癒す波
テニス部のファンクラブの人達と分かれて、教室のドアを開けると、暫く話していなかったチーちゃんと目が合った。
「ちょっと話があるの」
『うん』
私が頷くと、チーちゃんの足は空き教室に向かった。空き教室のドアを閉めると真剣な表情で此方を見ている。何を言われるのか不安になりながらも、どうしたのか尋ねてみる。
「これ、見て」
スッと出されたのは一枚の写真。
『え、えっ……、なん……』
何で、どうして……。どうしてきのちゃんが、私のジャージを破いているの?
「見ての通り、あの子がひなたちゃんのジャージをボロボロにしたのよ」
『……っ』
言葉が何も出てこない。驚き、憎しみ、悲しみ、色んな感情が混じって胸が痛い。下唇を噛むと涙が出てきた。
『きのちゃんが……なん、で』
手で涙を拭うと、ハンカチが差し出された。
「この写真、誰が撮ったのか知らないけど、私の机の中に入っていたの」
『……』
「ひなたちゃんは、きのちゃんの事を信じていたのは知ってる。あの子を信じるか信じないか、それで私達もこの間から喧嘩してた。もう分かったでしょう。ひなたちゃんを虐めてるのは、水無月綺乃よ」
きのちゃんが、私を虐めてた犯人……。何故だろう。あんなに仲良くしてくれていたのに。何故私を……。
「それでもまだ疑えないって言うなら仕方ないわ。……でも、私達そろそろ仲直りしたいんだけど」
バッと顔を上げると頬を染めてそっぽを向くチーちゃん。私もずっと仲直りがしたかった。チーちゃんと話したかった。
『仲直りしたい!!』
「ふふっ、じゃあ仲直りね」
『うん』
そして、先程の靴箱の件について私はチーちゃんに話した。やっぱりか、と予想していたかのような反応だった。しかし前の江崎の時のようにチーちゃんには迷惑をかけたくない。きのちゃんがどうしてこんな事をしたのかを聞き出さなければならない。それにはまだ情報が足りないのだ。
今日の放課後、きのちゃんに見つからないようにテニスコートに言って、皆と話をしよう。
********************
放課後、部活が終わる頃にこっそりとテニスコートへと近付いた。まずはブン太やジャッカルと話さなければならない。三強には会うと気まずいので絶対に会いたくない。ブン太にメールで、部室の裏で待っていると送り、皆が帰ったらすぐに行くと返信がきた。
不意にガサリと後ろで草を踏む音。振り向くと、会いたかったが会いたくない人がいた。ずっと話したかった。でも話せなかった。
『や、なぎ先輩』
「咲本、何故ここにいる」
『そ、それは……』
それよりもずっとずっと言いたかった言葉。言わなければならない言葉があった。
『すみませんでした。あの時いきなり怒鳴ってしまって。慰めてくれようとしていたの、分かってました。なのに私は、』
「……いや、こちらこそすまない。俺もムキになってしまった。咲本のロッカーから写真とノートが出てきた時、疑うような事を発言した。傷ついただろう」
頭をぶんぶんと横に振ると、久しぶりに優しい手が私の頭を撫でてくれた。
「ロッカーの事なら心配するな。もう犯人は分かっている」
『えっ?』
「水無月綺乃がやった事だ。本人にはまだ伝えていないが、レギュラーも全員知っている。写真は写真部の奴が撮ったもので水無月から頼まれたようだ。ノートは水無月本人が咲本の字体そっくりに書いたものだった」
ロッカーもきのちゃんが……。きのちゃんとは友達だと思っていたのに、そう思っていたのは私だけだったのかな。
ここでは誰かに聞かれるかもしれない。場所を変えよう、と柳は校舎内の誰もいない教室へと向かった。廊下で鞄を持ったチーちゃんを見つけ、立ち止まる。
「ひなたちゃん。と、柳先輩」
『あ、チーちゃん』
「時間があれば、海野も来てくれ」
「え?はい」
扉を閉めると柳は、写真を取り出した。今朝チーちゃんに見せてもらった写真と同じものだ。
「あ、これ、私の机に入ってた……」
「あぁ、俺が入れたものだ」
『「えっ!?」』
「聞きたい事は色々ありますけど、何でひなたちゃんじゃなくて私の机に入れたんですか?」
「話すきっかけができ仲直りできる確率が高かったからな」
「喧嘩してたの知ってたんですね……。まぁ先輩の予想通り仲直りできましたし良かったです。ありがとうございます」
『お、お母さん……!』
「それとこの事について少し長くなるが、聞いてほしい」
私とチーちゃんがこくりと頷くと、柳は口を開いた。
千の海 全てを呑み込みーー
癒す波
(海野 千栄、)
(やっぱりチーちゃんは私の最高の友達)
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