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分からない感情

脱落組は二番コートを乗っ取り、合宿にまた参加することになった。まさか戻ってくるなんて思ってもみなかったけど、皆が帰ってきてくれて嬉しいな。

練習が終わり施設の中でのんびり歩いていると、向こうから歩いてくる二人を見つけた。四天宝寺の財前とユウジだ。あの二人は合宿に参加していないと以前白石から教えてもらった。脱落組の修行していた場所で遭遇したのだろうか。

何故二人が合宿に参加しているのかは分からないけど、こっちをジッと見てくるのはやめてほしい。

「オイ」
「ひぃ!」

ボーッと一人で考え込んでいると急に話しかけられた。いつのまにか二人とも近くに来ている。

「先輩怖がられてますって」
「怖がんな!」
「す、すみませっ……」

何で私怒られてるの!? なんか睨まれて怒られた挙句舌打ちされたし。


「彼氏のとこでも行ってこいや!」
「えっ、か、かれ、し……?」

いきなり何処かへ行け宣言!? 今彼氏って言ったよね。生まれてこのかた彼氏なんてものは出来たことがないんですが。

「昨日抱き合ってたやんけ」
「……あっ。あれ、お母さん、です」
「……お母さん?」
「や、柳先輩」
「あ、そういえば前にオカンのモノマネして撫でてほしいて……」

こくこくと首を必死に縦に振る。ほんと何で喧嘩腰なの、この人。いつも以上に怖いんだけど。

「……その、お、お母さんとやらは」
「はい?」

独り言のようにブツブツ呟くユウジに首をかしげる。

「お母さんは恋愛対象に入っとるんか聞きたいみたいやわ」
「なっ! 財前!」

突然恋愛話になるから驚いた。え、この二人って恋バナが好きなの? それでえっと、何だっけ。柳が恋愛対象に入るかどうか?

「どうしてそんなこ、と……」

汗がたらりと頬を伝い、顔が引きつる。じっと見つめてくる二人に答えないという選択肢はない気がした。柳が恋愛対象に……? 確かに一番頼りにしてるのは柳だし、これまでで一番親しくなった異性も彼だ。だけど恋愛感情をもっているかと聞かれれば、悩んでしまう。

距離が近くなればドキドキするけど、これは私の恋愛経験が少ないからだと思う。うーん……。

「お、お母さん、なので……恋愛の好き、とはちっ違う? ような……」

強いて言うなら友達以上恋人未満? 図々しいかな。

「対象外らしいっすわ」
「べべべつにそんなん聞いてへんやんけ!」
「考えてることバレバレですわ」

とりあえず怖いから逃げて良いかな。二人で盛り上がってるから私いる意味ないだろうし。

「あ、咲本。部屋割り変わったらしいやん」
「えっ、部屋割り?」

そういえば昨晩斎藤コーチからメール入ってたな。ある程度荷物をまとめておいて下さい、って。でも私も部屋が変わるの?

「部屋割りが書いてある紙がロビーに貼り付けてあるって聞いたから行くで」
「え、ええっ」
「おい財前! 待てや」

グイグイと腕を引っ張られ早足で歩く。人数が増えたし部屋割りが変更されたのは分かるけど、そんなに急いで見に行かないと駄目なんですか!?


ロビーに着くと人集りが出来ていたので、何処に部屋割りの紙が貼られているのかすぐに分かった。中学生は皆二階のようで、私も二階で皆とは少し離れた部屋だった。

「海堂に切原、日吉か」

財前が隣で呟いた。彼の部屋のメンバーを見てみると次期部長組だった。学校が皆違うけど、上手くいくのかな。全員気が強そうだし。昔なら赤也が一番問題起こしそうだけど、今じゃすっかり丸くなってるから赤也は大丈夫だろうな。

学校が違う人達が同じ部屋に集められてるのかな、と思って他の部屋のメンバーを見てみたけどそうでもないようだ。比嘉中なんて全員同じ部屋だし。まぁ仲良しなのかな。彼らが他中の人と仲良くしてるところなんて想像つかないけど。


一方ユウジはというと、嬉しそうに「小春……」と呟いていたので同室になったんだろう。えっと、二人の他は……天根さんと黒羽さん。誰だっけ。

あっ、六角のダビデとバネさんだ! そういえば六角中はまだ見た事なかったな。六角中って、この二人しか参加してなかったのか。サエさんが爽やかでカッコイイんだよなぁ。見れなくて残念。あと監督のオジイが見たかった!


そうだ、お母さんの部屋ってどうなったんだろう。

「にひゃく、に……」

柳、千歳、乾、観月。うわぁ、千歳以外は難しい会話をしてそうな部屋だなぁ。きっと一番訪問する確率が高い部屋なんだろうけど、柳以外の他のメンバーは話し掛けづらい。

「……どんだけオカンに懐いとるねん」
「?」
「なっ何でもないわ! チビ!」
「えっ」

チビって言われた! そりゃユウジは170センチ近くあるんだから、彼よりは低いかもしれないけど何で暴言吐かれたの!? 怒られるし睨まれるし暴言吐かれるし、私ってこの人に……。

「きらわれてる、のかぁ……」
「ブフッ」

誰にも聞こえないくらいの声量だと思っていたのに、財前には聞こえていたようで隣で反応された。というか吹き出された?

「えっ、えっと……どう、されたんですか?」
「いや、おもろいなって思って」
「な、何が、ですか?」
「ブログのネタにでもさせてもらうわ」
「え、えぇー……」

そう言ってスマホを片手にひらひらと手を振って去っていく財前。ユウジは怒っていつのまにか何処かに行っていたし、私も部屋に戻ろう。あ、新しい部屋に荷物移動させなきゃ。




分からない感情


(あ、斎藤コーチからメールが来てた)
(部屋割りを変更しました、って)
(もう確認してきたよ……)


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