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エースと話す


 今日はルフィが静かだ。そう感じたのは島に着いた時のこと。いつもなら飯だと言って一番に船から降りるのに今日は皆と一緒に行動している。

 今回着いたのはジャングルのような島で二手に分かれて行動する事になった。私はルフィとサンジ、チョッパー、ジンベエと一緒だ。私は非戦闘員なのに人数の少ない班で大丈夫だったのかな、なんて心配したけど船長のいる班だ。私が足を引っ張らなければ大丈夫だろうと思って皆の後ろをついて行く。

 木の棒を持って鼻歌を歌いつつもやはりいつもより静かなルフィ。その様子に気づいていたのは私だけではなかった。

「ルフィ、今日はやけに静かだな」

 ぼそりとサンジが呟いた。その言葉に頷くと後ろからジンベエが何か思い出したかのように「ああ」と声を出した。

「今日はエースさんの命日じゃ」
「エースさん?」
「渚ちゃんは知らねえよな。ルフィの兄貴だ」
「そうなんだ」

 前に助けてもらったサボさんの他にもう一人彼にはお兄さんがいたんだ。でも命日ってことはもう……。

 先を歩くルフィを見つめながらジンベエの話を聞いた。ルフィは目の前でお兄さんを失い、その後は心身ともに大変だったそうだ。


「なんだー? あれ」
「どうしたんだルフィ! 何か見つけたのか?」

 突然大声を出したルフィにチョッパーが駆け寄り、私たちも向かう。首を傾げたルフィの前には小さな神社があった。覗き込むと中にはご神体として宝玉が祀られていた。

 何だこの玉、とあろうことかルフィは宝玉に触れた。それをジンベエに怒られていて彼の手から宝玉は落ち、私の足元に転がってくる。拾おうと宝玉に触れた瞬間、光に包まれ目を閉じた。


********************


 目を開けて見えた光景は先程までとは違い、ジャングルではなく海岸だった。周りにいた皆はいなくて、代わりにいたのがオレンジ色のテンガロンハットに黒色の短いズボンを履いた筋肉の素晴らしい青年。

 どこか別の場所に飛ばされたらしい、と混乱する状況のはずなのに何故か私の頭は冷静だ。隣に座り此方を向く青年に声を掛けた。

「あなたは……」
「おれはエース」
「エース……? ルフィのお兄さん?」
「おっ、弟を知ってんのか」
「はい。えっとでも……あれ?」

 確かエースさんは……。目の前にいるのが本当にルフィのお兄さんなら、もしかして今いるのは過去? いやいやそんな馬鹿なこと……あるだろうな。現に私は別の世界からトリップしてきた訳だし。

「どうした?」
「いま何年……って聞いても分からないか。あの、ルフィの手配書って持っていたりしませんか」
「アイツの? 持ってるが、この前懸賞金がついたばっかだぞ」

 ほら、と渡されたルフィの手配書は私の知っているものではなく、懸賞金は3000万ベリーだった。今は億超えだったはず。

「どうしよう。エースさん、私未来から来ちゃったみたいです……」
「はぁ!?」

 何言ってんだとでも言いたげな表情だ。そりゃそうだ。私も信じられない。しかし彼はあんぐりと開けた口を閉じて、真面目な顔をした。

「そうなのか、大変だな。帰れる方法分かんのか?」

 信じる彼に思わず声が漏れた。驚く私に彼は首を傾げる。

「だってよ、おれがここで休んでたら急に隣に現れたんだぜ、お前。只者じゃねえってくらい分かる。能力者か?」
「能力者ではないです。宝玉に触れて気付いたらここに」
「へえ、災難だったな」

 そうだったんだ。でもそんなにあっさり信じてくれるなんて流石ルフィのお兄さんと言うべきか。彼は折角なんだ、話をしようぜと話を切り出した。太陽のように眩しい笑顔はどことなくルフィに似ている。

「ルフィを知ってんだろ? 未来でも元気にしてんのか? アイツ……って、未来人に未来のこと聞いて良いのか?」
「さ、さあ。でもルフィはいつも元気で、あと……仲間思いな人です」
「そっか、未来でもアイツが変わらず笑っていたなら良かった。そういやお前……っと、名前聞いてなかったな」

 自分の名を伝えると彼はニッと口角を上げて話を続けた。

「渚はルフィの仲間なのか?」
「はい。彼に拾ってもらいました」
「そうか。ならアイツの元に返してやらねえとな」
「……私、戻れるのかな」
「大丈夫だ。戻る方法は今は分かんねえけどおれがちゃんと返してやるよ。それに渚がいなくなったことをルフィは知ってんだろ? アイツを信じろ」

 コクリと頷いたのと同時に眩しい光に包まれた。きっと戻れるんだろうとそんな予感がした。目の前の彼は驚いた顔をしながらも、片手で帽子をおさえながら「アイツをよろしく頼む」と笑った。




 次に目を開けた時には視界いっぱいにルフィがいた。ぼんやりとした頭を動かし、戻ってきたんだと理解する。

「ルフィ……」
「よかった! 渚が起きた!」

 周りには皆がいて、ほっと胸を撫で下ろした。チョッパーに大丈夫かと身体の心配をされ、何ともないと答える。私は宝玉に触れた瞬間、しばらく意識を飛ばしていたらしい。

「私、多分過去の世界に行ってたみたいで」
「そうなのか!? おれ達には会ったか?」

 エースさんに、と言うと彼の肩がぴくりと上がり、下を向いた。麦わら帽子が顔に影を作って、彼がどんな表情をしているのか分からない。どうしよう、お兄さんの話はしない方が良かったんじゃ……。

「あっ、あの……「エースに会ったのか!?」」
「お前、おれ達といない時にシャンクスと会ったり、今回はエースに会ったんだろ? スッゲーな!」
「う、うん」
「エースは、元気だったか?」
「うん。明るくて優しい人だった」
「そっか」

 ニシシと笑うルフィに鼻がツンとした。「あと……」と付け足すと彼は口を閉じて私の言葉を待った。

「笑顔がルフィにそっくりだった」

 そう言うとルフィは嬉しそうにまた笑った。そしてエースはスッゲー強くてよ、とお兄さんの話を沢山してくれた。

 彼に会えて良かった。