Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


小さな花束

昨日も監視、明日も監視、明後日も監視……。私っている意味あるのかな……。監視の他に選手のメンタルケアもだっけ。

メンタルケア……メンタル……寧ろ私がしてもらってない? 皆に優しくしてもらってるし、悩みを聞いてもらったり。どうしよう、私役に立つどころか迷惑かけてるよね!?

ちょっとお母さんのところに行こう。ロビーにいるかな、と思ってロビーに向かうと予想通り柳がいたので、私の柳センサーが当たった事に嬉しさを感じた。

「柳先輩」
「咲本。どうした? 何か悩みを抱えてる確率72.3%だな」

彼の確率が当たりすぎて怖い。でもお互いの理解度が高くなってきている気がして気恥ずかしくて笑ってしまった。彼に悩みを伝えると、読んでいた新聞紙を畳んで口を開いた。

「咲本に出来ることか……」
「何かないですか?」
「聞いてみれば良いんじゃないか? 選手達に」
「えっ、でででデータ……とか」
「俺のデータに要望は書いていない」

まじかぁ。何か良いアドバイスが貰えるかな、とお母さんの元へ訪ねたのに。すると私の考えが分かったのかずるい奴だな、と頭を小突かれた。


ふと柳が私の頭上を見たかと思えば、後ろから低い声がした。

「蓮二、咲本、幸村を見なかったか?」
「いや見ていないが」

「!?」

声の正体は真田か、と振り向くと驚いて一瞬声が出なかった。ガタッと席を立ち真田の顔をまじまじと見る。


真田の目に、眼帯が……。そういえば彼が脱落して戻ってきてからはあまり顔を合わせてなかった気がする。知らない間に目に何かあったのかな、もしかしてずっとこのまま!?

「どうした咲本」
「目がぁぁ!目がぁぁ!」

「滅びの呪文でもかけられたか?」
「む、なんだそれは」
「知らないなら大丈夫だ」

平然に答える真田とさり気なくボケた柳。二人の様子から見るに、そんなに重傷ではないのかな。でも目だし……。

「目は大丈夫……なんですか?」
「ボールが当たっただけだ。じきに眼帯も取れる」

ボールが当たっただけって、硬式のボールだよ!? 軟式でも打ったボールを顔面に受けたらめちゃくちゃ痛いのに。目に当たったって相当痛いと思うし、視力が落ちてしまっているかもしれない。

「見えなくなる……なんて、ないですよね?」
「お前は身体のことになると特に心配性になるな」
「だってテニスが……」
「心配することは無い。視力が低下しているというわけではないからな」

真田が眼帯を捲り閉じた目を見せる。少し腫れてるけど大丈夫そう……? ジッと見つめると、横にきた柳に頭を撫でられた。

「あまり気を張っていると疲れるぞ」

コクリと頷く。心配し過ぎも良くないか。

「それで弦一郎、精市を探しているのか?」
「あぁ。見ていないか?」
「見てないな」
「私もです。……でもコートにいなかったらお花の水やり、ですかね」
「その確率が高いな。弦一郎、探してみると良い」

「うむ。咲本はよく……見ているのだな」

思わずえっ、と声を漏らす。よく見てるって皆を? それとも……いやいや! 何を考えてるんだ私!

でも真田の優しく微笑む顔って貴重だなぁ。離れていく彼の後ろ姿を眺めていると、柳が口を開いた。

「惚れたか?」
「っ!? だだっ誰にですか!?」
「いや……。それにしても弦一郎のあんな笑顔は初めて見たな」
「私もですけど……」
「それだけ咲本に気を許してるということだ」

それと惚れたかどうとかいう話は関係ないんじゃ……?

「話を戻すが、お前は特に何も気にするな」
「えっ、あ。そうですか……」
「迷惑というわけではないから、勘違いはするなよ」

迷惑じゃないけど何もしなくて良い? うーん、一体どうすれば……。そのままで良いという事なのか。でも皆に何も出来てないしなぁ。

「混乱してる確率84.6%だな。何かしないといけない気持ちが強いなら、選手達に話しかけることを意識すれば良い」
「話しかけるんですか?」
「あぁ、それだけで良い。皆のメンタルケアにもなるしお前の成長にも繋がるだろう」
「メンタルケアにはならない気が……」
「そろそろ行くぞ」
「へ、はっはい!」

疑問を抱きながら、先に行く柳の後を追う。追いついて隣を歩くと歩くスピードを合わせてくれた。

「精市のところに行くか?」
「え? はい。良いですけど」

行くかって私が行きたいような言い方。別に何も言ってないんですけど。

幸村君が世話している花壇へ行くと、案の定彼は花の水やりをしていた。一人でいるところを見るとどうやら真田より先に見つけてしまったようだ。

「やぁ二人とも」
「弦一郎が探していたぞ」
「そうなのかい? じゃあ逃げようかな」
「えっ」
「あはは、嘘だよ。二人は散歩でもしてるのかい?」
「似たようなものだな」
「まぁ、特にすることもないので」
「君達は本当に仲が良いね」

「用事を思い出した。精市、咲本を頼む」

急にこの場を立ち去ろうとする柳に驚いてえっ、と声が漏れる。頼まないで!? 私もついて行こうとすると幸村君に腕を掴まれた。その行動に驚いている間に柳の姿がなくなってしまった。


「君に貰ってほしい花があるんだ」
「え? 私に……」
「うん。これだよ」

スッと差し出されたのは小さな花束だった。様々な色をした小さな花がたくさん咲いている。可愛くて綺麗だ。

「リナリアと言って日光が大好きな花なんだ。別名は姫金魚草。可愛いだろう?」
「へぇ、とても可愛いです」
「それにその花は俺の誕生花でもあるんだ。是非貰ってほしいな」
「あ、ありがとうございます」

幸村君の誕生花かぁ。持ってたら幸せになれるような気がする。部屋に飾ろう。花瓶どこかにあったかな。


もう一度彼にお礼を言い、花束を抱えて部屋に戻った。




小さな花束


(どこに飾ろうかなぁ)
(良い匂い)


prev / next

[ back ]