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お母さんとの別れ


その日、私は朝から齋藤コーチに呼ばれていた。今日は書き込むことが多いから助手をしてくれ、と。何故なら中学生全員が試合をするから。

始めは皆のテニスが観れると浮かれていたけど、シングルスをして負けた方がこの合宿から脱落すると聞かされて絶望した。


そして立海のペアはこうなってしまった。

ブン太とジャッカル、柳生と仁王、柳と赤也、そして幸村君と真田。彼らのうち半分は脱落だ。折角この高校日本代表合宿に呼ばれたというのに、もう帰らなくちゃいけないなんて酷すぎる。


「第一試合は7-0で忍足君の勝ちです。書き込んで下さいね」
「は、はい! ……あ、あの、だっ脱落した人はどう、な、なるんですか?」
「そうですねー、迎えのバスがあるのでそれで此処から去っていただきます」
「そう、ですか」

負けた人にバツを書くのは嫌だなぁ……。


********************


全ての試合が終わり記入した紙を齋藤コーチに渡した。

「ありがとうございます。では僕はやる事があるので、君は残ったメンバーをよろしくお願いしますね」

そう言ってコーチは車に乗って何処かへ向かってしまったけど、私は何をすれば良いのだろうか。

一方で中学生達は脱落した者がバスの前へと集まっていた。赤也と試合をした柳は、あと一点で勝利するところで棄権し脱落になった。


「や、柳せん、ぱい……」
「赤也をよろしく頼む」
「うわぁぁぁん、お母さーん!」
「泣くな。お前にはまだする事があるだろう」
「は、い……」
「咲本の事は彼に頼んでいる」
「彼……? でも私、柳先輩がいてくれないとどうすれば良いか……」
「大丈夫だ」
「……」
「元気でな」

私の頭を優しく撫でて、柳はバスに乗ってしまった。真田や仁王、ジャッカルは何も言わずに乗っていった。こんなの、つらすぎる。それを切なそうに見送る人達。もう、部屋に戻ろうかなと後ろを向いた瞬間、赤也が背後に立っている事に気付き驚いた。

「すまねぇ、ひなた。俺のせいで柳先輩は」
「ちっ、違います! 先輩は託されたんです! 期待されてるんです!! だから頑張ってもらわないと……、こまり、ます……」
「ひなた……。俺、高みを目指すぜ!」
「はい! がっ、がんばりましょう!」

立海で残ったのは、赤也と幸村君、柳生、ブン太かぁ。本当に柳達は脱落なのかな。寂しいな。……あぁダメだ。柳に言われた通り私にはやる事があるんだ。気持ちを切り替えないと。




********************


外がすっかり暗くなった頃、コンコンと部屋のドアをノックする音が聞こえた。

「はい」
「ちょっと話そうぜぃ」
「あ、はい」

ブン太だった。どこか元気がなさげだ。当たり前か、こんな状況なんだから。

部屋で話すのかと思いきや、どうやら違うらしい。歩いていく背中を追いかけながら、何を話すのだろうと悶々と考えていた。


着いた先はソファーがたくさん並んでいるロビーだった。とりあえず座れば良いのかな。すると同じソファにブン太も腰掛けた。

「なんかさ、寂しいなーって思ってよ」
「……そうですね」
「まぁでもアイツらの為にも切り替えないとな」
「そうですね」
「……今頃アイツら家に帰ってんのかな」
「そうですね」
「俺ってこの合宿メンバーの中で一番かっこいいよな」
「そうです……? え?」
「いや、そこで聞き返されても傷つくだろぃ」
「すみません?」

しまった、ついボーッとしてた。しんみりした話なのかなと思ってたけど、流石三年生しっかりしてるや。にしても夜は冷えるなぁ。肌寒い。


「あ、わりぃ寒いよな。これ着とけぃ」

肩にブン太の上着をかけられた。なんだか申し訳ない気持ちになりながらも、あったかくて良い匂いだから素直に受け取った。
良い匂いだからといってクンクンと嗅いでたら、隣で笑われる。今気づいたけど私変態じゃないか!?

「良い匂いだろぃ?」
「あっ甘いお菓子の匂いです。おかし食べました?」
「さっきまで食ってたぜぃ」
「夜食はダメですよ」
「うぐっ、言うようになったなーお前」
「必要以上にお菓子食べてたら、ぼっ没収します」
「じゃあ毎晩俺の部屋見に来ないとダメだな」
「そ、それは……ムズカシイです」

顔を逸らせばブン太にまた笑われた。笑顔が見れるのは良いけど、馬鹿にされているのは気に食わないぞ。

すると突然、これからがんばろうな、と握り拳を向けられた。私も手をグーにしてその拳に合わせる。なんか、仲間って感じがしていいなこれ。




お母さんとの別れ


(さみしいなー……)


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