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Came backトリップ

全国大会の日に咲本は消えた。というのは、つい先程思い出した事だ。全国大会からの数ヶ月間、俺達の記憶からは咲本という存在が消されていた。
そして高校日本代表合宿で250個のボールと共に上から降ってきた時に、全員が彼女の存在を思い出す。多くの疑問を推理しても、答えが出てこない確率100%だ。何故なら彼女の存在自体特殊なのだから。

一度コーチに呼ばれ戻って来た咲本は俺の側に張り付くようにいた。顔を見ると以前より少し大人びている。聞くと年齢は俺達より年上の大学生だという。不思議なことだが、これも受け入れるしかないらしい。


ただ、性格はそのまま……いや、人見知りがまた発動している。

俺達には少し警戒心を抱きながらも会話は出来ている。問題は、立海以外の他校の生徒だ。少し会っていないだけでまた人見知りが発動し、慣れるまで時間がかかるようだ。

今も俺の服をきつく握りしめながら下を向いている。氷帝の跡部が近づいて来たのが分かったからだ。

「あーん?」
「……っ」
「久しぶりに会ったってのに、何だお前は」
「……むむむ、無理、です!」
「また人見知りか」
「あぁ、そのようだ」

俺の背後に回った彼女に跡部は、気に食わないとでも言った表情をしていた。代わりに謝罪しておくと、彼はフンと鼻を鳴らし俺たち中学生とボールの取れなかった高校生の試合を見る。

「男所帯で働くとなるとお前にとってはキツイだろうな」
「そそそうですよ! もう何のいじめですか。帰りたい……」
「そう言うな。マネージャーだってやってこれただろう」

無理です、と頭を横に激しく振る彼女だが、俺はある事に気付いた。

「咲本は俺達より3つ程年上なのだろう? 敬語を使う必要はないと思うのだが」
「もう慣れちゃったんですもん。逆に今から私に敬語使えますか?」
「ふむ、難しいな」
「でしょー。一緒です」

跡部も試合に参加するようでラケットを握ってコートへ向かう。その時チラリと咲本を見ていたが、彼女はその事には気づかず、試合をしている丸井を目を輝かせて見ていた。跡部もそうだと思うが、こいつを気に入っている奴は意外にも他校に多い。

咲本はこれから、高校日本代表合宿の中学生の監視役をするようだが、要は俺たち中学生のマネージャーのようなものだ。このまま人見知りが激しいようでは、彼女自身が苦労してしまうだろう。彼女の為にもまた誰とでも話せるようにサポートしてやろうと決めた。

「任せておけ」
「えっ、何がですか?」

年が変わっても身長は変わらないのでいつもやっていた様に頭を撫でれば、彼女はふにゃりと頬を緩ませていた。咲本は撫でられるのが好きという確率が高い。


「柳は行かないのかい?」

後ろから精市と弦一郎がラケットを片手に近づいてきた。俺に隠れて見えなかったのか、咲本の存在に二人が気付く。行かないのかというのは、試合のことだろう。弦一郎は既に試合を終え、高校生に勝ってきたようだ。

「成る程。咲本は此処にいたのか」
「えっと、はい。試合見てました」
「ふふっ、どこに行ったのかと思ってたんだよ。やっぱり柳のところだったんだ」
「ずっとジャージを掴まれていてな」
「えっ!? あ、すみません……」

咲本は焦ってジャージから手を離した。そしてボソリと「無意識でした」と呟いた。無意識だったのか。俺が思っているより彼女はこの環境が不安で仕方ないらしい。

「まだ君の役目を知らない人もいるだろうし、親離れして皆に挨拶でもしてきたらどうだい?」
「え"っ……」
「蓮二は咲本の親ではないぞ」
「うるさいよ真田。だって先に挨拶してた方が、後々ややこしくならなくて良いと思うよ」
「そうなんですか……」

目で助けを求められたが、俺もこの提案には賛成なので「行ってこい」と言うと彼女はトボトボと下を向いて歩いて行った。そんな彼女を見て精市は楽しそうに微笑んでいる。咲本が関わると彼はいつも楽しそうだ。


少し離れた彼女の方へ目を向けると丸井とジャッカルから声を掛けられていた。しかし彼女は走って二人から逃げる。相変わらず丸井から逃げる癖は治っていないようだ。まぁ逃げても追いかけてきた丸井に、76.9%の確率で捕まえられるんだがな。

咲本がこの合宿に参加することで、俺達立海のモチベーションが上がる。同じ様になる者が他校にもいるだろう。
逆にここで初めて会う者も沢山いる。彼女が上手く馴染めるように願うばかりだ。




Came backトリップ


(咲本の目がまた助け求めていたが)
(助ける事なく手を振ると)
(彼女は怒りを露わにして歩いて行った)


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