挨拶回り
幸村君に皆に挨拶してくるよう言われ一人で歩いていた。柳は助けてくれなかったし私どうすれば良いの。
「ひなたー!」
「うわっ」
ブン太は大声で私の名前を呼びジャッカルと一緒に近づいてくる。よし、逃げよう。
「なっ!? 逃げんじゃねぇー!」
「お、おい!」
私とブン太の鬼ごっこが始まった。周りを見れば驚いた顔で此方を見る宍戸と鳳や、微笑ましい表情で見ていた柳生や忍足が目に入った。
「俺から逃げられるわけねぇだろぃ」
「うぐっ」
「あんまり騒ぐと怒られるぞ」
捕まってしまった。何でいつも捕まるの。もっと鍛えて体力つけないとなぁ。
「咲本は俺達の監視役なんだろ。目立つ行動してたら追い出されるんじゃねーか?」
「そ、それは困っ……らないか」
「困るっての」
「いてっ」
ブン太に軽く叩かれた。ジャッカルは呆れた顔してるし、もうなんだこの二人。早く立ち去りたい。
「なぁ俺の試合見てた? かっこよかっただろぃ」
「はい! とても魅力的でした!」
「へへっ、だろぃ」
「そういや咲本は今から何するんだ?」
「あ、幸村先輩に皆に挨拶しろって言われてたんでした」
二人の元を離れ、どこに行こうか迷う。やっぱり安心できる人が良いよなぁ。あ、日吉だ。
「こ、こんにちは」
「あぁ、お前か」
「ひなたちゃん久しぶりやなぁ」
日吉に話しかけたら忍足に話し掛けられた。日吉は無表情でいることが多いけど、やっぱり話し掛けやすい。安心させてくれるオーラがある。
一方忍足は苦手意識は以前よりなくなったものの、自分から声を掛けるとなると難しい。
「日吉に声掛けるんやったら、跡部んとこにも行ったりぃな。落ち込んでたで」
「えぇ……」
そんな私如きに跡部様が落ち込んだりするわけがない。コートで高校生と自信満々に戦う跡部を見て、忍足の勘違いだなと思った。
「何か用があったんじゃないのか?」
「あ、あの、私ここで中学生の監視役をすることになりました。よろしくお願いします!」
「さっきコーチから聞いた」
「え? そうなんですか」
「多分皆知ってるで。ひなたちゃんのこと知らん奴らは、誰のことか分からんやろうけどなぁ」
そういえば立海の皆も私が言う前から、監視役のこと知ってたよね。と言う事は別に皆に挨拶しに行かなくても、皆分かってるから大丈夫って事なんじゃ……?
「挨拶回りに来たんだろ。それならまだ話したことない奴らに挨拶すれば良いんじゃないか?」
「成る程……いや、いやいやむむむ、無理です! 初対面でなんてっ……!」
「ブハッ、俺がついて行ったろか?」
「い、いえ……戻ります」
去り際に二人から応援されたけど、初対面の人にいきなり挨拶だなんてハードルが高すぎるから幸村君に言いに行こう。
だってまだ話したことない人って、比嘉中とか六角中とか他にもまだまだ……って結構いるよ!? 特に比嘉中は本当関わりたくない。部員も怖いし中でも部長が群を抜いて怖い。
「あれ? どうしたの」
「あ、あの……皆さん知ってるんですよね? 私が監視役するの。コーチが言ってたって」
「うん、そうだよ。それで?」
「ぅぐっ……。そ、それで、まだ会ってない人だけに、あっ、挨拶しようと思ったんですけど、ちょっと難しいな、と」
「柳、咲本さんを知らない人ってどのくらいいるの?」
「比嘉中と六角中の全員に、不動峰中の橘、山吹中の南と東方、星徳中、他二人だな」
「へぇ、この子結構顔広いよね」
「そうだな。偵察で青学と四天宝寺に行き、氷帝とは練習試合をしているからな。全員と話したことがあるのは意外だったが」
柳がいない時に出会った人も沢山いるのに、何でそこまで知ってるの。やっぱり怖いよ、柳のデータ。
「そうか。まぁそのメンバーならいいか」
よかった……。そのメンバーならって言うのが失礼な気もするけど。
今から施設の案内をするという放送が流れ、中学生が施設に入って行く。私もまだここの事は全然知らないわけだし、皆と一緒に行って良いのかな。
「私も行った方が良いんですかね? ……ってあれ?」
さっきまで隣にいた柳と幸村君がいない。
「柳君達ならもう行ったで」
「っ!?」
「驚かしてしもた? 良かったら俺らと一緒に行こか?」
「……はい!」
白石優しい。イケメンオーラが眩しいけど。俺らって事は他に誰か……。
「相変わらず小さかね」
「なっ!?」
急に両脇に手を入れて持ち上げられる。突然の出来事に驚くが犯人は予想がついている。それにしても私は赤ちゃんですか!? これ前もされた気がする。
「おおおぉ降ろしてっ、下さい!」
「女性にその持ち上げ方は失礼やで、千歳」
「ならこれで良か?」
「なっ、えっ、ちょ!?」
ななななんで今、私はお姫様抱っこをされてるの!? どうしてこうなった? そのまま歩いていこうとしてるし、白石も「それならオーケーや」じゃないよ! 馬鹿なの!?
高校生からは睨まれてるし、いちゃついてんじゃねーよって言われるし、怖いよ高校生……。
「お、降ろして下さい! 早く行かないと!」
足をバタバタさせるとやっと降ろしてくれた。そして三人で施設に向かう。高校生に目をつけられたらどうするんだ、と怒りを込めて千歳を睨んだが、笑いながら頭をポンポンされるだけだった。
「あの、四天宝寺は全員来てるんですか?」
「うちはユウジと財前が来てないねん」
……苦手な二人だ。二人がテニスしてるところを見れないのは残念だけど、正直あの二人は何を考えているのか分からないから、失礼だが居なくて安心だ。
挨拶回り
(は、やりませんでした)
(もう。柳どこ行ったの)
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