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ジャージ

私はこの世界にトリップしてから一度自分の世界に戻り、そしてまたトリップして来た。前と今とじゃ年齢も違うけど私が立海の一年でテニス部のマネージャーをしていた事は、皆の記憶に残っているらしい。とても不思議な事だ。深く考えても何も答えは出てこない。そう思ってか彼らはこの問題を追求してこない。もしくはこの世界がそうさせているのかもしれない。

答えの出ないものをいつまでも考えていても無駄だ。しかし一つ疑問が残る。私が立海にいた時のモノはどうなるのか。記憶はあるけど思い出のモノ、それは此処にあるのだろうか。

この世界で買ったテニスラケット、幸村君から貰ったイルカのキーホルダーはこの合宿所に私の荷物として置いてあった。ということは立海のジャージもあるのではないか……と思ってしまう。


つまり何が言いたいのかというと、久しぶりに立海のジャージを着たい!!


だって此処に着た時は私服だったし、合宿所ではずっと普通のジャージだし。せめて私もあのジャージを……! と欲張りすぎだろうか。

「さっきから溜息吐いてるけど、どうかしたのか?」
「!?」

急に背後から声が!? 後ろを振り返ると神尾が「よっ」と挨拶してきた。挨拶を返す余裕なんてなくて、心臓がばくばくいって治りません。顔を上げると神尾の隣には橘さんがいることに気付いた。

「あ、えっと……」
「話すのは初めてだな。橘桔平だ、よろしく」
「は、はい。咲本ひなた……です」
「咲本、妹の杏と仲良くしてくれていたんだよな。ありがとう」
「いっいえ。こ、こちらこそ、です」

うわぁぁ、杏ちゃんのお兄さん優しいよー! 兄妹揃って良い人って何。最高ですか。ありがとうございます!

「ストテニで一緒にダブルスした事もあったよな」
「はっはい! たたっ楽しかったです!」
「ハハッ。その日は杏も喜んでたぞ。テニスが出来る女友達が増えたって」

そんな風に思ってもらえてたんだ。嬉しいな。

「あ、それで咲本は何か悩んでることでもあんの?」
「悩みか? 俺達で良ければ聞くぞ」
「へっ、あ……。え、えっと……じ、ゃじが」

他人からしたらどうでも良い悩みだしどう伝えて良いのか分からず、段々と声が小さくなっていく。その時肩に温かい手が置かれた。

「小さな悩み事でも何でも良いんだぞ? 解決出来るなら解決してやりたい。遠慮いらんばい」
「……だだっだだいじょうぶですー!」

優しすぎる! 優しすぎて言いにくいよー! この空気に耐えられず逃げた。だって言ったら絶対「は?」って首傾げられる。

「学校ジャージが着たいだけなんだけどなぁ……」
「なになに? ひなたちゃんジャージ着たいの?」
「ヒィ!?」
「俺の貸したげるよ! ちょっと待っててねー」

逃げた先が悪かった。偶々歩いていた英二に私の呟きが聞かれてしまった。待つ事数分、英二は青学のジャージを持って駆け寄ってきた。

「ホイ! 合宿中は基本ここのジャージだし、そっちは綺麗だよん。……あれ? 違った?」
「ちちちっ違わないです……」

青学の青いジャージが渡される。ふぉぉぉ……主人校のジャージが目の前に。しかも着ても良いとの事。着たい! めちゃくちゃ着たい! だってこれ青学の中でもレギュラーしか着れないものなんでしょ? で、でも男の人のものを着るなんて……。

「い、良いんですか……?」

欲望には勝てなかった。

「うん。ひなたちゃんが着たところも見たいし」

青学ジャージを受け取って恐る恐る袖を通す。うわ、大きい。それに生地がしっかりしてて良い。そして……カッコイイ!!

「イイねー! 着てみた感じどう?」
「……もう死んでもイイデス」

嬉しすぎて手で顔を覆う。それを見てなのか英二の笑い声が聞こえた。

「ちょっとロビーに行ってみよー。誰かいるかもしんないし!」
「ひ、そっそれは!」

腕を引っ張らないでぇぇ……! 誰もいないのを願うばかりだ。

「おーい! 手塚ー!」
「菊丸か。どうした」

よりにもよって手塚だと!? 英二に引っ張られて手塚の前に立つ。恥ずかしくて顔が上げられない。

「咲本か?」
「へっへー。着たいって言ってたから貸してあげたんだー」
「す、すいません……」
「何故謝る。少しサイズが大きいが似合っているぞ」

嬉しくてニヤける顔を隠そうとしても隠せない。すると横から英二が頬を突いてきた。

「よし! 他校の皆にもお願いしにいこー!」
「ええぇぇ!」


そ、それは嬉しいけど恥ずかしい!! すごく嬉しいけど!




ジャージ


(一度着てみたかった青学ジャージ)
(嬉しくて顔が緩んじゃうや)


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