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知りたかった感情

保健医さんが去って行って平凡な日常が戻ってきた。いや、合宿所にいるだけで平凡ではないんだけど。
彼女から言われた言葉を思い出すと、顔が爆発したかのように一気に熱が上がる。……外に出て顔の熱を冷まそう。

外を散歩しながら空の上の雲を眺めてふと思った。私、側から見て幸村君に好意を持っているように見えてたんだ。そんな私分かりやすい行動とってたっけ。いやいやその前に私は本当に幸村君が異性として好きなのだろうか。

彼は顔が良いしテニスは上手いし意地悪なところもあるけど優しいし。好きになる要素は沢山ある。でもそれは他の人にだってそうだ。幸村君以外の人が近づいてもドキドキして緊張するし変な汗も出る。いつ……私は彼を好きに、どういうきっかけで……? やっぱりあの人の勘違い……。

「あーーーー!!」

ダメだダメだ。考えれば考えるだけ分からなくなってくる。恋愛初心者って本当困ったものだ。自分の気持ちが全く分からない。こういう時はお母さんに聞くのが一番。



ーーそう思って柳の元へ来たわけだけど。

「相談とは何だ?」
「あ、いや、その……」

今まで恋愛相談なんてしたことがなかった。
それに異性に相談するってどうなんだろう。というかどう相談すれば良いの!?

「相談……しようと思ってたんですけど、やっぱり……」
「ふむ……。その相談、恋愛相談か?」
「!? なななななっんで分かって!?」
「正解か」

口角を上げながらノートに書き込む柳に恐怖しか感じなかった。なんで分かるの。

「あの保健の先生が去ってから、ずっと様子がおかしかったからな。行動や表情で心理状況を推測した」
「さ、さすが……」

柳の観察力が凄すぎる。そこでふと思った。もしかして相手までバレているのではないかと。

「好きなのだろう? あいつのことが」
「えっ!? そ、そんな、幸村先輩が好きだなんて一言も……!」
「俺も精市だとは一言も言ってないぞ」
「!?!?」

「……。すまない、いじめ過ぎた。オイ何処に隠れている」
「もう……消えてなくなりたい」

柳の背後へ回り、彼の上ジャージを捲り上げてその中に頭を突っ込んだ。穴があったら入りたい状態だ。自分の発言によって彼にバレたことが恥ずかしい。

「うぅ……、もう相談します。聞いてください」
「あぁ。聞いてやろう」
「保健医さんに私は幸村先輩が好きだと言われたんです。でも、私……本当に好きなのか、この気持ちが何なのか分からなくて」
「好きな気持ちは他人に言われてどうこうなるわけではないからな。では考えてみろ。保健の先生と精市が話している時、お前はどう思った?」
「モヤモヤしました」
「あいつ以外、例えば俺と先生が話している時はどうだ?」
「寂しくなりました」
「その違いはなんだと思う?」
「……うーん。お、同じ?」
「重症だな。今日の受診は終わりだ」
「えぇ!?」

開いていたノートをパタンと閉じて、柳は溜息を吐いた。まるで医者のようだ。

「明日から精市を見かけたら必ず声をかけろ」
「えっ」
「自分の気持ちがわからないのだろう」
「うーん」
「いいな?」
「は、はい……」

圧がすごくて思わず頷いてしまった。私から声をかけるなんて出来るだろうか……。
とりあえずお母さんの言う通りにしてみよう。


********************


練習が終わり、夕食の時間が来た。ぞろぞろと皆がご飯を食べに食堂へ集まる。皆より少し先に食堂に来ていた私は、幸村君が来るのを待っていた。すると幸村君と真田が並んで歩いてくるのが目に入る。
保健医さんが去って三日程経ったが、幸村君に会うのはそれから初めてだ。

うぅ、遠くから姿を見るだけで変にドキドキしてきた。段々と距離が近くなってきた。

「れ、れんしゅう、お疲れ様です」
「ありがとう」
「うむ」

顔を見て言えない……。でも返事してくれて良かった。
二人とも立ち止まってくれたので、もう少し頑張ろうと息を吸った。

「もし、もしよろしければ、ご飯一緒に食べても良いですか……!?」
「もちろんだよ。ねぇ真田」
「あぁ、構わん」

よ、良かったー! ご飯をお盆の上に乗せていき、三人で同じテーブルを囲む。

緊張する。きっとこれは私が意識してしまっているからだ。ドキドキドキドキ、心臓がうるさくてご飯の味が分からない。前までこんなんじゃなかったのに。

「咲本さん、大丈夫かい?」
「っ!? あっ、だっ大丈夫です」
「頬が真っ赤だ。熱でもあるんじゃ……」
「きききっ気のせいです。ちょっと今日は暑くて」
「そう? 体調が悪くないなら良いんだけど」
「確かに今日は昨日より暑いな」
「ですよねっ……!」

顔が赤いことを指摘されたのが恥ずかしくて、二人より先にご飯を食べ終えた。先に戻ると二人に伝えて、自室に戻る。
なんというか、いつも通り緊張しただけだった気がする。


********************


次の日の朝、早く目が覚めてしまって外を散歩していたら幸村君が花壇の前にいた。声、かけなきゃ。

「おはようございます」
「! おはよう。早いんだね」
「目が覚めてしまって。えっと、水やりですか?」
「うん。毎朝見に来ないとね」
「これって前に貰った花……」
「うん、リナリアだよ。綺麗だろう」
「はい。とても」

確かこの花は幸村君の誕生花だ。沢山のリナリアの花を見ると小さく揺れていて、まるで手を振っているかのようだった。


「この子はキミみたいだ」

リナリアの花びらにそっと触れながら笑う彼の横顔を見て、胸が高鳴った。

そっか、これが……。




知りたかった感情


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