マネージャー
今日はなんと、全国大会初日。関東大会は残念な結果だったけど、今回は皆気合十分だ。原作をじっくり読んだことがない私には今漫画でいう何巻なのか全く分からないが、全国大会という事は物語の終盤まで来ているのではないかと予想できる。
いつの間にそんなに時間が経ってしまったのだろう。私がこの世界にトリップしてから色んなことがありすぎて、あっという間に時間が経ってしまった気がする。
受付の方へ向かう途中、他校の生徒が立海の皆に怯えているのが分かる。レギュラーの後ろを歩いているけど怖い。確かに怖い。あんまり目立たない様に下を向いて歩いていたら、ドリンクのボトルが転がってしまった。立ち止まり誰かの足にボトルがぶつかる。
『……す、すみませっ』
その人がボトルを拾うと同時に私も顔を上げる。見たことのない人だ。その周りにはその人と同じジャージを着た人達がいる。
「キミ、立海マネージャーなの?」
複数の男子に囲まれ、手が震える。ひぃぃぃぃ……どうしてこうなったの。コクコクと頷くとその人達は怪しげに口角を上げた。
「あいつらの弱み、教えてよ」
「立海のマネージャーって、一人だけだろ? こいつに何かしたら試合どころじゃないんじゃねーの」
弱みかぁ。寧ろ私が知りたいんだけどな。突然、男子の一人が私の手を引っ張り何処かへ連れて行こうとする。そして他の人達も付いてくる。え、どうしよう。
「場所変えようぜ」
「そうだな」
『……ああああのっ』
「あ?」
『わ、私がいなくなっても……皆、こ、困らないと、おもい……ます、けど』
「困るに決まってるでしょ」
頭に手を置かれる。後ろから聞こえるこの声は、幸村君? 前にいる他校の生徒達を見ると、顔が青ざめている。手も気付かないうちに解放されていた。
「うちのマネージャーに手を出すとは良い度胸してるのぅ」
「アンタら、潰すよ」
皆の威圧的な態度に焦りながらそそくさと去って行った他校の生徒達。たとえこの人達の弱みなんて知ったところで、試合でうちに勝つなんてあり得ないと思うんだけど……。
「ちゃんとついてこないとダメだろう」
柳に叱られ謝ると、「リードでも付けておくべきだったかな」とボソリと幸村君の口から溢れた言葉は聞き間違いだと思いたい。
「もうすぐ二回戦目が始まる。急ぐぞ。遅れるなどたるんどる」
二回戦は流石立海、と言うべきだろうか。皆余裕の表情で全勝だった。用意していたタオルやドリンクは必要なかったようだ。
確か、全国大会の決勝では立海は原作の主人校でもある青学と試合するはずだ。そして、結果は……。いや今は何も考えないでおこう。
「帰るぞ咲本。また誰かに絡まれると、リードを付けられる事になるが良いのか?」
『なっ!? だだだ大丈夫です!ちゃんとついて行きます』
先の事は考えないように、考えないようにーー
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立海に戻ると皆はテニスコートへ向かった。試合が終わっても練習なんてすごいなぁ。ボールやネットの準備をしようとしたら、上から水がポツリと落ちてきた。
「降ってきたぜよ」
「大雨になる確率90.4%だ」
「幸村、どうする」
「そうだね……試合で疲れている者もいるだろうし、今日は自主練にしようか。今から大雨になるんじゃ、明日の試合は中止だろう」
幸村君の指示により、帰る人と自主練に向かう人に分かれた。私も自主練に付き合った方がいいよね。タオルを用意するために部室へ向かおうとすると、耳元で幸村君が私の名前を呼んだ。
「ねぇ。今からデート、しようか」
『えっと、あのっ!?』
返事も出来ないまま幸村君に腕を引っ張られ、転けないように必死に足を動かす。後ろからブン太や赤也が何か叫んでいたが、雨の音で何を言っているのか聞き取れなかった。
マネージャー
(えっ、いきなり……どうしたの!?)
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