Noウェイ!?とりっぷ | ナノ
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一つ、解決

跡部達が咲本とはぐれていたことなんて知りもしなかった忍足と水無月は、遊んでいるわけでもなく、ただぶらぶらと歩きながら会話をしていた。

「最近立海に転入してきたらしいな」

「はい、そうなんです。だからまだ友達が少なくて」

「じゃあ俺が友達になるで。水無月さんのこと色々聞かせてぇな」

「え、本当ですか!?嬉しいです」

寂しそうに言う水無月に忍足が笑顔で答える。水無月は自分に興味を持ってもらえたのかという喜びを隠しきれなかった。

「ひなたちゃんはテニス部のマネージャーしてるけど、水無月さんは部活してるん?」

「私もひなたちゃんと一緒にマネしてます」

「……ふーん。そうなんや。最近はひなたちゃんが部活行かれへんから、一人でやってんの?」

「はい。一人だと少し寂しいですけど」

「大変やなぁ。そういえば何でひなたちゃんは部活行かれへんの?」

「その……テニス部のジャージがボロボロになってるんですよね」

「へぇー。そうなんや」

忍足は水無月と話す前に、いじめについてある程度咲本から聞いていた。新しい情報を手に入れた忍足は、もう水無月と会話する必要がなくなったのである。


「それより私忍足さんの話も聞きたいです」

「あ、そろそろ跡部達と合流しよか」

「は、はい」

そう言って、スタスタと歩く忍足。
以前、忍足と咲本は仲が悪かった。しかし今は忍足の方が咲本に懐いているよう。彼女のために彼は他人に嘘の微笑みをする。




********************


日吉とお化け屋敷を出た後、スマホに電話がかかってきて、観覧車前に集合することになった。私と日吉が一番に着いたみたいで、すぐに忍足ときのちゃんと合流した。


「ひなたちゃん皆とはぐれてたんかいな」

『はい……』

「日吉と二人っきり……なぁ?」

「……なんですか」

ニヤニヤした顔で私達を見る忍足。そして私の手を取り観覧車へと走った。

『えっ、ちょ!?』


後ろを見るときのちゃんも日吉も驚いた顔。前を見ると口角を上げた忍足。何が何だか分からない。

観覧車に乗せられ、忍足は正面に座った。ガチャ、と鍵の閉める音が聞こえ、窓から外を見ると日吉達の元に跡部達が近付いているのが見えた。それにしても何故私は観覧車に乗せられたのだろうか。

「日吉と何か乗ったん?」

『あ、お化け屋敷に行っただけで……』

「お化け屋敷か〜。キャーって抱き着いたりしたんちゃう?」

『そっ、そんな事は』

「……」

『……』

スッと目をそらすと忍足はふうん、と口角上げて言った。


「それよりも、ひなたちゃん。良い情報が手に入ったで」




********************


『ふぅ……』

氷帝の人達や、きのちゃんと分かれ家に帰った私は、先程の会話を思い出した。

「あのお嬢ちゃん、ひなたちゃんのジャージがボロボロで部活に行かれへんこと知ってるみたいやで」

そう忍足が言っていたが、何故きのちゃんが知っているのだろう……。

「あの子がやったんちゃうかなぁ」

最後に小さく呟いた忍足の言葉は、はっきりと私の耳に届いていた。きのちゃんは良い子だし、そんなことするはずがないと信じている。しかし半分疑っている自分もいる。

部室のロッカーのノートや写真の件については、ブン太とジャッカルに任せているし、部室の鍵はどこに行ったのか分からない。早くジャージや靴箱を汚した犯人を見つけなければ……。




********************


朝、私の靴箱の前には複数の女子がいた。恐らく上級生だと思われる。浮かない顔をした二人と、眉を寄せている綺麗な人。一体どうしたのだろうか。

美人さんは私に気付いたのか、私の元に駆け寄ってきた。

「咲本さん!」

『え、あっ、はい』

「ほら、貴方達」

「「咲本さん……本当にすみませんでした」」

何故か二人に頭を下げられ、美人さんも頭を下げた。なにこれ、どうなっているの。すると分かるように美人さんが説明してくれた。

「咲本さんの靴箱が汚れている日がありましたよね?それはこの子達がしたものなんです」

『えっ』

「テニス部レギュラーのファンクラブ会長である私が、それに気づかなかったなんて……。咲本さんには本当に申し訳ないことしました」

テニス部のファンクラブの会長?この美人さんが?眉を垂らした顔も綺麗……ってそんなこと考えている場合じゃない。

つまり、私の靴箱にゴミを入れたりしたのは、この二人だということ。そして恐らくこの二人はファンクラブの人達で、会長に見つかってしまい謝りに来た、というわけか。

自分の下駄箱の中には腐った食べ物やマネをやめろ、役立たずなどと悪口の書かれた紙、そしてボロボロになった上履き。あの時はとても傷ついた。この人達にも同じ事をやり返してやりたいくらい怒りがこみ上げてくる。

『……あの』


私が彼らに必要ないのは分かってるーー

『私が役立たずなのは分かっています』


私がいなくても……でもーー

『それでも私はマネージャーをやりたいんです。テニスをしている皆の支えになりたいんです』

正面に立つ三人は驚いた顔をしていたが、美人さんはすぐに微笑んだ。

「私は貴女がマネージャーで良かったと思っています。だから、どうかこれからも頑張ってほしいのです」

「そ、その……私達も、嫉妬してこんな事をしてしまったというか。本当に酷い事をして、ごめんなさい」

「ごめんなさい」

『は、はい』

恐らくこの二人は、美人さんのキツイ説教を受けたのだと思う。許す、許さない以外に私は何をしたらいいのか分からない。

『……つらくてほんと悲しかったですけど、同じ事を繰り返さないと誓うなら許します』

少し睨むように二人をジッと見ると、二人は「誓います」と目に涙を溜めながら激しく頷いた。「それでは」と頭を下げて教室へ向かおうとすると、後ろから声がかかった。


「水無月綺乃には気を付けてくださいね」

『え?』

「その子の言葉でファンクラブの子達が、貴女に恨みを持ち行動したのですから」

さらりと髪をなびかせ、去って行った美人さん。きのちゃんの言葉で?どういう事……?




一つ、解決


(次はジャージを破いた犯人を)



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