モテ期到来?
……どうしてこうなった。
「だーかーら! ひなたは俺のテニスを観にくるんだよ!」
「別にそれはコイツが必要なわけじゃないだろ。こっちは試合をするから審判をしてくれと頼んでるんだ」
「審判なんて誰でも出来るじゃん。俺は咲本と試合がしたいんだけど」
赤也、日吉、リョーマ。この三人がさっきからずっとこうだ。私を囲んで言い合っていて逃げ場がない。
もしかしてこれは人生初のモテ期だろうか。ようやく私にも……。いやいやそんなはずはない。皆が夢中なのはテニスだし。とりあえず今はどうするべきだろうか。
「アンタはどうなの?」
「へっ……」
「俺だよな! なっ!」
「切原、圧力をかけるな」
「アンタが何か言わないと決まらないんだけど」
「え、ええっと」
急に話を振られても困るし、三人でこっちを見るのはやめてほしい。
「わ、私じゃなくても、他の人を……」
「俺はアンタに相手してほしいって言ってんの」
「おいおい、コイツより俺だろひなた!?」
「試合するはいいが審判してくれる奴が見つからないんだ。ちょうどお前が暇そうだったから声をかけたんだが」
うぅ、この三択しかないの? 拒否権どこに行った。誰を選んでも怖いから他の選択肢を誰か用意して下さい……。
あぁ、少し離れた所でブン太とジローがソファでくつろぎながらお菓子を食べている。あっちは平和そうで羨ましいや。
此方を指差して笑っているけど、もしかしてこの状況を見て楽しんでる? 失礼じゃないか? 睨むように見つめると二人と目が合い、フリフリと手を振られた。可愛くて振り返しそうになったけど危ない危ない、つられるところだった。
「お前達、何をしてるんだ? 咲本さんを三人で囲んで」
救世主……! 大石だ! 青学の母がやってきた。三人が大石に状況を説明した後、彼は溜息を吐きながら言った。
「全く。とりあえず咲本さんの意見を聞こうか」
「え、あー……。ひ、暇してますし、何でも……良いんです、けど」
「困ったな。なら彼女でないとダメな人は?」
大石の問いに赤也とリョーマが手を挙げた。日吉は挙げないんだ。良かった、これで二択か。
「ハイハイ! 観てくれてたらやる気も上がるしドリンクとか作ってほしいんスよー」
「俺は本人とゲームしたいッス」
「……別に俺はコイツじゃなくても良いんですけど、審判の練習にもなるかと思って」
日吉……! 私のために! ここでは監視を任されてるわけだし、今後のためにも審判の練習……した方が良いよね。皆のボールのスピードにも慣れておかないといけないし。
「そういう事なら越前が優先的だが……。試合だと体力的に疲れるけど良いのかい?」
そうだよね。というかリョーマは何でそんなに私と試合したいの。何も出来ないのに。いつも試合したがってる金ちゃんとやってあげれば良いじゃん。
「じゃあやめ」
「さっき何でも良いって言ったしやめるとかなしね」
「……」
リョーマのバカヤロー! 数十秒前の言葉を取り消したい。もう私は審判するって決めたんだ。
「赤也、真田が探していたよ」
遠くからよく通る声が聞こえた。幸村君だ。スタスタと此方に向かって歩いてくるが、本当彼は存在感があるな。
「マジっすか。あ、そうだ。部長も言ってやってくださいよー!」
「何をだい?」
「彼らはそれぞれの理由で咲本さんを取り合っているんだ」
「へぇ、モテモテだね」
「え、いやそういうわけでは……」
幸村君はそうだなぁ……と言って悩む仕草をした後、また口を開いた。
「これから花の水やりをしに行くんだけど、君もどうだい?」
「えっ」
選択肢増やしてきたー!? 私だけじゃなくてみんな目が点になってるし。流石魔王様、空気を読もうとしない。あぁーどうしよう。
「えっと、ここでもお花育ててるんですか?」
「まぁね。綺麗な花がたくさん咲いているんだ。是非見にきてほしいな」
立海の屋上の花壇も綺麗だったし、花を見てリフレッシュするのも良いかもしれない。
「じゃあ……」
「ちょちょちょーっと待った! 何で後から来た幸村部長の方へ行くんだよ!」
「おかしいよね」
「ハァ」
「こりゃ大変」
誰を選んでも他の人に止められるし逃げ場はないし、どうする事も出来ない。全員の用事を回るのも良いけど、私はそんなに要領が良いわけではないから1つしか選べないし。
「俺とテニス、するよね」
「テニス観に来いよ!」
「審判の練習にもなるだろ?」
「花を見に行こうか」
「えっ、えぇ……」
結局私は決められないまま、夕食の時間になってしまったのだった。
モテ期到来?
(いやこれはモテているわけではない)
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