわね!」

彼女の言う通りだ。私は中学高校で何も行動せずに今になって青春出来なかったと後悔してたじゃないか。トリップしたきっかけは後悔だった。それを忘れて今のままで良いだなんて前と変わらない。

「桜乃ちゃん、朋ちゃん、ありがとう。私間違ってた。もっと頑張ってみようと思います」

二人は頑張れと私の背中を押してくれた。後悔はしたくない。




勇気は一瞬


(よし、がんばろう)

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