Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -


テニスしませんか?

「青学vs.立海は、6vs.4で青学の勝利! よって全国大会優勝は青学!」



ーーとうとうこの時がやって来てしまった。

全国大会で優勝するのは、立海ではなく青学。それは分かっていた事だ。だけど、悔しそうに顔を歪める皆を見ていると私もやっぱり悔しくて……。ボロボロと出る涙を止めることはできなかった。

「すまない、皆」

幸村君が謝りながら皆の元へ近づいてきた。私も涙を拭いて駆け寄る。赤也は肩を上げて泣いていた。

「っく、うっく、幸村部長。俺感動したっス!」

「そんなに泣くものじゃないよ」

真田が幸村君にタオルを渡す。二人とも柔らかい表情だった。青学はリョーマを胴上げして優勝を喜んでいた。私だけでなく皆も青学の方を見ていたのに気づいた。私はスゥッと息を吸って皆の顔を見る。

『皆さんは強いです。ずっと見てきました。……だから、胸を張って前を、前だけを見てください! 皆さんが努力して頑張ってる姿が私は大好きです。これからもその姿を見せてほしいっ……』

「咲本さん……」

『でも……でも、やっぱり……悔しいですっ……!』

そう言うと皆も目に涙を溜めた気がした。いっぱいの涙で視界がぼやける。頭に乗った手が優しく撫でてくれた。皆を慰めたいのに言葉が出てこない。柳に泣きつく事しか出来ない自分に腹が立つ。


『うぅ……』

「大丈夫だ、伝わっている」

顔を上げて周りを見渡せば、皆笑顔だった。ホッと安心する。整列の呼びかけがあったので、私は観客席に戻る。青学に優勝トロフィーが渡されるのを見ると、立海は準優勝だったのだなと改めて実感した。

解散が言い渡されると、皆は荷物を持って集まった。

「この後部室でパーっといこうぜぃ!」

「良いですね」

「柳生先輩珍しくノリ気っスね!! 俺も賛成っス」

「帰ってテニスか。良いだろう」

「弦一郎は膝が治ってからだな」

「むっ」

皆が楽しそうに話しているのを見て頬が緩む。ふと足元を見ると自分の影がなくなっている。柳と話をしたあの時みたいに。

『……っ、』

そっか、この物語は、全国大会のここで「おわり」なんだ。でもどうかあと1日だけ……。そう願って下を向いていると頭の上から声がした。

「咲本、変わったな」

私が変わった? えっ、と柳に返すと幸村君がそうだね、と頷いた。

「転校してきてマネージャーになって、君は随分変わったよ。勿論良い意味で」

「相変わらず俺を見ても逃げるけどな」

『う"っ……』

「それはブン太が大声で呼ぶからだろ」

もしかして、全国大会が終わったから「おわり」なんじゃなくて、私がこの世界に来て自分を変える事が出来たから「おわり」なんだ。あの子もそうだった。


……あれ? あの子って? この世界に来た子がもう一人居たはず。だけど、記憶がはっきりしていない。

多分、多分だけど、この世界から消えたら皆の記憶から存在を消されるんだ。だからきっとあの子も。


私ももうすぐこの世界から居なくなって、皆に忘れられるんだ。ここにいる皆にもチーちゃんにも、他にもこの世界で出会ってきた人達みんなに。


『あぁ、やだなぁ』

「変われたのに嫌なんか?」

『……いえ。変わったって思ってもらえるのは嬉しいです。変われたのはここにいる皆さんのおかげですし』

「じゃあ、」

『忘れられたら嫌だなぁ、って』


「先輩達は卒業するけど、俺達はまだ残ってんじゃん」

「忘れねーよ、バーカ」

『わわわっ!?』

赤也とブン太に髪をワシャワシャと雑に撫でられた。その後も「咲本さんは馬鹿だね」と幸村君に言われ、真田や柳生にまで同意され少し腹が立ったが安心した。その言葉だけで充分だった。




********************


学校に戻りいつもの部室に入る。こことももうすぐお別れになるのかな、なんて考えると泣きそうになる。この世界で出会ってきた皆とはもう会えないのだろうか。

「泣いとるんか?」

仁王がぼそりと聞いてきた。目に涙が溜まる。瞬きをしたら涙が零れ落ちそうだ。

『なっ、いて……ません』

そう言うと仁王は何も言うことなく、ポンと私の背中を押した。

ジャージの袖でゴシゴシと涙を拭いた。泣かない。泣いちゃダメだ。周りを見渡せばいつも通りの皆。

「お菓子持ってきたから皆食べるだろぃ」

「ったく、太るぞ」

「うるせージャッカル」

「ドリンクも沢山余っていますよ」

「じゃあパーティしましょうよ!パーティ!」

「何のパーティーだ?」

「全国大会お疲れパーティーに決まっているだろう、真田」

「咲本もほら。お菓子を今食べておかないとすぐに無くなる確率78%だ」

『はいっ……!』


もう居なくなってしまうのなら。皆の記憶から消されてしまうのなら。本当のことを伝えて楽になっても良いだろうか。私が何処から来たのか隠したまま消えるなんてそんなの嫌だ。私がここで最後にやりたいことをした後に伝えても良いかな。

悶々と考えていても仕方がない。私は大きく息を吸い皆に向かって言った。




テニスしませんか?


(最後の思い出に)
(皆は笑顔で頷いてくれた)



prev / next

[ back ]