Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
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ミッション

ドドンッ。そんな登場だった。何故か眼鏡に手を添えた忍足侑士が私の正面に立っている。そして何か聞いてほしそうでそわそわしている。スルーして良いかな。でも引き止められそうだしとりあえず聞くか。

「な、なんでしょうか……」
「聞いて驚きぃ。俺が頼まれてんねん。ひなたちゃんのオカン役」
「えっ……まままままさか! 柳先輩からっ!?」
「おん」

柳のバカー! よりにもよってどうして忍足なの!? 初めて会った時よりかは慣れてきたけど、まだ私この人に心開いてないよ! 心閉ざしたままだよ! 何考えてるの柳のバカー!

「という事でオカンやと思って接してくれてええよ」
「は、はぁ」

む、無理です……。せめて立海の人か、日吉とか白石とかまだ話しやすい人が良かった。あ、日吉は脱落しちゃったんだっけ……。

「頼まれたからにはめっちゃ頑張るからなー」
「えっ遠慮しておきます」
「まぁまぁそう言わんと」

「何してるんですか? 忍足さん」

声がした方に向けば鳳がいた。宍戸といつもセットだったけど彼がいなくなったから何か寂しいな。

「おう鳳。俺ひなたちゃんのオカンに任命されてな」
「え、忍足さんがですか。咲本さんやめておいた方がいいよ」
「えっと、私が決めたんじゃないんです、けど」
「じゃあ無理矢理ですか! 駄目ですよ忍足さん、嫌がる事しちゃ」
「酷い言われようやな。ひなたちゃんのお母さんから頼まれたんや」
「そうなんですか」
「あ、柳先輩かららしいです」
「でも忍足さんってお母さんって感じじゃないですよね」
「で、ですよね」
「どちらかといえば近所のおじさんみたいなポジションですかね」
「あっぴったりです!」
「だよね」
「自分ら……」

無自覚で相手にダメージを与える鳳恐るべし……。


********************


真っ暗な廊下を一人で歩く。どうしてこんな夜に施設内を歩いているのか、それはイルカのキーホルダーを無くしてしまったからだ。あぁ幸村君から貰った物なのにどこで落としちゃったんだろう。


「ひなたーーーー!」
「ヒッ!? な、なんですか」

びっくりしたー……。赤也か。何かすごい顔して走ってくる。何かあったんだろうか。

「この合宿所、ユーレイが出るらしいんだよ!」
「へ、幽霊?」
「あぁ! しかも落ち武者の!」
「いやそんな……」

馬鹿な、と続けようとした矢先、どこからか変な声が聞こえた。もしかしてこの声が幽霊だったりする?

「いぃぃ!?」
「どっどうしたんですか? わぁお……」

驚いた顔をした赤也の目線を辿ると、壁から天井にかけて大きな影が動いているのが見えた。

「……ドコダ……ミギテ、ドコダ」

……そして変な声も聞こえる。なんだこれ。幽霊にしてはユニークというかなんというか、怖い感じが全然しない。

「ひなた、おおおオレの後ろに、かかか隠れてろ!」
「あの、大丈夫ですか?」
「だだだいじょうぶだから! ユーレイなんているわけねぇだろ! 馬鹿馬鹿しい!」
「……」

めっちゃビビってるじゃんか。体も声も震えてるし。

「誰かが脅かしてるだけかもしれませんし、見に行ってみますか?」
「ハァ!? 馬鹿なこと言うな! そっそうだ、呪文があんだよ!」
「呪文?」
「ステップステップワンツーワンツーくるりと回ってイナバウアー!」
「そ、それが呪文ですか?」
「そうだ!」

……よし、キーホルダー探そう。拝みながら呪文らしきものを唱える赤也を置いて私は一人、キーホルダーを探した。


ロビーは暗くてスマホのライトをつけて探した。落としてるとしたらここだと思ったんだけど、やっぱり暗いと探すの大変だなぁ。

「何をしている」
「えっ!? えっと、イルカの……キーホルダー、が……」

突然後ろから声をかけられた。で、でかい。あ、この人、食堂までの道を教えてくれた高校生だ。

「キーホルダー?」
「ど、どこかで、おっ落としてしまったみたい、で、探してて」
「……」
「……?」

彼は急にきょろきょろと周りを見まわした。何してるんだろう。

「……? 探さないのか?」
「へっ? さ、探します。で、でも一人で、だっ大丈夫です。えっと……」
「二人で探した方が早いだろう」
「……あ、ありがとう、ございます」

言葉足らずで身長も大きくて怖いけど、この人もしかして優しい人?

「これか?」

彼の手の上には私が探していたものがあった。こくこくと何度も頷くとキーホルダーを渡してくれた。すぐに見つけてくれたなこの人すごい。

「ああありがとうございます! ……良かった」
「大切な物なんだな」
「は、はい。貰い物で」
「そうか」
「あ、あの、お名前……教えてもらっても、いい、ですか?」
「徳川だ」
「とっ徳川さん、えっとお礼に何か」
「いや……」

「!?」

大きなサイレンが突然鳴り響いた。徳川さんは慌てる様子もなかったのでよくある事なのか何なのかは分からないけど、私は何もせずにサイレンが鳴り終わるのを待っていた。隣の彼は何故か微笑んでいるように見えた。

「……お前は、確か咲本だったか? 中学生の監視役の」
「は、はい」
「礼は気にしなくて良い。またな」

そう言って徳川さんはトレーニングルームの方へと歩いていった。イルカのキーホルダー、見つかって良かった。お礼は良いと言われたけどまた会った時に何かしよう。




ミッション


(ひなたー! どこに行ったんだよぉぉ!)


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