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優しい人たち

全体を見渡せる所へ行き、練習する皆をぼーっと眺める。私はさっきの幸村君の言動がずっと気になっていた。

"変わらず君といられて嬉しいよ"

どうしてあの後、幸村君は黙ったんだろう。私も嬉しいって言っちゃって不快にさせてしまったとか? でも嬉しいって先に言ってくれたのは幸村君だし……。求められてたのは他の言葉だったのかな。私も、なんて言わなきゃ良かった。何て答えたら正解だったの。ううぅ、分からないー……。

「何かお悩みですかな、お嬢さん」
「!?」

突然後ろから声を掛けられ驚いて振り向くと、怪しげな占い師さん……ではなく仁王が立っていた。

「あれ? れ、練習は……?」
「ちょーっと休憩中ぜよ」
「ほんとですか?」
「細かい事を気にしたら負けじゃ」

絶対サボってるな、この人。何かと理由をつけて上手く抜けてきたのだろう。仁王は口笛を吹きながら私の隣へ歩いてきた。

「ここからだとよく見えるのぅ」
「まぁ」
「咲本がいっつも暇そうにここから見てるのがコートから丸見えぜよ」
「うっ、暇なんですもん。テニス見るのは楽しいですけど、毎日同じ光景じゃ……」
「監視っていうのも大変じゃなぁ。練習サボって一緒に散歩でも行くか?」
「い、いえ! それはできません。練習して下さい」

「で、何か悩んでるんじゃろ。話してみんしゃい」
「……」

さっきのこと、彼に聞いてみるのも良いかもしれない。私一人では分かりそうにないし。

「ゆ、幸村先輩に、変わらず君といられて嬉しいって、言われたんです。それで……私も嬉しいですって答えたら、その……黙られてしまって。何でか聞いても首を横に振って答えてくれなくて。私は、何て答えるのが正解だったんですかね」
「ほぉー、幸村が。……」
「?」
「咲本の言ったことは不正解じゃないぜよ。寧ろ正解ナリ」
「でっでも、黙って」
「びっくりしたんじゃないかのぅ。そう言われると思ってなくて」
「うーん」

じゃああの反応は驚いて固まってしまったってこと? でも何で驚くんだろう。一緒にいれて嬉しくない訳ないのに。

「悩みは解決出来たナリ」
「あ、はい。聞いてくださってありがとうございます」

私に背中を向け手を振りながら仁王は練習に戻って行った。
ここに来たのは偶然かもしれないけど、私の悩みを聞いてくれるなんて本当優しいなぁ。



********************


午後の練習が終わり、とぼとぼと外を歩いていると幸村君の声が聞こえた。幻聴かな、と思い周りを見渡すと、いつも幸村君が水やりをしている花壇に自分が居て、無意識にここまで来てたんだと分かった。

ちょっとお話しできるかな、と声のする方へ歩くが近づくにつれ高い声も聞こえてくる。……保健医さんがいるんだ。何の話してるんだろう。

「これ育てるの大変だったでしょう」
「えぇ、でも育て方を間違えなければ綺麗に花を咲かせてくれるんです」
「凄いわね。とても綺麗に咲いてるわ」
「ありがとうございます」

花の話……。あの人、花にも詳しいんだ。私は綺麗だなと眺めるだけで花の知識なんてない。


モヤッ

「……」

何だろう、この気持ち。

……仲良くしてる人が取られてしまって嫉妬してるんだ、私。

二人が楽しそうに話している姿を見て、胸が締め付けられるような気分になりその場を後にした。


********************


部屋に戻る気分でもなくて途方もなく外を歩いていた。練習が終わったというのにテニスボールを打つ音や話し声、笑い声が聞こえてくる。 一人で歩いていることに切なくなり、立ち止まって大きな木に背中を預けた。

「変な顔」
「…………」

木を挟んで後ろ側に立っているであろう人物が発した言葉にムッとなる。でも今は誰かに愚痴を吐きたい気分だった。

「私、嫉妬してるんだって思いました」
「へぇ、嫉妬なぁ」
「仲良い人があの人に取られるから……」
「ふーん」
「取り返せば、って思うかもしれませんけど、二人が笑い合ってる姿見てたら泣きそうになってしまって。まぁ間に入って邪魔する勇気なんて私にはないですけど」
「ないやろな」
「でもそのまま皆どこかへ行っちゃいそうな気もして、悲しくて……イテッ」

頭に何か固くて小さいものが当たった。それが足の間に落ちる。緑色の包み紙で包まれた飴玉だった。投げた人物は分かるが一体どうやって投げたんだろう。

「謙也さんに全部あげようと思ってたけど、お前にやるわ」
「! ありがとうございます」

飴玉を口に放り投げると、口いっぱいに広がる甘い味……ではなく苦い味。何これ、何の味だこれ。

「にがっ!!」
「美味いやろ。期間限定のパクチー味」
「うぇぇ」
「じゃあな、変な顔」

ムカつく、ムカつくんだけど何も言わずに愚痴聞いてくれたし、やっぱり優しい人なのかな……財前は。




優しい人たち


(財前!この飴苦すぎるんやけど!?ほんまにこれ今人気のやつなん!?)
(はい。咲本も美味しい言うて食うてましたわ)





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