Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
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オレンジ

今日は朝から騒がしい。何かあったのかな、と外へ出てテニスコートへ向かう。すると後ろから声が聞こえた。

「あ、山田花子!」
「……?」

振り向くと目の前にいるのはオレンジを持った男。思ったより近くにいたため驚いて声が出なかった。男は私を山田花子と言って指差してくる。自信満々な顔で豪快にオレンジにかぶりつく。一瞬目が合ったがスッと逸らして一歩下がる。

「人違い……です」
「んなわけねーって。前にあったの覚えてねぇの? 山田花子」

覚えてるに決まってるだろぉ! 越前リョーガ!! そして名前を知ってるくせにどうして私が嘘ついて言った名前で呼ぶのかな!? 態とだ。絶対わざと。

覚えてねぇの? なぁなぁ、と整った顔に覗き込まれるので覚えてますと答えたら、満足そうにオレンジを差し出した。

「また、会ったな」
「はぁ……」
「言ったろ、人生何が起こるか分からねぇって」
「はい。まぁそう、ですね」

確かにこの世界は何が起きるか分からない。それが怖くもあり嬉しくもある。こうやってこの世界に戻ってこれたのは嬉しい限りだけど。

「コレやるから、また一発芸見せてくれよ」

彼は私の手を取りオレンジを乗せる。一発芸って、オレンジにかぶりついて飛んできた果汁が目に入るやつですか。わざとやったわけではないんだけど。そうならない為に今回は皮を剥いて食べる。そうするとリョーガはつまんないとでも言いたげだった。

「じゃあ、私は」
「待てって。ちょっと散歩でもしよーぜ。唯一の女なんだろ、花子は。紅一点ってやつ?」
「……え、そ、うなんですか?」
「知らなかった感じ?」

首を縦に振ると彼はブハッと笑われた。やっぱり他にマネージャーとかいないんだ。ハァ、と溜息が溢れ「では」と頭を下げると、腕を掴まれた。まだ何かあるのか。

「散歩、しようぜって」
「えぇ……」
「スッゲェ嫌そうな顔」
「私、皆のところに、い、行かなきゃ……なので」
「中学生の監視役らしいな」
「まぁ。というか、越前……さんは何故ここに」
「お前監視役なのにしらねぇの?」
「全く」

教えてくれるのかと思いきや、彼は何故自分がここにいるのか教えてはくれなかった。私がこの合宿に来た時はいなかったよね。そこまで興味ないから別に良いけど。あぁ、いつのまにか並んで歩いて散歩しちゃってる。

「そういやチビ助見てねーか?」
「チビ助……あぁ、今日は見てない、です」
「あっちの方も探してみるかー。チビ助見たら教えてくれよ!」
「えっ、どうやって……」
「あ、じゃあ俺が探してること伝えといてくれ!」
「えぇー……」

じゃあ後でな花子、と走り去っていくリョーガ。もしかして私の名前、山田花子で覚えられてる? いやそんな馬鹿なと自分でツッコみたくなった。


彼とは別の方向へ歩いていると、幸村君とリョーマが軽く打ち合いをしているのが見えた。あの組み合わせって全国大会決勝戦の……。わぁぁ、試合ではないけど、二人のラリーがまた観れるなんて幸せだ。


遠くから二人を見つめてどれぐらい経っただろうか。リョーマに言わなきゃならないんだっけ。休憩に入ったのか、二人は別のベンチに座り汗を拭く。

私はリョーマに近付き、深呼吸をした。はぁ、緊張する。心臓がバクバク言ってる。

「あ、あの! すすすみません……」

気付いてくれない。遠くにいる幸村君は気付いてこっちを見てるのに……。恥ずかしいけど勇気を出すしかないのか。

「えっ越前、くん!」
「何?」
「……お兄さんが探してました!」

そしてダッシュで逃げようとすると待って、と止められた。恥ずかしいから早くこの場を立ち去りたいのに。

「アンタが俺の名前呼ぶの初めてだよね」
「そっ、そうですね」

そりゃそうだ。滅多に人の名前を呼ばないんだから。呼ぶのにどれだけ気力を使うか。


「おっ、いたいた」

そこへリョーガが登場した。ラケットを持って此方に歩いてくる。越前兄弟が話している中、幸村君は私に声をかけた。

「ずっと観ていたね」
「バッバレて!? ……は、はい」

クスクスと笑われる。うわぁ、遠くで観てたの知られてたんだ。恥ずかしい。どうだった、と聞かれたので、とても魅力的でしたと伝えるとお礼を言われた。ほんと好きだなぁ……彼らのテニスは。


「ねぇ、アンタもテニスするでしょ?」
「バッ!? カッ……あ、間違えた。む、無理です」
「バカって言ったよね、今」
「いい言ってないです!」
「間違えたとも聞こえたし」
「じゃ、じゃあそれで良いです」
「馬鹿はアンタの方でしょ、チビ」
「わっ私の方が、高いです……身長」
「絶対俺の方が高いね」
「私です!」
「俺」

この無限ループを止めてくれる人はおらず、必死になってリョーマと言い合った。何でこんな小さな事で争ってるんだろう。

リョーガは顎に手を当てて私とリョーマを見て、ンーと考える素ぶりをした。

「お前ら付き合ってんの?」
「はぁ、ちが「そそそそんなのあり得ないです!」」
「すっげぇ否定されてるぜ」
「……」

「他に好きなやつでもいるのか?」
「ななななっ!?」

普段恋話をしない私にそんな質問をしないでくれ! 女の子に聞かれても恥ずかしいのに、異性に聞かれるなんて私の心臓がもたない。先程まで発言のなかった幸村君が私を覗き込んで、口を開いた。

「そうなのかい?」
「えっ、あ……」

熱い顔がさらに熱くなり、目に涙が溜まった。逃げる以外の選択肢が見つからない。一歩一歩と後退り、一気に駆け出した。

「ごめんなさいぃぃー!」

顔の熱は暫く冷めそうにないな、と逃げながら思った。




オレンジ


(逃げたけど)
(ありゃ、いるな)
(柳のデータに書いてあるかな)



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