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すれ違い

謎の列ができている。何かあるのかと疑問に思い、その列を辿ると保健室まで続いていた。保健室ってことは保健医さんがいるのだろう。興味本位で保健室を覗くと、中ではマッサージが行われていた。

選手の上に跨って背中や腰をマッサージしている保健医さん。通りで並んでいる人たちの顔が緩んでいるわけだ。

「じゃあ今日はここまでねぇ」

保健室から顔を出し選手達にそう伝えると、残念がる声が沢山聞こえた。彼等は溜息を吐きながら部屋に戻っていく。あの人に気づかれないように私もこの集団に紛れて部屋に戻ろう。そう思った時、保健医さんが幸村君を呼ぶ声が聞こえた。

「幸村くん。練習で疲れてない? マッサージするわよ?」
「いえ。先生もお疲れでしょうし、俺は大丈夫です」
「優しいのね。でもそんなに疲れてないし、それに私マッサージ上手いのよ。ちょっとやってあげるわ。それとも今は忙しいかしら?」
「忙しくはないですけど、でも」
「じゃあ入って入ってぇ」

幸村君の背中を押して保健室に入れようとする保健医さんを見て、下唇を噛んだ。モヤモヤする。

「……っ、幸村、先輩!」

このまま彼がマッサージを受けるのは嫌だ。我慢出来ずに私は保健室へ走った。二人が私の存在に気がつく。

「あら、何かしら?」
「どうしたんだい?」
「……、えっと、あの、幸村先輩……。さっ、真田先輩が、よっ呼んでました!」
「そうなんだ。じゃあ行こうか」
「ちょっと待って。真田くんが呼んでいたって本当なの?」
「……っ、えっと」
「先生、俺は行きますね。俺も真田に用があったので」
「……そう。また保健室にいらっしゃいね」
「ありがとうございます」

行くよ、と背中を押されて保健室を背にして足を進める。恐る恐る振り返ると、背筋が凍る程の怒った顔をして彼女は立っていた。勢いでやってしまったと後悔が残る。

「あ、あの……呼んでいたというのは、うそ、で……」
「どうして嘘をついたんだい?」
「……怒ってますか?」
「ううん、ただ気になって」
「幸村先輩が、まっマッサージを……受けるのが嫌、で。保健医さんが上に乗るから」
「そっか」
「はい」

それからお互い口を開くことはなく、部屋へ戻った。ドアの前でズルズルと座りこむ。

幸村君はどんな事を考えてたんだろう。さっきどんな顔をしてたんだろう。余計な事をしてしまったかな。変な子って思われたかな。
次に顔を合わせる時、どんな顔して会えばいいんだろう。いつも私どんな顔で彼と話してたっけ。モヤモヤした感情が渦巻いて混乱状態になった。


********************


次の日も保健医さんはモテモテだった。保健室には人が沢山いて、仮病を使って会いに行く人が殆どだった。

「あら、嘘つき凡子ちゃんじゃないの」

偶々保健室の前を通りかかった時、中から声を掛けられた。沢山の目が私を見る。その中心の人物がまた口を開いた。

「折角昨日私が彼にマッサージしてあげようと思っていたのに、嘘ついて邪魔して。貴女は彼や他の選手の為に何が出来るのかしら?」

嘘をついた事は事実だ。何も言い返せない。グサグサと彼女の言葉が胸に突き刺さり、目頭が熱くなった。

「ねぇ、貴方達もそう思うでしょう?」
「中学生の監視役でしたっけ? 何もする事ねぇじゃないすか」
「サボって色目使ってんじゃねーのぉ?」

保健医さんの周りの高校生達がくちぐちに言った。自分でも分かってることを、何でこの人達に言われなきゃならないの。

ここで逃げる? それとも言い返す? どちらにしてもこの人たちにどう思われようと、どうだって良い。

「あっ、あ、貴方達には関係のない事です。……失礼します」

そう言って逃げるようにこの場から去った。いくつもの暴言が後ろから聞こえたが、聞こえないふりをした。

目の前で自分の悪口を言われるのは精神的に辛いな。でも……ちゃんと言い返せた。頑張った。

私の仕事は皆の監視とメンタルケア……。自分が落ち込んでたらダメだ。頑張ろう。パチンと両頬を叩いて気合を入れた。

今日は上から眺めるのではなく、もっと近くで練習を見て回ろう。


「ひなた!何か用か?」

ブン太は私を見つけるなり駆け寄ってきた。遠くからでもよく見つけられるし、良く周りを見てるんだなぁ。

「見回りしてて。えっと、練習頑張ってください」
「見回りか。じゃあ俺の妙技を見てからいけよぃ」
「はい!」

近くでブン太の綱渡りを見る。やっぱり何度見ても感動するなぁ。ふと周りを見ると、同じコートに幸村君がいた。……気まずい。静かに去ろう。

「咲本さん」
「幸村くーん」

保健医さんだ。ここに何の用だろう。あれ、今幸村君私のこと呼んだ?
振り返った先には、保健医さんと幸村君が隣に並んでいて目を逸らした。

「あの人のお気に入りみたいやなぁ」
「うえっ!?」

急に隣で話すもんだからびっくりした。忍足の低音ボイス、心臓に悪い。

「ひなたちゃんもそう思わん? うちのコートに来る度に幸村に声かけてるんやで」
「とても、思います」
「……驚いた、そんな顔するんや」
「え!? ど、どんな顔してました!?」
「ものすっごい嫉妬した顔」
「……っ!?」

嫉妬した顔!? 顔が熱くて恥ずかしい。両頬に手を当てて下を向くが、ニヤニヤとした忍足が私の顔を覗いてくる。

「ふ〜ん、なるほどなぁ。第二のおかんとしては寂しい様な嬉しいような感じやけど、まぁ頑張ってぇな」

私の頭をクシャッとして練習に戻っていった忍足。私もここから離れようと顔を上げた時、幸村君と一瞬目が合った。まだ保健医さんもいるみたいだし、違うコートを見て回ろう。




すれ違い


(幸村君、保健医さんのお気に入りなんだ……)
(咲本さん、あんなに顔真っ赤にして何の話してたんだろう)


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