両側にハネる
おはようございます。今日も一日頑張りましょう。
「ハァー……」
とは意気込んだものの部屋から出たくありません。でも朝ご飯食べに行って仕事しなくちゃいけません。あぁ、もうこれは行くしかないのか。部屋の扉を開け廊下を歩くと、白石と赤也の後ろ姿を発見したので、食堂までの道を変える。あの二人仲良かったのかぁ。
しかし誰にも会わずに食堂に向かって朝食をとるのは難しい。出来る限り顔見知りの人を避けるしかない。
だってこれ、絶対笑われ……。
「ひなたちゃんだ〜」
「うっ」
「おはよー」
「おっ、おはようございます」
「久しぶりだC」
「そ、そうですね。話す、のは」
ジローが目を擦りながら近付いてくる。やっぱりそんなに気にならないんだ。私が気にし過ぎてるだけだ。良かった良かった。
「髪、跳ねてて面白いね〜」
「うぐっ……」
「寝癖って直んないよね。直すの面倒だC」
「そう、ですね」
やっぱり気付かれた!! 普段から寝癖ついてるジローならスルーしてくれると思っていたのに。……そう、今日の私の髪は盛大に跳ねているのだ。しかも右も左もぴょんぴょんと。何をしても直らなかった。
「面白いから皆にも教えてあげよーっと」
「わぁぁぁ! ややややめて下さい! はっ恥ずかしいです」
「そう〜?」
首を傾げたジローのお腹からぐぅー、と音が聞こえる。彼は照れたように笑いながらご飯を取りに行った。可愛いなほんと。私も早く朝食を済ませよう。
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朝食を終え、廊下を歩いていると赤い頭が前から歩いてくるのに気付いた。よし、逃げよう。まだ彼とは距離がある。絶対に気付かれない。
「ひなたー! ってオイ、逃げんな!」
「なんでー!?」
どうしていつも気付かれるし追いかけてくるの! でも今日こそは逃げ切るぞ! この寝癖を見られないためにも。
そして私とブン太の鬼ごっこが始まった。でもきっとすぐ追いつかれてしまう。毎日運動してる人としてない人とじゃ差がありすぎるし。どうしよう、部屋に隠れるにも自分の部屋は遠いしここら辺あんまり分かんない。
「んぐっ!?」
「静かに」
だだだだれっ!? 急に腕を引っ張られ、後ろから口を塞がれた。ブン太がどこかへ駆けて行ったのを確認すると、手から解放された。誰なのか確認すれば、木手だった。えっ木手!?
「何故逃げてるんです?」
「え、っと……追いかけてくるから? ……です」
「貴女が逃げるからでは?」
「……そ、それは、何とも言えません」
身体が勝手にブン太から逃げちゃうんだよね。仕方ない事だよね。ブン太を見た瞬間、逃げなきゃって思っちゃうんだよ。仕方ない仕方ない。
でも木手は一応助けてくれたの、かな? どうしてかは分からないけど。お礼言った方が良いよね?
「お手」
「……」
えっ、ええぇぇぇ!? 今お手って言った? 何でお手を求められてるの? 助けたから? でもお礼するのとお手は関係ないよね。うわぁ、めっちゃ見てくる。怖いよぉぉぉ! 恐怖と緊張で汗が噴き出る。
「お手は?」
差し出された手の上に自分の手を丸めておく。これで、良いのかな。恐る恐る木手の顔を確認すると満足そうな表情だった。私犬じゃないんですけど。そして何故か頭を撫でられた。
「素直な子は嫌いじゃありませんよ」
「は、はぁ」
私貴方より年上なんですけど!! まぁ睨まれもせず去っていってくれたから良かったけどさ。
「ひなた!」
「ぎゃっ!?」
木手が去ってくれたと思ったら、曲がり角でブン太とぶつかってしまった。
「今日はしぶとかったな。でもまぁ捕まえたけど」
「……」
「何でいつもいつも逃げんだよ。ってブフッ! その髪!」
「……」
笑うなんてほんと失礼なやつだ。面白がって髪の毛触ってくるし。
「両側にハネて犬の耳みてーになってんじゃん」
「……」
「さっきから黙り決め込んでんなー。反応しろぃ」
「……す、好きでこんな髪型にしたわけじゃ……」
「寝癖な。まだ練習までに時間あるし直してやっても良いぜぃ」
「で、でも、何しても直らなくて」
「大丈夫だって。こういう事は任せろぃ」
「はぁ」
「じゃあ行くぞ、ポチ」
「いっ犬じゃないです!」
「返事はワンだろぃ」
完全に犬扱いされてる。本当にこの寝癖直るのかな……。
そして数分後、ブン太の手によって私の寝癖はなくなった。寧ろいつもより髪に艶があってサラサラだ。
「な、なおった……」
「天才的だろぃ」
「すごいです! ありがとうございます」
「へへっ。困った事があれば何でも言えよな」
「はい!」
両側にハネる
(あの寝癖を直してくれるなんて)
(ブン太すごすぎ)
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