Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


全て終わらせます

(柳side)

水無月綺乃がテニス部のマネージャーになってからというもの、咲本はいつも以上に静かだった。原因は咲本より水無月の方が部員から頼られているからだ。

落ち込んでいる咲本に声を掛け部室に連れてきたが、「水無月に嫉妬しているのだろう」とはっきりと言い過ぎてしまった。咲本は怒っているようで、それでいて悲しそうな表情で部室から飛び出した。

言うつもりだった。お前は俺たちに必要な存在だと。しかし言えなかった。咲本は少し意地っ張りな所があり、それを理解していたはずなのに俺は……。

「……俺が悪い確率68.8%」



次の日の部活では、咲本からの視線を感じていた。しかしどう接していいのか分からず、その視線に気付かないふりをした。そして休憩の時間になり、ドリンクを飲むといつもと味が違う。正直に言うと不味かった。咲本が作った様だが、一度もこのような味のドリンクを作ったことがない。咲本が作ったものではないのか、それともただ体調が優れないのか。結局どうなのか分からないまま、その日の部活は途中で帰ったようだった。


その日から咲本の顔色がだんだんと悪くなっていたのを見てとれた。

精市に聞くと咲本の靴箱が汚されていたらしい。その後も汚れた教科書やノートを持って廊下を歩く咲本を見かけた。部室のロッカーには俺達の写真やデータの書かれたノートがあり、誰も咲本の味方をしなかった。寧ろ自分は疑う言葉を言い放った。その時の咲本は深く傷ついた顔をしていて、自分は何をしているのだろうと思った。

咲本は虐めにあっている。それは確かだった。


そして偶然見てしまった。咲本のジャージをカッターで破く水無月の姿を。

気づかれないように無音カメラでパシャリ。止めることは出来たが、何故水無月が咲本のジャージを破いてしまったのか気になる。二人は仲が良さそうに見えた。一体何があったのだろう。


「ごめん……ひなたちゃん。ごめんね」

自分で破いたジャージを抱きしめ、水無月は膝をついて泣いていた。その光景に俺は瞠目した。水無月が何を考えているのか全くわからない。

「こんな事するはずじゃなかったのに、でも止まらなくて……。うぅ、ぅ……良い子なのに、邪魔なのっ……」


泣き崩れる彼女に俺は何も声を掛けることはできず、その後ゴミ集積所にジャージを捨てたところまで見ていた。自分はどう行動しようかと悩んだ。今咲本に必要なのは誰かからの助け、癒しだ。ゴミ集積所までジャージを探しに来た咲本を見つけると、俺は丸井がそちらを向くように仕向けた。丸井は焦った顔で咲本の元へ行く。これで丸井は咲本が虐められている事に気付き、後にジャッカルも気づくだろう。




********************


「というわけだ。俺は何もできなかったんだ……。本当にすまない」

『あ、い……いえ』

咲本は混乱しているのが見て取れた。恐らく水無月の事を疑いもしていなかったのだろう。

「でもどうしてきのちゃんは泣いていたんでしょうか」

「それは分からない。分かるのは水無月には何か大きな隠し事がある、ということだけだ」

隠し事、と小さく呟いた咲本は下を向いていて表情は見えなかったが、何か分かっているのかもしれない。ゆっくりと顔を上げた咲本は覚悟を決めた顔をして、口を開いた。




全て終わらせます


(私もあの子も)
(消えてしまうかもしれないけれど)



prev / next

[ back ]